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「銀河英雄伝説 Die Neue These 星乱 第2章」

かかっているのは、たかだか国家の存亡だ。個人の自由と権利に比べれば、たいして価値のあるものじゃない

銀英伝の名言は、ここいらでこれでもか!って位、次から次へと出てくるんだった、そうだった。

小説1巻のややもっさりとした感じが、2巻でものすごい加速して、ページをめくっている間中ずっと、手の中の小さな宇宙からGがこちらにかかり、ほっぺのお肉プルプルな中、座席に背中を押し付けられている感じ。または、宇宙の奔流に巻き込まれ、背中をのけ反らせたまま前方に吹っ飛ばされていく感じ。

相変わらず多田版は、人間の愚かさを愛情2憐憫7であぶり出す。残りの1は観客に委ねられている。前回布石があったオフレッサーの悲哀が、今回はかなり強調されていた。「真実に耳を傾けない者」に身に覚えのない疑惑をかけられてようやく彼は気づく。あの日、自分は選択を誤ったのだと。長髪を頭の上で縛っている姿は、幕末の志士のようだった。武士の世はもう終わるんだよ、土方歳三さん。最後まで剣による戦にこだわっていても、もうダメなんだ。時代は変わるんだから。白兵戦で身を立てられた日々は、もうないんだ。

オフレッサーに引導を渡したアンスバッハは第1章からずっと、冷静に時代を読んでいた。それでも彼は「真実に耳を傾けない主君」を裏切れず、終わりを感じながらも自ら破滅の道を選んだ。そして、オフレッサーの死に顔を見て確信する。自分も遠からず、同じ運命をたどるのだと。哀れな運命が、映像的にバトンタッチされていく。なんてパワフルかつ皮肉な描写だろう。しかも次章の「真実に耳を傾けない主君」は、金髪の小僧であり、その結果作品最大の悲劇が生まれるんだから、この多田版オリジナルの伏線の深淵さに絶望してしまう。

また、ドーリア聖域会戦を目撃したユリアンが、あまりにもヤンの思惑通りにコトが進み、本来味方であるはずの第11艦隊が一方的に屠られていく様に愕然とする様子がリアルだった。普段はあんなに大人しいヤン提督の戦略で、第11艦隊はいとも簡単に壊滅状態に陥っていく。それに、無意識で慄いていた。戦慄が走ってた。ほんの少し、怖くもなっていたと思う。

主義主張なんて、生きるための方便です。生きるための邪魔になるなら、そんな主義主張は捨てればよろしい

今の政治家がこれを聞いたらどう思うんだろう。自分のことじゃないってしらを切るのかな。これをのたまうバクダッシュが、石黒版ではダンディ過ぎると個人的に思っていたのだが、そこがうまく「身の丈」にあった小物サイズに収まっていた。計算高くて、生きるための勘も働くが、決して大成はしない人。(全私比)

そして次章では、ついにキルヒアイスが…

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ノイエのキルヒアイス、石黒版よりも硬質なハンサムに変化していて、ああ、時代に合わせてこういう容姿にしたんだね、と思っていたんだけれど、そうじゃないんだ。少し冷たい感じの人が、最後にはその優しさ故に亡くなってしまう方が、ラインハルトの甘えに対する取り返しのつかなさ感が強い。コーネフが言っていた「善い人ほど若くして死ぬ」の布石が、鉛の礫となって時差で届く。痛い。辛い。次回、耐えられるかなあ。いや、まあ、観にはいくんだけれど。

余談だが、冒頭に書いたヤンの有名なセリフ。「三体」の第2巻ではっきりとレファレンスされている。(くどい?ごめん)

In this war lies the fate of the country, but what does it matter next to individual rights and freedoms? 

名言は国境も時空も越える。これを使用するにあたり、著者と著者のトップ会談とかあったのかなあ。だとしたら、片方が紅茶で片方が珈琲なら、完璧なんだけど。


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