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早紀❽

世間ではまだまだ認知度が低いオンラインカジノ。パチンコや競馬とは比べ物にならない。だが、オンラインカジノはゲームの種類が圧倒的に豊富で、それこそパチンコや競馬とは比べ物にならない魅力がある。24時間場所を選ばず楽しめるのも魅力の一つだ。クリスマス前の土曜日に詩月と一緒にメンパブに行ってみることにした。ホストクラブよりリーズナブルで行きやすい。「shaka」というメンパブに入る。内装は革張りの壁でステンレスのカウンター。登録の問題でBARという事になってるから一応酒は揃っている。ボックス席に案内され、2人の男が私達の接客にあたった。男だか女だかよく分からない顔立ちで口説き落とす気満々のオーラが面倒だった。が、私と詩月にそんなものは通用しない。

「こんな所に来てまでゲームするのー?」と言ってきたのはカラコン野郎。「課金するタイプでしょー」と顔を近づけてきたのはエクステ野郎。自己紹介と安っぽい頭の悪そうな名刺を渡してきた。いちいち名前を覚える必要はない。とりあえず、私のスマホでLiveルーレットをする事にした。これならカジノを知らない人でも分かりやすい。「詩月、あんたの乳首は何色?」男達の前でわざと聞く「ピンクだよー」この時の私の舌打ちは店中に響いただろう。赤に20ドル。男達はリアルマネーを賭けたルーレットに釘づけだ。カランカランと良い音が鳴る。出目は5で赤。20ドルゲットだ。「詩月、あんたのビラビラの色は?」とんでもない質問に男達の爆笑を期待が、唾を呑み込みながら黙りこくる2人…。「ビラビラは黒!」堂々と答える詩月に男達は嬉しそうなスケベ顔を晒す。黒にパーレーで40ドル。またも心地良い音を奏でた白球は35の黒に沈んでいった。

詩月にバトンを渡す。詩月が選んだゲームはハワイアンドリームだった。オンラインカジノを初めて目にする人でも、パチスロに似た演出のスロットなら分かりやすいという配慮だ。0.5ドルで回してダメなら1回だけ倍プッシュするらしい。0.5ドルで150回回してダメ。1ドルにして即ボーナスでルーレット演出。このルーレット演出はフリースピンを選んでくれる事は稀だ。勿論5倍配当でたったの5ドルにしかならなかったが、それから15回転前後で演出無しの青7。やっと当たったフリスピは男共に消化させる。継続率云々とあるがどうせ最終的な配当に合わせたデキレだ。8連目で赤7に切り替わり、ゆらゆらと蝶が舞い降りてきた。結局この赤7は13連で終了し166ドルになった。カラコンもエクステも大興奮!正直私も大興奮だった。ハワイアンドリームは初心者向けのスロットと言えるが素直に楽しい。

ボックス席のドンチャン騒ぎを尻目に、カウンターで飲む男がいた。こんな店で静かに雑誌を眺めて飲んでいる男に目が行って仕方ない…。ホストやパブ男とは違う空気を持つ男だった。年齢は見た目30いかない位か。「あの人こっちに呼んでよ」とカラコンにお願いすると「あの人は店の人じゃないんですよー」との事。メンパブに男性客?詳しく聞けば、彼は2500円で朝まで飲み放題のかわりに、男共が飲めなくなった時に女性客の酒を飲みに入るパブ男のピンチヒッターだという。私のタイプだった。クリスマス前という事もあり、ちょっとした出会いが欲しかった。「じゃあ、私から行く。詩月は適当に遊んでて」男の側に行くと男は雑誌を静かに閉じて私を観た。隣の椅子に座ると「何飲む?」と聞かれ同じのを頼むと「ラスティのライム多めだよ。大丈夫?」と心配そうに教えてくれた。私はそれだけでこの男にやられてしまった。メンパブなんかで運命を感じる程バカではないと思っていたが、クズはクズと引かれ合うのか。私はここ数年恋愛に飢えていた。そのせいもあっただろう。いつどこで誰と恋に落ちてもおかしくなかった。この店に来る頻度や彼が手にしている雑誌の話で場を暖めた後、仕事の話をすると彼は公務員だと言う。嘘くさいが嘘なら嘘で本当の仕事を聞く楽しみが後に伸びるだけ。あまり気にはしなかった。が、直後に彼も私の仕事を尋ねた。いや、職場を聞かれた…。「どこの店で働いてるの?」完全に水商売だと思われたうえに、もしかしたら風俗と勘違いされたかもしれない。一気に冷めた…。が、ここでケツを向けるのはこの店で飲む以上、私が常識の無い女として扱われかねない。一呼吸置く…。「こう見えてケーキ屋でケーキ売ってるの」お互いにお互いの仕事が信じられないようだった。つまりはお互い様なのだ。

彼の名前は「了」1時間は話し込んだ。楽しい時間だった。勿論連絡先の交換もLINEで済ませた。この男は必ず連絡してくる。詩月の方を見るとそれなりに楽しく飲んでるようだ。スマホを覗き込む。残高は来た時よりプラス200ドル。これなら結構楽しめただろう。楽しい夜はこれでおしまい。2人で締めのラーメンを食べる。飲んだあとは塩がいい…。

ここ2ヶ月ほどで私を取り巻く環境が少しずつ変化してきている。詩月、マダラ、了そして35回目のクリスマス。その変化に何かを期待する私がいる…。社会人になってからドン底ド底辺をたった一人で彷徨ってきた。私もそろそろ人並みの幸せを掴みたい。了とたった1時間話しただけでクズの生活から逃れたいと思い始め、ライフスタイルを変える覚悟を決めた。

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