響け!ユーフォニアム 久石奏3年生編を待ちきれなくて盛大に妄想した 全10万字:五章 ~卒業式、エピローグ (9/9)
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響け!ユーフォニアム 久石奏3年生編を待ちきれなくて盛大に妄想した 全10万字:五章 ~卒業式、エピローグ (9/9)

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五章 ~卒業式、エピローグ

再度の訪問

晩秋のある日、奏と佳穂は玉田の運転する車に乗っていた。助手席には佳穂が座り、後部座席には奏がハードケースに収められたユーフォニアムを大切そうに傍らに携えている。あの初春の日のように。

程なくして、車は目的地近くに到着した。三人は車を降り、記された住所を辿って、そしてインターホンを押した。奏にとっては一年弱ぶりだ。
あすかと香織が出迎えた。
「やあやあよく来たね。おっ、三人お揃いか・・・まあいっか、どうぞ。」
「いらっしゃい。」
「お、おじゃまします。」
佳穂は緊張しているのか勢いよくお辞儀をする。
「おじゃまします、またお会いできてうれしいです。あの、お土産と言ってはなんですが、幸福堂まんじゅうです。みんなで選びました。」
一瞬あすかの表情が曇るが、香織がたしなめた。
「そう、ありがとう。選んでくれたんだ。よかったねあすか。」
「お口に、合いませんか?」
ずいぶん下の後輩の言葉を聞いて、あすかの表情は和らいだ。
「いやー気ぃ遣わせちゃったね。もらっとくね、奏ちゃん。」
「ありがとうね。それにしても全国大会銀賞おめでとう。嬉しい。」
あすかは香織へ相槌を打ちながら一瞥すると、わずかに低い声で言った。
「香織、そろそろ時間じゃないの?」
「うん?まだ。もうしばらく・・・?」
香織はあすかの「外してほしい」に気圧され、小さなため息をつくと、立ち上がった。
「そうだった、早めに行くんだった。じゃね、奏ちゃん、佳穂ちゃん、えっと玉田くん。ごゆっくり。」
「はい。」「はい!」「はい。」
香織は肩に楽器ケースのような四角いカバンを下げると、じゃ、と一声かけて扉から出ていった。

あすかが扉から気配がなくなったのを確認すると、三人の方を向いてニヤリとした。
「実は、玉田青年と一緒に来てほしいという理由なんだけどね。」
「はい。・・・薄々と。」
「そか。内緒にできる?。黄前ちゃんや夏紀にも内緒に。もちろん他の誰にも。」
奏は感じた。あすかの願いを。
「もちろんです。佳穂、私達も外しましょう。」
「鋭い所あるじゃん。」
玉田は頭をかき、口を開こうとしたが、思いとどまった。
「少し、彼と二人で話がしたいの。」
「はい、もちろんです。私達は近くへ出てきます。」
「失礼します。」

「・・・かわいい先輩たちじゃん。」
「・・・奏さんにはたじたじだけどな、佳穂さんはかわいいね。」
「・・・おぅ、大人が女子高生に手を出したら犯罪だぞ!」
「・・・相変わらずだな。でもまあ、こうやって話できるなんて・・・ありがたい話だ。」
「・・・そだね。」
二人ともリラックスしているが、会話はぽつりぽつりでしばしば沈黙が流れる。玉田はうつむき気味に再び話し始めた。
「・・・すまん。正直、もう俺生きて帰れないと思ってた。半年経っても一年経っても全然治らなくて。学校にも通えなくなって。何度も諦めかけて。」
「うん、うん、」
「何年か経って・・・確か三年前だな、吹奏楽コンクール全国大会に久々に京都の高校が出たってニュースをちらっと聞いて。」
「わたしが高三のときだね。もう三年も前か。」
玉田はあすかの方を向いた。
「あすかのこと思い出してさ。もうちょっと頑張ってみようかなって。でも、あれがあすかだとは思わなかった、北宇治よりもっと上行けただろ?」
「まあ、こっちもいろいろあったわけ。」
「そっか・・・あ、まさか、企んでるな?。」
玉田は小さく身構えたが、目は楽しそうだ。
「こんにゃろー。」
「ひ、久々に食らった。変わってないな・・・」
「あははは・・・」
「・・・帰ってきた。」
「・・・よく頑張った。」

