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ユズリ逢

※この物語はフィクションです。

あらすじ
高校一年生格闘家の捜里さがりトシユキは急にトイレへ行きたくなった。
するとかつてトシユキを二回負かした対戦相手、継斗ついとラスクと出会う。
なんと彼もトイレを探していた!
電車によるストレスに耐えきれないという共通点を見いだした矢先に二人のトイレ争奪戦が始まる。

―トシユキの場合

俺は格闘家だ。
高校一年生でやっとプロになったような人間だけど、スタート地点に立てたのは嬉しい。
アマチュアではよく負けて悔し涙を流す毎日だったから今回からは勝ち星上げていくぜ!
しかし、自転車かこれから取る予定のバイクの免許でいける範囲の高校にしたかったけどジムに近くて偏差値も高い所となると校則も厳しい。
そりゃそうか。
けど、大事な悩みだ。
俺は電車が大嫌いだからな!
厨二チックな例えになるが満員電車に人間がいたら反物質で溶かしたいくらいには電車が嫌いだ。

なぜなら?

やばい!
トイレへ行きたい!

最近は急な便意や尿意は無かったが、いくらプロの格闘家でも膀胱まで鍛えるのはただじゃ出来やしねえのさ!
しかし漏らすわけにはいかないのだ。
今では男性、女性と言葉には気をつけないといかない時代だが敢えて使おう。

男は漏らす訳にはいかない。

トイレチェックを昔はよく興行開催時や遠征時やっていたが、高校入学後には怠っていた。
なんて失態だ。
幸い日本はトイレが多くて昔、中国でプロ練した時の危機には陥らなかった。
だがあれはあれで覚悟も決まったものだ。
しかしここは日本だからな。
潔癖な国さ。
別に他の国を貶すわけでも日本が嫌いなわけでもないけどさ。

ってそんなことよりトイレはどこだ?
少し人が少ない市の高校だからか無人駅も多い。
となるとトイレがほぼ無い!
それは知っていた。
今ではホームの中にトイレがあったりする場所もあるが治安が悪いと高確率でアレが飛散している。
言わせるなよ?
俺は祈りながらトイレを探すことにした。
ホームから降りて真っ直ぐに駅のトイレへ向かうだけ。
なんだ簡単な話じゃないかハッハッハッ…あ!
あいつは!

明らかに知り合いでしかも目的が同じような焦った動きをしている高校生がいた。

継斗ラスク。
歳は俺より一つ上。
俺と同業者だ。

なんであいつがここに居るんだ?
いやそんなことよりあいつはここのことを知らない。
あいつよりも先にトイレを見つけてやる!
しかし俺もここのトイレがどこにあるか迷うくらいには下調べが足りてない。
試合で負けてここで漏らしてたまるか!
俺は急いでトイレを探す。
そうしている間に継斗に見つかっているとも知らずに。

―ラスクの場合

高校二年生へなんとか進級した。
意外と学業と格闘技の両立は苦労はするがなんとかなるもんだな。
やっぱすげえな俺って。
地上波でプッシュされていた最近では珍しいメディアに愛された格闘少年『捜里トシユキ』を二回も倒したが、団体が乱立した競技だったので他の格闘技に鞍替えした。
本当は入学した高校で格闘技の部活がほぼなかったのが原因だ。
まあ自分のジムでなんとかなるしさ。
そんな俺はある理由で都市部へ来ていた。

デートだ!
俺は自慢じゃないがAVマニアだ。
当然内容が内容なので歳上ばかりで飽きてきたところだ。
歳下の女の子は法律的にもアウトだし興味は無い。
ああいう子達を楽しむなら二次元で充分だ。
そうして試合の数をこなしている時にある人を見つけられた。
実は同い歳で健全なエロを目指すポルノ女優…アイドルがいたのだ。
その子が可愛くてとても俺には釣り合わない。
しかし、俺のことを地上波で知ったのかキック引退試合を彼女が見に来ていたのだ。
そんな彼女が俺をデート相手に指名してくれた。
やっぱすげえぜ俺はよ!
勝っていい事があるのが格闘技だよな!

