プロオーケストラの感染防止対策について
4月下旬から3度目の緊急事態宣言が発出され、無観客での開催要請もあって東京でのオーケストラの公演はほとんど全て中止となりました。僕自身、5月16日までの公演で残ったのは1つだけ。これで補償もないんですから、正直参っているというのが本音です。
最初の緊急事態宣言の時は「今だからこそやれる事を」といろいろな事を実行して充実した時間を過ごしていましたが、今回は何だかやる気が無くなってしまって、正直練習時間も半減しています。ここで無理するとメンタルが壊れそうなので、あえて頑張らずダラダラしていますが。
ちなみに昨年の夏頃から再開した日本のオーケストラの公演においてクラスターが発生した事例というのは一つも報告されていません。海外は別ですけどね。そこは国民性の違いもあると思います。
昨年は世界中のオーケストラが専門家と手を組み、コンサートにおける、特に管楽器の飛沫に関しての検証実験をしてきました。結果、一定の距離を保てば問題ないとの結果も出ましたから、こうした実験結果をもっと政府や世間に訴えていくべきですし、プロオーケストラでも各々独自の対策をしているものの、ルールが統一されていないので、「こうするべき」というルールの共有が必要なのではないかと思います。
そこで、今回は僕が関わっているオーケストラを参考に、どのような感染防止対策を行っているか、書き出してみようと思います。この状況においてマスク着用とアルコール消毒、手洗いなどは当たり前なので記しません。
【宣言下での開催について】
緊急事態宣言下での開催についてはほぼ無観客での配信または中止か延期。これについては5月6日、日本音楽事業者協会、日本音楽制作者連盟、コンサートプロモーターズ協会、日本音楽出版社協会の4団体が政府に対して『無観客開催』要請の撤廃を申し入れました。これで事態が好転する事を強く望みたいと思います。→5/6夕刻、無観客は撤廃の予定と発表
オーケストラの公演を無観客でやれって、どうやって収益を出せというんでしょうね。配信するのにどれだけの準備とコストがかかるのか分かってるんでしょうか。ITの知識など皆無に等しい政治家は分かってないでしょうね。これはつまり中止、休業要請と同じ意味合いと捉えて良いのではないでしょうか。それなら補償しろって話ですね。だってオリンピックはやるんでしょって。
【座席数】
コロナ禍での通常認識は座席数半減。これはホールや楽団、スポンサーによってある程度バラつきがあるようです。1席おきにしているところもあれば、2席続けて1席空けるといったスタイルに移行している場合もあります。
【聴衆の入場】
お客様については、チケットはご自身でもぎって頂き、プログラムは置かれたものを自身で取るというのがコロナ禍での通常となりつつあります。
【聴衆の退場】
演奏会終演後、お客様は密を避けるため、アナウンスに従って後列から退場して頂くスタイルが主流。
【出演者の検温】
楽団によってはリハーサル初日まで2週間分の出演者の検温票の提出を求められます。これは実施していない楽団が多いのですが、どの楽団でも「日頃から検温記録をつけて、万が一感染した際にすぐ提出出来るようにしておいてください」とは言われます。僕自身、この1年毎朝の検温の記録をスマホアプリに残しています。
37℃を多少超える発熱でも公演への出演は自粛を求められる事が多いようです。
【他県への移動】
ツアーなどで他県に移動する場合はPCR検査で陰性を証明する事が必要です。
【楽屋】
意外と知られていませんが、多くのオーケストラで燕尾服は着用していません。これは楽屋が密になる事を避けるためです。家からスーツを着てきてそのまま演奏し、公演が終ったらそのまま帰宅する事が求められます。ただ、楽団によっては燕尾服着用のところもあるようです。
それから、ゴミは全て各自持ち帰りとしている楽団もありますね。
【管楽器の唾用シート】
管楽器が唾を捨てるシートは楽団が用意し、使用済のものはステージスタッフが手袋をして処分しています。
【リハーサル時の客席使用】
どこの楽団も本拠地となるホールがあります。これまでは客席に荷物を置いたり、降り番の時に客席で練習を聴いたりすることが出来たのですが、コロナ禍では座席使用禁止のところも増えました。使用出来たとしても名前の書いてある椅子を使用するとか、または自分が座った椅子は自身で消毒するなどのルールに従っている楽団が多いです。
【差し入れ、接見禁止】
出演者への差し入れや公演後の出待ちは原則禁止されています。楽団によっては、事前に予約された者のみ接見可の場合もありますが、ここは来場者のモラルに委ねられますね。
【演奏中のマスク着用】
基本的に管楽器はマスクをしません。これは単純にマスク着用では演奏出来ないからですね 笑 さらに、既に飛沫に関する検証実験結果が出ているからでもあると思います。
弦楽器については個々の意思に任せ自由としている楽団が多いのですが、何となく周りが着用していると自分だけしない訳には、という同調圧力は感じざるを得ません 笑
