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闇ドラ:三話

※全十二話で、五年前に投稿した自作です。

  投稿サイトに掲載した作品を処女作と読んでいいのかは分かりませんが、自分の話を描きたくて『私小説』にのめり込んだ作品でもあります。
なるべく掲載当時のままにしておりますが、読みにくいやその時代だから許された描写、表現には修正、加筆等をさせて頂いておりますが基本的に掲載当時のままにしております。

お楽しみ頂ければ幸いです。

あらすじ

闇ドラとは、男女の幽霊が死してなお生き続け紡がれる物語。


  わたしはかつて皆が憧れる花嫁姿で結婚をし、“側から見れば”幸せな毎日を送っていた。

  旦那の仕事が安定せずにそれでも懸命に支え続けた。
愛していたから。
けど人は現金なもので慣れればそんなことはなく、粗探しがはじまる。

  それも楽しかった…。

「どうしてあたしたちを残して死んだ!」

  目覚めるとわたしは叫んでいた。

  隣の男がいつものことだと言わんばかりに動じず、新聞を読む。

「はあ。死んでも悪夢にうなされる。」

  彼が新聞から目を離さずに返事をする。

「生きていた感覚は簡単には抜けねえよ。」

  実感が籠ったアドバイスどうもありがとう。

「だから狂っていくのね。」

  わたし達は喫茶店で過ごしていた。
これだけ生前の残滓があってもお腹も減らなければ匂いも感じない。

  視力は残っていても、多分これも感覚だけ死んで機能しないはずの脳(ないはずなのに)が何か思い出させてるのだろうか。

  とにかく落ち着くからここにいた。
「わたし達って死んでるのかしら。
嫉妬も同情も感情も残って、人を殺してしまったけれど。
フィクションで見た世界とは縁のない状態でなんか生殺しみたいな。」

「死人にはどうでもいうことだ。」

  ごもっとも。
他の死人も同じこと考えているのかな。

  わたしのように殺人衝動があった人もいて、“彼”に殺された…なんていったらいいのだろう?
消された?のか。
知りたい。
それから彼とわたしは喫茶店をあとにした。

この街がお世話になってます

  今日もしがない配達員をやっている。
インターネットは普及するが俺達の負担は倍増だ。
給与もそこそこ。
そしてああ…いつもの配達先だ。
あそこの担当になって俺の気力は減っていく。
絶対なんかある。
配達先に到着し、車を停める。
とっとと配達していこう。
不在は辞めろよな。
まあだいたい人が居るんだけどまるで狙ってたみたいに居留守っぽい雰囲気もあって気持ち悪い。

  そうだよ生理的にここだめなんだよ!

「すいません。紫藤しどうさん宛にお荷物です。配達に伺いました。」

  インターホンでお決まりの挨拶。
するとホラホラやってきた。

「いつもありがとうございます。」

  俺は荷物を丁寧に渡して印鑑を押してもらうなり挨拶も早めて帰ろうとした。
するとガッと腕を掴まれる。
あれ?なんか怒られせることしたかな?