奏と佳穂は近所をゆっくりと歩いていた。
「奏先輩、もしかしたら盗み聞きするかと思ってました。」
「あら、何てこと言うのです。感動のご対面を邪魔しちゃ悪いですよ。」
「わかってます。きっと、いろいろあったんでしょうね。私達が知らない、ずっと前から。」
「気になりますか?」
「はい・・・でも、お二人のことですから。」
「そう、ね・・・さて、戻りながら準備しましょうか。」
「準備?」
「心の。」
「・・・はい。」
少しばかり、奏の表情が緊張を帯びた。

玄関近くまで戻ってきた時、がちゃ、と内側からドアが開いた。
「お、戻ってきたね?」
「はい、つい今しがた。秋風が心地よいですよ。」
「ほんとかなー。まあ、いいや。佳穂ちゃんもどうぞ。」
「は、はい!」
部屋の中には玉田が待っていた。
「あ・・・奏先輩、佳穂先輩。」
「あら、先輩なんて呼ばなくていいのですよ。玉田直樹さん。」
玉田は両手で頭を抱えた。佳穂も大笑いだ。
「これだよもう・・・」
「あははは、今ので説明終わっちゃったかな。では名探偵奏ちゃんどうぞ。」
「えっ、私からですか。」
「もうここまで来たならどうぞ。」
玉田はやれやれと言わんばかりに肩をすくめた。そして、こんなにくだけたあすかや玉田の様子は、想像ができないほどだ。
「では・・・」
奏は正座し直して、軽い咳払いをした。
「玉田さんは高校に入る前から吹奏楽を、ユーフォニアムを熱心にやっていた。」
「うん、正確には小五から。」
「しかし・・・玉田さんは深刻な病気で何年も休むことになった。中学二年か三年から。」
「そう・・・部活はもちろん、学校にも行けなくなって。」
「・・・でも頑張って治して、今年北宇治高校に入った。」
「うん、二十歳の高校生の誕生。」
「私が前にあすか先輩の家に来たときに、車で送ってくれたのが、玉田さん。」
「ちょうど自分の入学前。苦労してやっと免許を取れた頃。」
佳穂は一つ一つの情報を噛み砕くように聞き入っている。
「じゃあ奏先輩、自分からも聞きますよ。どうしてあすかの楽器を?学年は入れ違いで直接の接点はないはず。」
「奏ちゃん、今度は話してあげる番なんじゃないかな。」
「・・・そうですね、お二人にはお話しましょう。」
「奏先輩、去年の真由先輩との・・・」
「・・・そう。そこから話しますね。私は去年に真由先輩にオーディションで勝てなかった。コンクールの舞台にも立てなかった。しかも関西大会ではソリは真由先輩になった。久美子先輩を乗っ取ったように思えた。」
「全国大会のときに会った、清良女子から転入した方。」
「そう。正直、悔しくて。自分のことと同じくらいに悔しくて。無性に腹も立って。」
あすかは何も言わず三学年離れた後輩の話を聞き続ける。
「そのまま去年は終わってしまった。全国金賞だったからそれは部内は浮かれだってた。でも、その中に私は入れなかった、学年でコンクールメンバーになれなかったのは経験者では私くらいだった。真由先輩が本当は純粋に楽器と音楽が好きで上手、ただそれだけ、ほんとうにそれだけ。そんなことにも気づけないままだった。」
「だから、あまりその方の話をしなかった。」
「そう・・・でも、このままじゃ先に進めない。それに、真由先輩と久美子先輩が抜けたら、全国どころか関西大会の舞台にも立っていない私と佳穂の二人だけでこれからやっていかなきゃならない。正直、追い詰められた。何度も辞めようと思った。部活にも行けなくなった。」
「先輩・・・・私あのときそこまで気づけなくてごめんなさい。」
「いいのよ、佳穂。私が悪いんだから。気づかせるべきではないし。私こそ本当にごめんなさい。」
「細かいことはともかく、別に悪くはないんじゃない?。そういうときもあるって。で、こんにゃろ!うまくなりたい!ってなったんだよね?。どうしても。」
「そうです。以前申し上げたように、私が北宇治に興味をもった原点にもう一度立ち返りたかった。この高校でなら本気で部活を、吹奏楽を、と火が着いた時。そう、北宇治の名古屋での演奏を聴きに行った中学三年生の時を思い出した。」
「その時のユーフォニアムのうち、ひとりは久美子先輩だったんですね?」
「そう、一年生ながら。そしてソリストだったのが、銀色の楽器を吹いていらした、あすか先輩。飛び抜けて素晴らしかった。ソロ、鳥肌が立った、ホールの隅々まで響きが届けられるようだった。私は、この人に、あなたに教わりたくて北宇治を選んだ。でも、残念ながら卒業されて入れ違いだった。」
奏はコップを掴みいくらか冷めたお茶を一気に飲み干した。
「私、真由先輩と同じ銀色の楽器へのトラウマを克服して、北宇治のユーフォニアムを極め直すには、この人のこの楽器のチカラをお借りしたいと思ったの。もちろん、別の楽器を買ったり借りたりってことも考えたし、楽器屋にも何度も行った。でも、でも、やっぱりあのときの北宇治のユーフォの音、そう、あすか先輩の音に立ち返るものがあった、忘れられなかった。私に必要なんだ。他力本願だけど、すがる気持ちだった。」
