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神社の裏側

 正月に靖国神社で助勤をした宇宙人だが、当社は年間を通じて恒例行事の度に助勤者募集をしており、正月の功労者に宛てた一斉メールがわが手元にもやってきた。ふむ、どこも人手不足が深刻なのだな。知人の職員もいることだし、観桜の季節だし、東京の桜の開花を知らせる標本木もある神社だし、どれ、手伝いに行くか、と数日の助勤に赴く宇宙人。桜の開花予想は当初3月21日だったが、あいにく全然咲いてない。今の予想は25日までずれ込んだが、これも咲くかどうか疑わしい。こればかりは気温が春めいてこないとね。
 靖国神社はその立地上、近隣の法政大学や帝京大学、神主の資格が取れる国学院大学の学生に募集をかけるので、宇宙人の他は大学生ばかりだ。彼らにとってバイト料は良くも悪くもないが、ラクな仕事であることと短期であること、営利団体でないので内外の人間が比較的おっとりしていることなどが利点と言えば利点である。宇宙人もギラギラした営利活動は苦手だ。しかし二度目の奉仕を決断するには何か旨味があるのであろう? そうであろう? 宇宙人よ。

 はい、第一は神社の裏方劇場。聖域である境内に勤める職員といえども現代人であるので、いろいろ俗世とのギャップが見ものなのだ。例えば参拝時間が終わって閉門すると、事務所で業務する人員は人目をはばかる必要がなくなるため、厳かな巫女姿の職員が突如として玉串料の札束を両手に抱えながら往来し、いそいそと本日の集計に取り掛かる姿は見応えがある。
 巫女さんの俗世の姿に瞠目する宇宙人の作業と言えば、観桜期間限定のご朱印に朱印を押したり、それを日付別に上袋詰めにすることである。は? ご朱印とは朱印帳を持参した参拝客を待たせて、その朱印帳に毛筆で書いたりハンコを押したりするものでは? 確かにそうだが、かようなイベント期はそれでは到底間に合わないため、予め和紙に文字や朱印を入れておき、それを参拝客に渡して自分で朱印帳に貼ってもらうのだ。なに、普通の和紙ではないぞ。なんと桜と本殿をデザインしたミシン刺繍入りの可愛い和紙なのだ。ここに奉納の文字と日付を毛筆専門の助勤者が集中して墨書し、学生ら一般助勤が体重をかけて朱印を押すのである。これを1日に数千枚制作するのだ。1枚千円也。神社も経営大変なんだな。いろいろアイデア出さないとやってけないのだな。
 この押印作業を8時間続けるのはキツイなあ、と自分の日中の持ち場が別の場所であることを幸運に思う宇宙人。宇宙人のメインの仕事は撤下と言って、正式参拝を終えた参拝客に神前から下げられたお守り等の入った袋を手渡す作業である。何ということもない雑務だが、さすがに機械化やセルフにはできない。外国人もだめだ。かと言って時給も上げられない。物好き向けのお仕事である。

 まあ見ものは他にもあるよ。戦死した英霊を祭る硬派な神社ではあるが、基本形態は余所の神社と同じなので、イベント日の参道にはテキヤが出る。正月は普通の露店だったが、今回はキッチンカーに変わっていた。いずれも神社公認なので許可が要る。しかしどういう選抜で出店しているのか興味がある。すると見るからに参拝客でないオヤジが参集殿にズカズカと入って来て真っ直ぐ受付に向かったと思ったら、「キッチンカーはどうやったら出せるんだ」とタメぐちで巫女さんに詰め寄っているではないか。撤下品のかつお節を運びながら笑いをこらえる宇宙人。巫女さんも大変だな。こんな「俺にもやらせろ」客にも丁寧に応対しなくちゃならなくて。

 ね、面白いでしょ。こんな知られざる神社の内側風景の他、宇宙人には有難い利点がある。それは神様からのお下がり物である。地元のみならず全国各地から奉納された品々で、消費期限の短い生ものは職員たちに下げ渡されるのだが、余りに多いので助勤にも回って来る。女性らは果物を喜んで受け取って行くが、宇宙人は生野菜と酒が目当てだ。宇宙人が普段食べている野菜とは比べ物にならない品質、というか鮮度がいいのかな。包丁で切ると瑞々しいのだよ。1~2日神前にお供えしてあったはずだが、もしやその間にご神威が降り注いだのであろうか、自宅の冷蔵庫に入れても鮮度が落ちない。すごく長持ちするのだよ。そして日本酒はもちろん樽出し。ヒノキの香り高い高級生酒で、いやもう美味いのだ。助勤は下戸が多いので宇宙人は遠慮なく沢山頂けた。わーい。知床土産に買ったぐい飲みに注いで手晩酌する宇宙人。こんなに貰ってきて、冷蔵庫が一杯ではないか。生酒は賞味期限が早いから毎日少しずつ飲もっと。
 こんな感じで、観桜詣は4月上旬まで続きます。画像のような進化系ダンゴ等も参道のカフェで頂けます。

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