  この地区に対する俺の嫌悪感が態度に出たか?と心配していると紫藤さんは俺にどうしても礼がしたいらしい。

  そのまま居間に連れられていく。
失礼な態度も隠す俺。

  居間でお茶を出してくれてから紫藤さんは戻らない。
やることやったしまだ他の配達先もあるのに帰りづらい。

  それにお茶も飲んでないのに眠くなる。
怠い。
そう思って声をかけようとしたが頭があがらない。
いや全身に力が入らない。

力なく振り返ると

『いつも届けてくださってありがとうございます。お礼に元気になってもらいますね。ふふふふふふ。』

  俺の耳から謎の光が出てい…た…


  わたし達は自己中に旅をしていた。
お金も体力もなにもない旅。
でも楽しさを求めてはいけない。
もとよりそんな感情ないんだけど。

  彼が口を開く。
「あんたさ。なんで理由があるのに人を殺すの?」

  さらっと答えたくない質問を投げかけてくる。
こういう所はまだ幼い。

「急にやめてよ。」

「残された子供達には手をかけられない。でも不幸だ、死にたいという人間は殺す。
甘さとエゴが滲み出た悪霊だな。」

  そう言われて何も言えない。

「まあ俺もそんなあんたを殺せばいいのにな。
なんだかわからないがあんたと旅するの悪くない。」

「まだわたしは質問に答えてない。」

  彼は勝手すぎる。
人の事はいえないけどそれが共感出来ているからか旅には同行している。

  わたしは質問に答えた。
「嫉妬していると生きていた感覚を取り戻せるから。
あの人を…旦那を探して殺してやりたいけどもうわたしより先に死んでしまったから。」

「あんたの旦那ってどんな人?」

  溜まりに溜まった愚痴を盛大に彼に伝える。

「稼ぎも多くなく、それほどわたし達家族に貢献してくれたタイプではなかったけどちょうどいいパートナー。」

彼は笑って

「まあその辺にいるタイプか。詳しいことはわからないけどあんた達うまくいってたんだな。」と返す。

  特別なことなんてない。ないから寂しい。そしてわたしも死んだ。

  彼は一言「着いた」とだけわたしに伝えた。

  適当に質問して適当に返事をする。
そして勝手に物事を進める。
そんな中着いたのは昼間でも閑散とした住宅街。

「街って変な噂や出来るだけお近づきになりたくない人間関係ってごろごろいる。
ここはなんかそういう念が渦巻いてるわ。」

彼は「そっちもありきたりだな」とだけ言って歩く。

  何をこの街で探しているのだろう。
また霊を殺すのだろうとは思っているけど。
不気味なほど閑静だ。
住宅街のこういう雰囲気は死んでも慣れない。
そしてたまに何か聞こえると思えば誰かの悪口だ。

「さあ、着いた。」

  そうこうしている間に目的地に到着。
彼はインターホンすら鳴らさず入る。
死人とはいえ礼儀は守ろうよ!と思ったが彼の表情はいつもの“殺し”の顔だった。

  中に入るや否や死体が吊るされていた。まるでミイラだ。

「人喰い幽霊紫藤。
あんたの名前は俺みたいな風来坊にも届いているぜ。」

  カッコつけちゃってと思っているとわたしは彼女、“紫藤”に羽交い締めされた。
何すんの?

『へっへっへ。
小僧に聞かれていたとはね。
静かに人殺ししていたけれど爪が甘かったか。』

「紫藤。こんな街じゃ逆に目立つんだよ。死者の間ならな。」

『ここの死人も口が軽いようだね。生きても死んでも噂を立てるやつぁ嫌いだよ。』

「俺はあんたも嫌いだけどなぁ!」

  彼はナイフを持ってあたしごと切ろうとした。
ちょっと!しかし彼は見事に紫藤という老婆の首を裂いた。

『この女…仲間じゃ…ない…のか…。』

粉のような血を流し消えていく紫藤。

「さあ、帰るぞ。」

「ちょっと待って。あたしごと切ろうとしたのはなぜ?」

  彼の表情はさっきと変わってない。

「忘れたのか?お前も俺の殺しのターゲットだ。」

  そりゃそうだけど。
なんだろう。
この悲しさと裏切られたような感覚。当然の考えでわたしは着いてきているはずなのに。

次への道

  新幹線にいつものようにタダ乗り。
幽霊になれば飛んでいけると思っていたが物理法則は万物に通用するようだ。法は無視出来るけど。

  今回会話する事はなかった。
食人する霊についてどこからそんな情報を得たのか気になるが、あたしごと殺そうとしたことに分かっていても辛さを感じたからだ。

しばらくして彼が口を開いた。

「自己中に周るわけだから、あんたも好きなようにしていいんだぞ。」

「好きにさせてもらってる。」

「そうか。探す手間が省けていい。」

「……次どこへいくの?」

彼はいつもの気だるいポーズのまま笑う。
「情報屋だ。」


続く


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