「と、熱いラブコールを頂いて、たらしこまれちゃったってわけ。でも嬉しかったよ、そこまで言ってくれて」
あすかはにこやかに微笑んでいる。
「まあ、たらしこんだなんて。」
奏はようやく表情を緩め、手を口に当ててすまして言った。
「事実じゃんかー。」
「まあ、そうですね。?!、そういえば、あすか先輩は、どうして私に楽器貸し出しを許可してくれたのですか?。まあ、先程のような想いは訴えましたが・・・久美子先輩からのご紹介だからですか?。あすか先輩を愛してやまないあの人の。」
そう言いながら奏は鮮やかな橙色が描かれた絵葉書をテーブルの上に置いた。葉書を入れていた封筒には何枚かの付箋紙がなくならないようにまとめてある。一枚はみ出ている付箋から「もう一度だけ」とう文字がのぞいている。
「もちろんそうだけどね。なぜでしょう?。」
「・・・すみません。これ以上の心当たりが。」
「直樹さ、あれ、見せてもいい?」
「?ああ、恥ずかしいけど。奏さんのためなら。」
あすかは別の葉書を奏へ差し出す。宛先はあすか、消印は今年春、裏側に書かれた差出人は玉田だった。同じ裏面に、見飽きるほど見慣れた「北宇治」の歪んだ文字が見える。
「北宇治もいろいろあったけど、離れた後輩のことを応援するのもいいかな、って。」
「あすか先輩と玉田さんとは・・・もしかして・・・」
奏は渡された葉書を手に身を乗り出す。
「きっとそのとおりです。どうぞ。」
奏はゴクリとつばを飲んだ。
「あすか先輩と・・・中学で同級生。」
あすかと玉田は視線をそらさずに聞いている。
「一緒に吹奏楽部でユーフォニアムをやっていた。」
「御名答。やっぱり、ね、いなくなったら寂しかったわけ。帰ってきたら嬉しかったわけ。」
「まさかの北宇治つながりとはね。」
奏は息を呑んだ。
「そんなうまい話ってあるんですか!・・・じゃあ、私は玉田さんのおかげで?」
「とも言うかな。」
「うそ・・・そんな・・・あ、ありがとうございます!」
奏は瞳をぐらぐらと揺らしながら丁寧に手をついてあすかと玉田に頭を下げた。
「奏さん、よしてください。自分が部活できたのは奏さんの・・奏先輩のおかげなんですから。」
佳穂も涙をこらえながら奏を見守っている。
「部活説明会で再会して心底びっくりしたけど・・・あれは運命的だったんですね。秘密もずっと守ってくれたし、何度も相談にのってくれた。何より、楽しかった。こちらこそ、ありがとうございました。」
玉田もまた奏に深々と頭を下げた。
「ま、待って下さい。玉田・・・くん、あすか先輩の楽器だって知ってて何も言わなかったのですか?」
「あすかは昔から楽器をすごく大切にしてたので、まさかあすかのものとは想像できなかったです。確かに、もしかして?と思ったこともありましたが、奏先輩の意気込みをいつもひしひしと感じていて・・・その、邪魔したくなかったんです。ただ・・・もしそうだったら素敵だな、とは思ってました。」
「そんな・・・気を遣ってくれていたんですね。」
「こちらこそ。」
「いやー感動的だね。高校生ってやっぱり青春!って感じ。あの頃を思い出すな、特に三年生のとき。」
「あすか先輩の三年生のときにもいろいろ大変でしたか?。」
「まあね、受験との兼ね合いとか・・・。無事にコンクールが終わって引退したときは、正直ほっとした。」
あすかははぐらかすが、間違いない。全国大会への参加が危ぶまれたこと、それを夏紀が迎えないかもしれない本番のために練習を重ねたこと。ちょっぴりずるい、ご自分のことははっきり話してくれないなんて。
「奏先輩、今はどうですか。引退・・・してほしくないですけど、ハッピーエンドになりそうですか?」
「もちろん、皆さんのおかげで。」
「うん、どうやら一件落着、この楽器もお役御免かな。」
「はい・・・と言っておいて何なのですが・・・あすか先輩、もうひとつ、お願いがあります。」
「なあに?、ここまで来たらひとつもふたつも変わらんような気がしてきた。今けっこう機嫌いいから頼むなら今だよ。」
「あすか先輩の演奏を聞きたいです。」
奏は頬を紅潮させてじわりとあすかに詰め寄った。
「えっほんとですか?久美子先輩が神様のように崇めていた、あすか先輩の?」
「黄前ちゃんそんなこと言ってたのか、あはは。」
「久しぶりに、聞きたいね。」
「こりゃ、多勢に無勢だな。作戦ミスったかも。」
と、言いつつ、あすかの表情はにこやかだ。
「作戦勝ちですね。ふふ。」
「ただし、奏ちゃん、条件があるぞ。」
「条件?」
「修了試験、楽器使用期間の。聞かせてもらうよ。」
「・・・わかりました。」
「じゃあ、裏山行こうか。」
「うれしいです!。」


