見出し画像

早紀❶

気付けば30を過ぎていた。仕事は一応真面目に無遅刻無欠勤を8年続けている。洋菓子の販売員は眠気さえ何とかなれば気楽に続けられる仕事だ。しかし、和菓子なら私がババアになっても続けられるが、洋菓子はそうはいかない。ババアが売る洋菓子は味が落ちる…。同性の私でさえそう思うのだから、男性からしたら尚更だろう。私は完全に道を誤った。30を過ぎてもまともな出会いに恵まれず、あと何年かすれば職場からも邪魔者扱いされるだろう。

それを癒し続けてきたのがギャンブルだった。パチンコ屋に入れば全てを忘れられ、日常生活には無い「期待」や「夢」に溢れていた。勿論簡単には当たらない。当然負けを繰り返すが、洋菓子屋で稼いでいる金には手をつけない。パチンコ屋に吸い取られた金はその日のうちにパチンコ屋から回収するのが私のやり方だ。駐車場で景品交換所から車に乗り込もうとする男に声をかけ、車の中で咥えるか、跨ぐかで5000円か10000円の交渉になるけれど、大抵は「セット」だからオマケして13000円。これを2人こなして家路に着く。パチンコは2万でやめる事だけは心がけているから6000円浮くので、それは投資に回していた。ギャンブルできて、性欲も解消できて、貯金もできる。この無駄の無い遊びに夢中だった。

私のこんな生活は20の時から続いている。今ではレストコーナーに座っていると声をかけてくる客までいるくらいだ。勿論、いくつかは顔が割れてホール側から出禁を食らっている。それでもまだ辞めずに続けているのは、貯金が500万を超えてる結果があるからだった。職場ではこんな話はできるわけでもなく、ネットに書き込む気にもなれなかった。今まで誰に相談するでもなくよく続けてきたものだ。一度ネットに書き込んでみよう…。この軽い気持ちが命取りになるかもしれない事は分かっていた。年齢、性別、県名までにしておけばバレる事はない。写真は完全に顔を塗り潰したかったが、フェイスラインには自信があったのでそこだけは分かるようにした。

ツイッターに登録。フォロワーが多ければ多いほど沢山の人に認知され自慢できる。新しい私の吐け口だ。すぐにフォロワーができる。県名と性別、そして年齢に誘われ光に集まる虫のようにウジャウジャ…。パチンコと私が女である事が大きいようだ。フォロワーの数は簡単に200を超えた。勿論その殆どが男性だった。ギャンブルで絡みたいわけではないだろう。どうせ考えてる事は一つ…。そんな中、一人の女とウマが合った。「詩月」25歳。独身。私から3駅。大学まで卒業して派遣社員。まずそこが気に入った。大卒でいながら既に負け組。そして、派遣の傍ら週に2日のデリヘル業。世間的なクズっぷりなら私の方が上だが、詩月のクズっぷりもなかなかのものだった。オンラインカジノにハマって抜け出せないでいる。私のように即現場で回収というわけにはいかない。いつかスロットで万倍だと夢を見つつ、そのいつになるか分からない地獄のトンネルをただひた走っていた。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?