しかし今俺はホームを電車に乗ってる最中に危機に陥っている。

トイレがしたい!
そういえば俺は電車が嫌いだった。
電車ではないだけマシな新幹線で来ていたのだが試合の時なら減量やらなんやらで誤魔化せたのだが

なんでだ?
なんで今このタイミングでもよおすのだ?
いくらプロといっても膀胱までは鍛えられねえ!
くっ。
せっかくの美しきJKと多様性という名の支配の現実の中見つけたオアシスでこんな事態を迎えるとは!
なんとか改札を通って見知らぬ土地でトイレを探す。
アプリでは探してもよかったが時間がなかった。
すると見知った顔が駅回りを走っていた。
あの子は確か俺に二回負けた歳下の捜里トシユキ!
なんであいつが?
地上波でプッシュされたわりには彼を知っている人がまとわりついていない。
夢がないなあ。
って違う!
問題はそこではなかった。
あれは明らかにトイレを探している目だ。
しかもここは彼が慣れている土地では無さそうだ。
奴より先にトイレを探してやる。
おそらく彼はホーム内のトイレの惨劇を目の当たりにした筈だ。

格闘家が試合外で対戦相手に負けるなんて最悪だ。
永遠に弱みを握られる。
仮に対戦相手だったとはいえ歳下かつ二回も勝ったのだからもう少し余裕を持ちたかったが状況が状況だ。
死んでも譲らねえぞ!

―トイレ争奪戦

トシユキはラスクにこの付近が地元では無いと思われないように迷いなくコンビニに入る。
今時駅近のコンビニにトイレがないなんてこと…
あったのだ。
そりゃそうだ。
駅なのだから。
トシユキがコンビニのトイレに入ろうとしたのを目撃したラスクはトシユキが出るのを待つ。
ここでラスクを騙すのもありか。
トシユキは適当にジュースを買ってコンビニへ出てラスクを無視して歩いていく。
軽くジュースを飲んで用を足した喜びを自慢する。
この時にラスクが悔しそうに地団駄を踏んでるのを見て勝った気になっていた。

ドクン。

しまったぁ!
飲んだせいか膀胱を刺激した?
なんて我ながら間が抜けているのだろう。
しかしラスクはもうコンビニに入った。
ただこれはこれで二回負けた仕返しが出来た。
ラスクに気づかれる前にトイレを探さないと。

トシユキは走る。
走る、走る、走る!
そしてやっと清潔そうに改装されたであろう駅のトイレを探すことが出来た。
普通はトイレって分かりやすく駅にはあるものだがこの駅はやや複雑だったが用を足せばいいんだ。

しかし現実は残酷だった。
三つ大を流すトイレが塞がっていた。

おいおいおいおい!
まさかとは思っていたが全部埋まるとは。

トシユキは走る。
確か公園があったはずだ!
格闘家になってよかったことは一回見た景色の情報を覚えられること。
将棋に少し似ているかな。
空間把握能力というか。
その時に公園があったのを見つけた。
しかも綺麗そうな都市部ならではのトイレも脳裏に焼き付いている。
急いでトシユキは公園のトイレへいくと一人綺麗な女性が佇んでいるのを見た。
都市部の公園で一人なんて凄い豪胆な人だ。
同世代っぽいし。
その女性があまりにもタイプだったからか何分か便意を紛らわせることが出来た。
そして公園のトイレへ入ると明らかにワルそうな学生がたむろしていた。

ふざけんなよぉぉぉぉ!
人が漏れそうな時になんでいるんだ?
ラスクに勝ったと思ったら…ともの凄い勢いで走ってきた誰かがこのトイレへ入る。
ラスクだった。
ワルそうな学生はトシユキとラスクの様子を見ると、察したのか露骨にトイレを塞ぐ。
トシユキはもしかしたらこいつら流してないんじゃと思ったらちゃんと綺麗に使っていた。
おっさんじゃなくてよかったとは思ったもののこれはこれでタチが悪い。

「捜里!お前よくも騙してくれたな!」

コンビニでの演技がバレたらしい。
そしてこの様子では駅のトイレはまだ全滅だったのだろう。
そしてこの公園に辿り着いたということはやはりラスクもプロ格闘家なのだ。

「まあ勝ちたかったし。」

「お前本当にやな奴だな?試合でも組み付きやがったし!あぁぁぁぁ…やばい…肛門が!」

「ハッハッハ!高校生にもなって中学時代の栄光を引きずるから…ぁぁぁぁぁ…や、やべぇ!」

ワルそうな学生は笑っていた。
こうなりゃ!
トシユキはライセンスを失わない護身用スキルを身につけていた。
それはある映画で学んだ技。

自由なモブフォーメーション!

トシユキはワル学生を挑発した。
勿論煽ったのではなくわざとワル学生に近づいて財布をスったように見せる演技だ。
実は中学時代は陸上部で県トップにも輝いたトシユキはさりげなく前転してワル学生をトイレから遠ざけた。
これなら陽動出来てラスクの用を足させる事が出来る。
そして貸しを押し付けられる。
あっ…トシユキは今の前転でよくないダメージをおった。
勿論漏らしてはいない。
ただの屁だった。
ワル学生もそれには気づかない。
そしてトシユキは「スってませんよ。ほら!」
と種明かし。
ワル学生は三人いた。
そして後ろから気配がしたので一発殴られそうなところを間一髪よけて腕をとらえる。
残り二人はこれだけでビビってくれたが攻撃した奴は喧嘩っぱやいのか更に蹴りをいれる。
勿論漏らすわけにはいかないのでこの一撃もさっと交わすと相手は転びそうになる。
そこを掴んで怪我をさせないようにすると「そんな趣味はねえ!」とさらに殴ろうとする。
それも避けると向こうが焦り始めた。