「では、僭越ながら、あすか先輩に、北宇治に縁のある皆さんに感謝を込めて。」
「うむ。」
ーーーーーーーーーーー♪
あすかの目がゆっくりと見開かれ、笑みがこぼれてきた。
パチパチ。三人が拍手する。
「いい曲、いい演奏だった。」
「ありがとう、ございました。久美子先輩から受け継いだんです。佳穂も、真由先輩も、玉田くんも、みんな自分のノートに書き写して大事にしている曲です。」
「そっか・・・」
あすかは目を細める。
「では、先輩、ほんとうにお返しします。」
年季が入り、よく手入れされた銀色の楽器が、あすかの手に戻る。
「そうそう、これこれ。」
あすかは戯れるように自分のマウスピースに口を当てる。刹那、空気が吹き抜けるような感触を三人は耳にした。決して乱暴な音ではない、底知れぬ技術を秘めたあっという間に移りゆく音の万華鏡を。それはウォームアップなどという言葉で片付けてよいのだろうか。
「・・・ほんとに聞きたいと思ってる?。」
「はい!」「はい!」「もちろん!」
あすかの脳裏に、もう三年も前だろうか。せがむように自分の演奏を求めてくれた二学年後輩の姿がよぎった。彼女のさらに後輩たちが、再会した友が、いま間近にいる。
あすかが静かにゆっくりと息を吸う音が聞こえたその時、奏は思い出した。久美子が言っていた「先輩から教えてもらった大切な曲」という言葉を。
あすかは演奏を始める。どこか遠くを眺めながら。
ーーーーーーーーーーー♪
「これは!・・・・・・」
佳穂は合わせた手を口元に、言葉を発せずにいる。
「すごい・・・」
奏と玉田の頬に静かに涙が伝っていた。佳穂は満面の笑みで高揚している。
「圧倒されました・・・嬉しいです。」
「あすか先輩のときからあったんですね、この曲!。やっぱりこの曲、ユーフォニアムパートのテーマ曲なんですね!。」
「・・・一体いつ、誰から・・・」
「さぁて・・・いつからなんだろうね?」
あすかはおどけて返す。
間違いない、その源は、きっと。
・・・しばらく心地よい余韻の時間が流れる・・・
「そういえば、曲名忘れちゃった・・・」
「え!うそ、書き写してないの?玉田くん?」
「いやぁ、楽譜は覚えられるんだけど曲名は覚えられない・・・」
「えっ?じゃあ今年の課題曲名は?」
「四番。」
「曲名だよ曲名。」
「だから、四番。そうしかアナウンスされてない。」
「あははは、直樹らしいわ。昔っから変わってない。」
「佳穂、今後しっかり面倒見てください、心配です。」
「はい、介助はお任せください!。」
佳穂は小さく敬礼の真似をする。
「ちょ、ごめんなさいほんとうに、教えてくださいこの通りです。」
「本当にしかたありませんね。教えるのはこれが最後ですよ、高校一年生。」
「あ、はい!」
「あはは」「あはは」「あはは」
「よろしい。じゃあ曲名大公開!せーの!」
「響け!ユーフォニアム!」