僕自身は演奏中に喋る訳でもないので、マスクは不要と考えています。事実、演奏中にマスクをしない楽団でも、僕は演奏が終わった瞬間にマスクを着用するように気をつけています。
【弦楽器の譜面台】
昨年の演奏会再開後、しばらくは譜面台を1人1本の「吹奏楽スタイル」にしている楽団もありましたが、現在は2人で1本のプルトスタイルに戻している楽団がほとんど。弦楽器の飛沫リスクはほとんど無いと言えますから、個人的にはアンサンブルの観点からもこれで良いのでは、と感じています。
【会食】
知る限り、本番後の呑み会はまずほとんど無くなりました。寂しい話ですが、良い演奏をした時ほどが「うわー、今日は一杯いきたいよねえ。いつになったらこの後呑みに行けるんだろうねえ」という言葉が飛び交うのが日常的になってきました。
本番前などの食事も、基本的には1人、多くても2人くらいで行くケースがほとんどですし、外食せず家からお弁当を持参する人も増えました。
これは楽団から決められている訳ではないので、個々が感染防止を意識している証拠とも言えるでしょう。自分一人のために楽団の活動を止める訳にはいかない、という決意の表れでしょうね。特にフリーランスのプレイヤーはかなり意識が高いと思います。
ただ、僕自身大きく反省しているのが、先月、少し気が緩んでいた事もあって、本番前に4名で食事に行った時のこと。
もちろん食事の時以外はマスク着用だったのですが、久しぶりの大人数での食事が楽しくて会話が弾んでしまい、気づけばかなり大声になっていました。「にぎやかだねえ、あそこは宴会?」「いえ、4名様なんですけどね」という他のお客さんと店員さんの会話が聞こえて来てハッと我に返り、「そろそろ楽屋に戻ろう」と他のメンバーに声をかけたのですが、一定人数揃うと気づかぬうちに声が大きくなってしまうという現実を突きつけられた瞬間でもありました。この時から再び食事は最大2人までと自分の中のルールを見直しました。
こうした基本的なルールを徹底して守っていて、さらに演奏中は聴衆が全員同じ方向を向いて話す事もなく演奏を聴いている訳ですから、少なくともクラシックコンサートにおいて演奏中は全く危険性は無いと言い切れると思います。
結局のところ、コンサートにおける感染リスクというのは演奏中ではなくその前後にあるんですよね。出演者なら楽屋、聴衆ならロビーでの立ち振る舞いが大切になると思います。
出演者に関して言えば、先ほどまで挙げたようにプレイヤーはかなり気を遣って生活していますが、先日ある演奏会を聴きに行った際に、ロビーや客席での振る舞いについては今一度注意が必要なのではないかと感じた事がありました。
マスクを着用しているとはいえ、客席で、近距離でしかも大声で話していたり、ロビーで集まってそこそこ密な状態で会話をしていたりと、僕から見るとゾッとするような光景がありました。
普段オーケストラと関わりの無い人なんかは終演後に平気で楽屋挨拶に行ってしまう。それがお偉い先生だったりすると挨拶に来られた方はお断りも出来ないし…、と困惑する事になります。こうした内容については、SNSなどでもどんどん発信していく事も必要でしょう。
あるホールのステージマネージャーが「アマチュア楽団などの公演になると、演奏会後に平気で楽屋挨拶に来る人もいる。差し入れを持ってくる人も多い。唾用シートを持参しない楽団すらあった。アマチュアの緩い意識がプロの公演を潰すことにならなければ良いが」と危惧しているのを聞いた事もあるので、やはり「プロオーケストラではこうした対策をしている」と広めていく事は大切なんじゃないでしょうか。それが、安易な公演中止の撤回にも繋がるような気がします。
いまの日本政府は自ら考えられるような頭をもった政治家、勇気ある決断が出来る政治家、国民の為に考えられる政治家がいない。国民が自ら動いていかねば生活は変わらないでしょう。
「クラシックは安全なのになんで」と嘆き悲しむばかりでなく、こうしてルールを共有して徹底して守りつつ、「これだけやっている」というアピールをしていく事も、いまの業界には必要な事だと思います。
最後に、とりあえず東京近郊のプロオーケストラの感染防止対策についてのリンクをまとめておきます。少しずつ追加していく予定です。
東京都交響楽団【都響版行程表のステージの現状について】2020年11月9日現在
新日本フィル/新型コロナウイルス感染拡大防止のための取組みとご来場のお客様へのお願い
日本フィル/新型コロナウイルス感染症対策へのご理解とご協力のお願い
東京シティフィルハーモニック管弦楽団/ご来場の皆様へのお願い(必ずお読みください)
神奈川フィルハーモニー管弦楽団/新型コロナウイルス感染症拡大予防ガイドライン
東京交響楽団/主催公演開催時における、新型コロナウイルス感染拡大の予防に関する取組みとお願い
東京フィルハーモニー交響楽団/当団の実施する新型コロナウイルス感染症予防対策について
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