【企業研究】メガバンク
(筆者紹介)
メガベンチャー勤務のプロダクトマネージャー。21卒では1社も内定を貰えず就職浪人。22卒では、コンサル、証券(IBD)、大手ITから内定を獲得し、
逆転に成功。その後、新卒でコンサルティングファームに入社し、事業戦略策定、DX、業務改革支援、新規事業立ち上げを経験し、現職に至る。
はじめに
今回の記事では”メガバンク”の業界/企業分析を行っていきます。
従来メガバンクは新卒採用における人気業界の一つで採用人数も多い傾向にありました。しかし、近年では若者の銀行に対する就職離れや企業側の採用人数激減によって就職難易度の上昇が見受けられます。
このような状況の中で筆者が読者の皆様に価値として提供できることは、約2年間の就職活動の経験および分析力を駆使して就活生に対する銀行への理解を促し、世間のイメージや偏見で就職先の選択肢として銀行を取り除かせないこと、そして本当に銀行に行きたいという想いを持つ就活生のサポートをしていくことだと考えております。また、就活生の方々の業界/企業分析の参考例になればとも思っております。
当記事は銀行を全く知らない方でも業界/企業理解が進むようにできるだけ分かりやすく図表とシンプルな用語を用いて説明することを心掛けました。
一人でも多くの就活生の選択肢を広げることに繋がれば幸いです。
銀行のビジネスモデル
メガバンク(=銀行)の仕事は、お金が必要な人(=借り手)とお金が余っている人(=貸し手)を繋ぐことです。収益は借り手が銀行に対して払う費用(=貸出金利)と銀行が貸し手に対して払う費用(=預金金利)の差分によって生まれます。つまり、銀行は貸し手から安くお金を借りて、そのお金を高く借り手に貸すことで収益を上げています。
直接金融と間接金融の違い
メガバンクを含め銀行志望の学生が面接でよく聞かれることがあります。
それは「直接金融と間接金融の違い」についてです。
直接金融と間接金融の違いが分からないということは、金融業界において銀行業と証券業の違いが理解できていないことになります。このような業界理解が浅い学生を採用するリスクは企業側にとっては高いため、そのような就活生は面接で即座に落とされてしまいます。一方で、業界理解を問われるような質問に対して的確に回答できれば内定を獲得できる可能性が高まります。それでは違いを見ていきましょう。
まず、直接金融を行っている業種は証券です。直接金融とは「資金の貸し手」と「資金の受け取り手」を直接繋ぐことを指します。具体的には、証券は銀行のように貸し手から預かった預金を銀行のように資産として扱い、受け取り手に提供するのではなく「仲介業」として直接資金を受け取り手に対して提供します。
次に、間接金融を行っている業種は銀行です。間接金融とは「資金の貸し手」と「資金の受け取り手」を間接的に繋ぐことを指します。具体的には、銀行は証券のように売買の仲介を行うのではなく、預金者から預かった資金を銀行自身の資産として扱い、受け取り手に提供します。
直接金融と間接金融の違いを要約すると「借り手から預かった資金を自社の資産として扱うかどうか」です。これだけを見ると証券のようにリスクを取らないでビジネスを行った方が儲かるのでは?と思う方も多いとは思います。しかし、直接金融と間接金融にはメリット・デメリットがそれぞれ存在しているのです。なので、一概にも直接金融が間接金融に勝るとは言えず、どちらがいいのかは資金の借り手のニーズに依存します。
メガバンクの仕事
業界のキープレイヤー
業界における成功要因を正しく理解する
業界での成功とは、収益(=売上)を上げることも重要ですが、株式会社を運営する以上は利益(収益-費用)を最大化することです。
なので、成功要因とはその業界が利益を最大化するために必ず抑えなくてはならないことだと定義します。逆に、成功要因を勝ち取れば企業は業界の中で競争優位性を築くことが可能になります。
それでは、メガバンクのおける成功要因を分析していきましょう。
まずは、下記の図をご覧ください。
こちらはメガバンクの収益モデルを構造化したものになります。
結論から申し上げると、メガバンクでの成功要因は、「累計預金額をどれだけ増やせるか」×「経費をどれだけ抑えることかできるか」どうかで決定されます。
まず、メガバンクの収益源は、
①資金運用収益(融資・資産運用)
②役務取引収益(振込、為替、金融商品販売手数料)
③その他(特定取引など)
の3つに大きく分けることができます。重要なのは上の2つなので③は無視していただいても問題ありません。
次に、下記のデータをご覧ください。
上記はメガバンク三行の収益構成比になります。三行すべてが収益の50%、すなわち半分以上を資金運用による収益によって稼いでいることが分かります。つまり、資金運用がメガバンクでの収益の核であり、これをどれだけ稼げるかどうかで他行に競争優位性を築けるかが決まります。資金運用収益が大きいことは多くの資金を預けられていることを意味しており、それは振込機会、為替売買機会、金融商品の販売機会の増加に繋がり、自然と役務取引利益の上昇にも繋がります。
さらに細かくみると、資金運用の収益は「融資と資産運用に当てられる資金量=累計預金額」×「資金からどれだけ収益を高く取れるか(=高い金利で企業に融資ができる、高い利回りで資産運用ができる)」で決定されます。
生産年齢人口の減少によって経済規模の縮小している日本で物価上昇を見込むことは難しいです。したがって、高金利で貸し出す戦略はメガバンク三行ともに取りづらいことは間違いありません。また、国債などの低利回りの有価証券での運用スタイルを考慮すると高い利回りを取る戦略を取ることは難しいです。したがってメガバンクは「資金から収益性を伸ばす」という戦略は成功要因として機能しにくいことが分かります。したがって、業界で成功を掴むには「預金をどれだけ集められるかどうか」が勝負になります。
次に、経費の面を考えてみましょう。
銀行においての経費は主に、人件費と物件費で構成されています。人件費とは営業活動を行う行員の給与の合計を指しており、物件費は支店の取得および維持に関わる費用の合計とお考え下さい。収益を大きく稼げていたとしてもその分経費も拡大してしまった場合、利益を最大化できるとは言えません。そのため、経費をどれだけ店舗削減や営業効率化を行い抑えられているかも業界での成功要因になります。
メガバンク3行の比較
累計預金額とは、個人・法人が銀行に対して預けた金額の合計を表しています。累計預金額が大きければ大きいほど銀行はその資金を個人・法人への融資および資産運用に当てることができ、収益を拡大することができます。つまり、累計預金額は銀行の収益力の高さを測る重要な指標になります。
上記を見てみると、三菱UFJ銀行に対する累計預金額が最も大きいことが分かります。これは、三菱UFJ銀行が三行の中で最も収益を上げやすい強みを持っていると言っても差し支えありません。
上記で示した通り、やはり収益は三菱UFJ銀行がトップの成績を上げ続けています。一方で、累計預金額が3位であった三井住友銀行はみずほ銀行よりも収益を上げています。これは一体なぜでしょうか?
