見出し画像

誘戯❼

金が入っても、あれから休みの日は俺だけで盗聴電波を探す事が趣味のようになってしまった。そのための機材を家族に内緒で買い揃えた。昼間の住宅街から聞こえてくる盗聴電波はどれもただの生活音ばかりだったが、ひとたび怪しい音がしたなら食いついてやろうと必死だ。昼間のアヘ声は不倫の確率が跳ね上がると思ったからだ。ただ、それも上手くいかない事が殆どだった。ガキが学校をサボって親のいない間にやってる事が多かった。子を心配する親が子供部屋に取り付けるのだろう。

この「パトロール」が終わると、決まって美沙の家へ癒されに行く。毎回「金のカレー」が出てくるわけではない。質素ではあるがそれなりの手料理が出てくる事の方が多い。食べて、一緒に風呂に入り、ベッドで2回は済ませてまた風呂だ。それから2人で2時間程ウトウトし、自宅に戻るのは19時頃。そんな楽しい休日を過ごし、家では妻と娘が何も疑う事なく迎えてくれる。あのゆすりから1ヶ月半が過ぎた頃、やっと面白い声が舞い込んできた。

スーパーの店内から聴こえてくるようだ。場所を特定するのは簡単だ。「奥さん、これ初めてじゃないでしょう!」誰がどう聞いても万引きだろう。近年、年寄りの万引き犯が急増中らしい。「お願いだから主人には言わないでください!お願いします!何でもしますから!」まるでAVだ。「奥さん、何でもしますだなんて卑猥な事言ってもダメだ。そんなAVみたいな展開あるわけないだろー!俺をハメる気か?」までは聞き取れた。見上げた店長さんだ。と思ったのも束の間、「カチャカチャ」と音が聞こえたかと思うとお決まりのバキューム音だ。しばらくしてパンパンという炸裂音に変わる。声さえ聞こえなければ大丈夫と思ってるようだ。耳を澄ますのはここまでとし、店内へ入る。多分ここが事務所であろう所で待機すると店長らしいキツネ目の男と50近い女が出てきた。こいつは使える…。今回は大江には車での確実な録音のみを、それ以外は美沙と俺だけで絵を描く事にした。

美沙には手順を何度も確認した。まず間違いなくいける。ここのスーパーは関東圏にチェーン展開しているスーパーだが、建物自体はどれもそこまで大きくはない。何日かリサーチして私服巡回員も特定できている。美沙に取り付けているマイクから声が聴こえる「お寿司と饅頭とビールっと…」10分程過ぎて聴こえてきた声は「えっ?何々?私万引きなんかしてません!本当です!信じて下さい!」

成功だ。俺と大江は顔を見合わせほくそ笑む。私服巡回員、俗に言う「万引きGメン」に連れられて例の部屋に連行されたのだろう。「美沙さん女優ですねぇ」大江が感心する。「私何も万引きなんかしてません」「カバンの中の物全部出して」ボロボロと出てくるのはさっき呟いてた寿司と饅頭とビールだ。「あっ、店長お疲れ様です。この奥さん、この3品ですね」と言うと「ご苦労さん。あとは俺がやるから」と言い万引きGメンを追い出したのはあのキツネ目のようだ。美沙が若干勇み足気味に怪演する「お願いです。主人には言わないで下さい!お願いです!」俺と大江は車で大爆笑。「主人なんかいないだろっ!」俺がツッコミを入れると大江の笑い声も1トーン上がった。キツネ目が「ご主人通り越してこの場合警察なんだよ」と暗い声で言う。「お願いします。何でもしますから」ここで上着を脱ぐよう指示はしてある。自分から咥え込むなと…。順調だ。「何でもしてくれるんだな?じゃあ…」完全に引っかかった!成功だ!チュパチュパといやらしい音が聴こえてきたと同時に美沙の喘ぎ声まで聴こえてくる。そうやって事が始まったら焚き付けろとも指示しておいた。そこからズボンを下ろす音が聴こえ例の炸裂音までは時間がかからなかった。

そろそろ俺の出番だ。大江にその場を任せ店内へ向かう。バックヤードへ無断で入ると聞き耳を立てないと分からない程の微かに喘ぎ声が聴こえる部屋があった。強めにノックする「警察です!開けて下さい!」「えっ?少々お待ち下さい」20秒程して扉が開いた。「オイ、俺の嫁と何してたんだこの野郎!」そばにあった椅子を蹴飛ばして凄んだ。テーブルにあった品をひっくり返すと全てに購入済みのテープが貼ってある。単品で買うと貼ってもらえるあの色付きセロテープだ。一度普通にレジを通す。レシートも勿論もらうが、その時シールを貼らせてもう一度店内へ行かせる。エコバックから品物をカゴへ移す。怪しいそぶりを十分にして万引きGメンと目が合ったらエコバックに商品を戻す…。

「だから私は何度も万引きしてないって言ったの。なのにこの人私を強引に!アーッ」わざとらしく泣き崩れる。「私は何もしてません!」俺はキツネ目を見て沈黙する。視線を下ろし股間を見る。チャックが開いている。大江にOKの電話を入れるとボイスレコーダーを持って飛んできた。チュパチュパとパンパンがこだまする。「どうする?」と問いかけると「脅す気か?」と返してきやがった。「お客様相談室に電話だな」と大江がボソッと呟いた。美沙はティッシュで何度も口を拭いている。後日に話を流してはダメだ。誰かに入れ知恵されても困る。「今答えろ。150万だ」ギリギリ払える額を提示した…。

簡単に事が運び大江に色を付けて10万、体を張った美沙に50万、俺が90万の分け前とした。この日は3人で飲み明かした。勿論俺の奢りだ。しばらくはこの手口でいけるかと考えたが、こんなAVみたいな店長はなかなかいない。また、良い音が拾えたらにしよう。とにかく今日の酒は美味い!美沙と大江の顔が輝いている。それが何より嬉しかった。

☆勿論フィクションです。感想待ってまーす。できれば100円投げ銭くださーい。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?