三年生引退後

「はあ~このパート練習部屋も四人かー。」
「先輩が引退して一気に半分かー。」
「部屋、なんか寒いよねー。」
「こんにちは、遅くなりました。」
「来たね玉田青年!早速話があるのだよ。」
二年生三人が玉田の前に並ぶ。
「ちょ、どうされたんですか。久しぶりにリンチですか。」
言葉とは裏腹に、その表情はおどけている。
「そうだよー、さあさあこっちへ。」
玉田はすずめのすぐ近くの椅子へ促される。すずめは傍らの椅子を引き寄せると、逆に向け雑な姿勢で背もたれを抱きかかえながら座った。視線が泳ぐ。
「なあ・・・その・・・あんた次のパートリーダーやってくれん?。」
「はい?。なんでまた一年生が?」
弥生と佳穂が歩み寄った。表情は神妙だ。
「その・・・三年生は四人ともみんなバリバリの経験者だった。特に美玲先輩は冗談抜きの鬼。でも、うちら三人とも初心者で入ったんよ。技術はともかく知識はさっぱり。そして玉田青年の登場。うちらに務まるはずないやん。」
そう話すすずめからはいつもの笑みが消えている。
「みなさん経験者ですよ、もう二年近くの。」
「でも・・・」「でも・・・」

玉田はため息をついて話し始めた。
「すずめ先輩、去年、中学からの経験者だったさつき先輩を抜いてコンクールメンバーだったそうじゃないですか」
「う、うん。なんか、でかい音がだせるからって。楽譜の半分も吹いてない。」
「弥生先輩、関西大会でユーフォニアムの音を補うように楽譜を直して吹いてくれたそうですね。」
「そ、それは・・・玉田が音域を広げる練習を教えてくれたから。」
「佳穂先輩、ソリ、先輩方みんなが認めていました。」
「・・・なんだか恥ずかしい。」
「皆さん、十分じゃないですか?どうしても誰かと比較して勝たないとダメですか?」
「・・・やっぱりかなわないねー。」
玉田はニヤリとした。
「だって、人生の先輩じゃないですか。」
佳穂がすこしむくれた顔をする。
「まあ、もう一年経ったら自分は自動的にパートリーダーやらされるはずなんで、この年は勘弁してくださいよ。」
玉田がおどける。
「よっしゃ、もういっそ全員パートリーダーにしようか!」
「そうしようか!」
「そうしよう!」
玉田は楽しそうに拍手する。
「玉田青年、きみもや!」
「ちょっと、話聞いてましたか?」