それは、三井住友銀行の貸出金利がみずほ銀行よりも高いためです。
まずは、三井住友銀行の貸出金スプレッドをご覧ください。
次に、みずほ銀行の貸出金スプレッドをご覧ください。
(2017年~2020年間の両社貸出スプレッドの比較)
上記を踏まえると、借り手に対して三井住友銀行はみずほ銀行よりも高い貸出スプレッドで融資を行っていることが分かります。つまり、三井住友銀行はみずほ銀行に対して預金累計額では劣っていますが、融資先に対して「強い営業力」と「高い目利き力」を駆使して高いスプレッドで貸出を行い、大きな収益を上げることに成功しているのです。これらが三井住友銀行の強みです。
銀行における営業力とは「顧客先に対する情報提供能力」です。銀行が市場金利にスプレッド(=利鞘)を上乗せする際の対価として顧客の不足資金だけでなく、業界全体および競合他社における情報を企業に提供しています。つまり、「情報×資金を融通する対価」として銀行は利益を享受することができるのです。三井住友銀行が高い貸出スプレッドで資金融資を行っていることは企業に対して他行よりも有益な情報提供をしていることを指します。
融資先を見抜く力とは「将来性のある企業を見抜くこと」です。貸出しを行った企業から資金が返ってこない、すなわち資金が不良債権になってしまっては銀行は収益を上げることができません。したがって、資金提供の際に融資先候補が今後成長する企業がどうかを経営者との対話や財務データを分析して見極めることが大切になります。三井住友銀行が他行よりも高い金利スプレッドを提供しているだけでなく、高い収益を上げている実績があることから、行った融資に対する成功率が高いことが読み取れます。
次に、三行の経費率を見てみましょう。
経費率は銀行を分析する際に非常に重要な意味を持ちます。経費は企業が収益を上げる際にどれだけ費用を払ったのかを意味します。少ない経費で大きな収益を上げることが企業の理想です。経費率とは収益に占める費用の割合を占めており、これが少なければ少ないほど低コストで収益を上げられている、すなわち収益性が高いと言えます。
上記を見ると、三井住友銀行が他行よりも群を抜いて経費率が低いことが分かります。この成功要因は三井住友銀行が店舗の効率化(=店舗削減によって維持コストや人件費を減らす)を他行よりも推進してきたことです。三井住友銀行の支店が三菱UFJ銀行やみずほ銀行よりも少ないのはこの店舗効率化に向けた取り組みが原因となっています。三井住友銀行は既存店舗の軽量化を行い、インターネット予約をした方のみが来店できる仕組みを取り入れています。特に、その来店して対応する分野は高収益な資産運用や相続に関わるものが多く、銀行への振込手数料を収益とするモデルからの移行を図る戦略が見受けられます。
一方で、三菱UFJ銀行の経費率の高さが目立ちます。筆者はこれが三菱UFJ銀行の抱える課題=弱みであると考えています。三菱UFJ銀行の支店数は海外を含め600店を超えています。(三井住友銀行は2021年時点で400店、みずほ銀行は500店程度)このことから三菱UFJ銀行は支店の多額の維持コスト、主に建物の取得および賃貸料、メンテナンス費用に加えて、人件費を負担していることが分かります。それによって、三菱UFJ銀行の収益性は三行の中でも最も低くなっています。よって、三菱UFJ銀行は今後もより店舗削減および効率化に向けた動きを活発的に行っていくと考えられます。
まとめ
以上がメガバンク三行の業界/企業分析になります。
日本の歴史的低金利による影響から銀行が利益を稼ぐことが難しくなっている現状があることは事実です。その一方で、メガバンクは国内融資に代わる収益源を海外進出やVCを通じて模索したり、既存の事業運営を効率化することで経費を削減し利益を確保しようと日々挑戦を続けています。なので、銀行に今の時代に入行することは決してマイナスではなく、むしろ変革期を味わえる面白いフェーズであると筆者は考えています。
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