これが自由なモブ戦法。
攻撃を避けて、時に助けて暴力は振るわない。
しかしその反動でトシユキは膀胱と大腸を痛めた。
やばいやばいやばいやばい!漏れる!
するとワル学生達三人はトシユキに質問をした。

「何故漏れそうなのにそれだけ動けるんだ!お前は一体!」

そう言われたならトシユキも答えざるを得ないか。
勿論個人情報を隠すが。

「俺は越後のちりめん問屋だ。あんたらの攻撃なんて軽い便意さえあれば簡単に危機意識で乗り切ることが出来る。
人間はいざって時になんとか出来るんだよ。
夜型生活からギリギリ朝や昼型に変えられるように地道に早起き早寝。
人間はいつも正しいことをしているわけではないが逆もまた然り。
それだけトイレというのは大切な場所だ。
だからたむろせずに譲り合うんだ。
出ないと全ての攻撃を避ける俺のようなやつ……がぁっ…やつがくる!」

ラスク何やってんだ!
俺にアマで二回も勝ったやつが何ゆったり用を足してるんだ?
と思っていたらラスクはあの女の子と何か話していた。
明らかにあれは余裕のある行動。
よし!
陽動完了!
さっと県一位の足で用を足そうじゃあーりませんか!
すると学生達がトシユキに涙を流しながらまとわりつく。

「俺達…俺達は成績も才能もなくてただトイレでたむろするぐらいしか何も無かった。
俺達も強くなりたい。
多分あんたは歳下だが弟子にしてください!」

いやいや…あの…その…

「わかった!あっ…なら!早くトイレへいかせろ!」

トシユキはいつも隠している格闘家としての闘争本能を剥き出しにするとワル学生だった人達が怖がって帰っていった。
おいおい。
逃げ足俺より速いじゃんと感心したトシユキに便意がやってくる。
急いで走るとトイレへ入ろうとした人が逃げた。
よし!
確認するとラスクは綺麗に用を足していた。
現代っ子は素晴らしいな。

こうしてトシユキの戦いは終わった。

―ラスクが用を足し終わると

何故かちょっと危なそうな学生達を陽動してくれたトシユキ。
ラスクは急いで用を足すことにした。
やっと綺麗なトイレで用を足せる。
しかしこれはこれでトシユキに借りが出来た。
試合には勝ったが勝負には大敗を喫した気がする。
でも不思議と悪い負け方ではなかった。
それにここに来る途中、例の彼女が公園にいたのを見た。
彼女はラスクのことに気づかなかったようだ。
まさかそれだけトイレに夢中だったとは。

トイレから出た後、例の彼女が笑いながらラスクに近づく。

「やっと来てくれたんだ。」

「え?あ、あぁ。けど、なんでこの公園にいたの?」

どうやら彼女もここは慣れていなくてアプリに頼っていると充電が無くなって公園で待機をしていた。
そこでラスクのことを待ってると連絡するつもりだったらしい。
そういえばトイレのことばかり気になってチェックしていなかった。
これじゃあ彼氏失格だな。
せっかくのデートなのに。

「さっきの人、トイレへ急いで入っていったよ。
しかも怖そうな私達と同世代くらいの子達を懐柔させて。」

トシユキって一体何者なんだ?
地上波出たり、俺と戦ったり。
とラスクは不思議に思った。
とりあえずトシユキも用を足せたようだ。

「ここって面白いね。なんだか、デートの内容考えないといけなかったかな。」

「そんなことないよ。じゃ、楽しもうか。」

すると明るい顔のトシユキがトップランナーの走りでこちらへ向かってきていた。
怖ぇ。
そしてラスクの元へ。

「お互いトイレは済ませたな。」

「そうだな。あのさ、陽動ありがとうな。」

「これで試合では負けたがマウントをとる必要はないな。」

「あのぉ…マウント取ろうとしていたのは捜里の方なんだけど…」

「悪かったよ継斗君。」

彼女は笑いながらこのやり取りを見ている。
トシユキは「LINE交換しようぜ。」と言ってきたのでそうした。
ラスクも悪い気はしなかった。

「じゃあ、楽しんできな!」

ランランと声を弾ませて帰るトシユキ。

なんだか色々と負けてしまった気がするがトシユキは根が漢らしいのかもしれない。
ラスクと彼女はその話題で持ち切りになりながらデートを楽しんだ。
そして今度こそトイレがしたくなったら下調べだけでなくちゃんと走ろうと自分を信じることにしたラスクとトシユキだった。

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