卒業式当日

「奏先輩、ご卒業おめでとうございます。」
「佳穂 ありがとう。今日の演奏よかった。ユーフォ、よく聞こえたよ」
「はい、頑張りました! 編曲がバージョンアップしたんですよ。」
「やっぱり、あいつのしわざですね」
「すぐわかりますよねー。」
「・・・ひとりなのですね。」
「・・・はい。でも、いつも一緒です。」
佳穂はパスケースを出し開けてみせる。
「あらあら、見せつけてくれますね。」
「?一緒に先輩を送り出したかったから 作ってきたんですよ?」
「一緒に、ねえー。」
「???」
「・・全く、なんだか彼がかわいそうになってきました。」
「???」
奏は佳穂にまっすぐ向き直った。
「佳穂」
「はい」
「・・・あなたにはいろいろと救われました。 私が腐っていた時、部活に来れなくなった時、玉田くんがいなくなった時、真由先輩とやっと話せた時、そして・・・」
そこで奏は声を詰まらせた。
「全国大会のオーディションで、あなたを・・・」
奏が言い終わる前に佳穂が口を開いた。
「直樹くんが復活した時、ですよね。」
「そう・・・そうだったね。」
「わたし、奏先輩が先輩でよかったです。最初は変わった人だなあって思ってましたけど(笑)」
と、佳穂のスマホが鳴る、マナーモードにしていなかったのか。いつか聞いた可愛らしいジングルだ。
「・・・そろそろ行くね。」
佳穂はスマホの画面を見て満面の笑みを浮かべた。
「先輩!待ってください!、もう少し、もう少し・・・」
佳穂は奏の袖を掴む。可愛い後輩だ。初めはどうなることかと思ったが二年間も一緒にいると微笑ましく愛おしい。
そのとき、車の音が聞こえてきた、なぜか聞き覚えがある気がした。近づいてきた音は人が多い場所を避けて止まり、中からは薄手のコートを羽織った背の高い青年が現れ、胸を押さえながら小走りで向かってきた。足元のスニーカーには靴下がなくアンバランスだ。
「はぁはぁ・・・間に合った・・・」
「こら、遅い。」
「ど、どうだった?」
「・・・明後日退院です!」
「やったあ!」
「それより、すみません遅くなりました。」
「ほんと。もう慣れました。それより、足、寒くないのですか?」
「あ!・・・」
「ふふ、急いでくれたんですね。走ってもいないのに息が切れてますよ?」
「病院内をダッシュしてしまって」
「それはダメなのでは?」
「そうすね。」
玉田は頭をかく。
スマホが震える、美玲からだ。こんなときに。
「感謝の気持ちをちゃんと直接言葉で伝えなよ。」
美玲こそ直接言えばいいのに、でもそんなおせっかいが心地良い、それももうすぐお別れなのか。
「二人といっしょに部活をやれてよかった。私を全国へ連れて行ってくれて、私を全国で吹かせてくれてありがとう。あすか先輩との縁も、久美子先輩との縁も、真由先輩との縁も、夏紀先輩との縁も、たくさんの縁も、こんな偶然・・・つないでくれてありがとう。」
「こちらこそ、奇跡をつないでくれてありがとうございました。」
「さ、佳穂。」
「これ・・・」
奏はあのノートを両手に恭しく持ち、佳穂のほうへ差し出した。
「最後の役目、引き継ぎ式です。久美子先輩も卒業式の日にあすか先輩から受け取ったそうです。」
「そ、そんな、私よりも・・・」
「だめです。何がどうあってもこの1年間はあなたが受け持つのです。これは命令です。大丈夫、あなたには玉田くんがいる。」
「・・・先輩、ユーフォ、好きですか。」
「もちろん、大好き。」
「私もです!」
「俺もです。」
「先輩!三人で写真撮りましょう!」
「自撮りは佳穂の得意技ですね」
「上手ですよね。」
「いつも一緒に撮ってるのですか?」
「はい!」
まったく・・・奏はおちゃめに玉田を小突いた。
パシャ、パシャ。何回かシャッター音が鳴った。
「・・・行くね。風邪引いて入院長引かれても困ります。」
玉田は肩をすくめる。
「玉田直樹さん!先輩を抜きにして、命令!」
「は、はい。」
「佳穂を泣かさないでくださいよ。」
いつか玉田が聞いた台詞だ。奏はわざとらしくウィンクをする。玉田は小さくため息をしてから笑みを浮かべた。
「もちろんです。」
「いっしょに頑張ります!」
奏は深々とお辞儀をした、それを見て、もう誰も慇懃とは思わないだろう。ゆっくりを顔を上げながら口元が動いた。顔を上げてから、もう一度、声に出して言った。
「ありがとう、ごきげんよう。」


次の年以降の卒業式

・・・・・・
「佳穂先輩、ご卒業おめでとうございます!」
「ありがとうー。」
「玉田先輩とはいつ結婚するんですかー。」
「ちょ、お前ら・・・」
「えへへ、このまえ指輪買ってもらったんだー。ほらー。」
「ひえー!」
「ラブラブー!。」
「今見せなくても・・・。」
「照れるな照れるなー。」
・・・・・・


・・・・・・
「なっ、直樹先輩、ごっ、ご卒業おめでとうございます!」
「ああ、ありがとう。・・・珍しいな。」
「おーおー、名前読み-。」
「だ、だって先輩たちが下の名前で呼んであげてって・・・はい。」
「みんなありがとう。ひ弱な俺の代わりにたくさん演奏してくれて、嬉しかった。」
「まったく本当に世話が焼けますね」
「・・・これから頼むぞ、と言う資格、俺にはないと思う。だから・・・これからもしっかり楽しんでな、元気で。」
「・・・」
「はいはーい! 佳穂先輩とはいつ結婚するんですかー」
「ひゅーひゅー」
「・・・二十歳になったら。」
「は?」
「へ?」
「な、なんですとー?!」
「やったー!」
「どひゃー!」
「式には呼んでくださいね!」
「!・・・」
「ちょ、真知子、どうしたの!?」
・・・・・・


・・・・・・
・・・・・・

・・・・・・
・・・・・・

とある春の日

~それは、玉田が卒業して数年後~

また桜の季節がやってきた。でもこの春は特別だ。
「先生!さっそくなんですけど、この写真を見てください。すっごいいい感じに撮れたんですよ。」
先生。その言葉に反応するのに時間がかかってしまった。顔合わせにとさっき職員室で初めて会ったばかりなのに、ずいぶんと人懐っこい。
「学校でスマホを使って大丈夫?。」
「使うのは部活のときです。メトロノームアプリ、チューナーアプリ、ピアノアプリ。超便利です!」
「カメラや動画は?」
「もちろん、演奏チェックでマストアイテムです!。」
「うむ、ならよろしい。で、見せてもらおうかな、ちょっとだけだよ。」
そこに映っていたのは、教室の廊下側からの眺め。窓際の席に金色をしたユーフォニアム、傍らに古びたノートが仲良く並んでいる。
「このノート、ユーフォパート代々の宝物として受け継がれているんです!。」
「そう・・・素敵な写真。」
「えへへ、そうでしょ。」
「・・・・・・」
「先生?」
写真を愛おしそうに見入るその人には、可愛らしい花の髪留めが似合っていた。
「ああ、ごめんごめん。よし!、素敵な音楽、響かせましょう!。」
「はい!新しい先生との部活、楽しみにしてます!。」

(・・・奏ちゃん・・・)

新しい北宇治高校吹奏楽部が、スタートする。

Fine


一つ前:四章 ~全国大会(後)(7/9)

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2020-11-14開設。気に入った音楽があると耳コピしたくなる♪  Twitter https://twitter.com/Dotera_music   niconico https://www.nicovideo.jp/user/9310873/mylist/49872057