見出し画像

闇ドラ:五話

※全十二話で、五年前に投稿した自作です。

投稿サイトに掲載した作品を処女作と読んでいいのかは分かりませんが、自分の話を描きたくて『私小説』にのめり込んだ作品でもあります。
なるべく掲載当時のままにしておりますが、読みにくいやその時代だから許された描写、表現には修正、加筆等をさせて頂いておりますが基本的に掲載当時のままにしております。

お楽しみ頂ければ幸いです。


あらすじ

闇ドラとは死してなお生き続ける者達の物語。


「ったくあいつ何してんだろう。」

  彼を探し続けて何年か経つ。
そんなセンチメンタルなこと死んですぐになくなると思っていたけどフィクションに毒されてると気付く。

あるんだなこれが。

「知らねえよ。今まであいつが俺達の言う事聞いたことあるか?」

そう問われて正気に戻る。

「ないな。」

「だろ?素直な奴だったらそんな悩みはないって。」

  そりゃそうだ。
しかし謎が深まる。
ある海辺の情報屋に何度も出入りしていて俺達も利用しているのに会わない。

まるで事前に予知し避けてるように。

「もう私達に嗅ぎ回られたくないんじゃない?」

  そうだよな。俺も女々しいこと考えてないでやることやるか。

My Destiny

  俺達は生前の世界…所謂『この世』で言う水子すいこだった。

死んだ理由?
おいおい死者にそんなこと尋ねられても困る。
よくある話さ。

川で泳いで死亡。

交通事故に巻き込まれて金の事で無理心中。

  ちなみに俺達といるのは加害者側の方の家族だった。
あとは誘拐事件とか。

  ああこれを言うと悲愴感がどうのうるさい奴らがいて困るから適当に流してくれ。

  とにかく俺達はそうやって子供の頃に死んだ…。
あるいは産まれることなく死んだ霊達と暮らしている。

  霊は成長しないとか生前のままだと言われるがある程度は“変化”していく。

あえて「成長」という表現は控える。

こういうの詳しい「学者の霊」にあったことないからな。

  そんななか死産の男児を見つけた。
それが“あいつ”だった。
あいつだけが特別ではないけど。

  名前も住所も何もない。

  それは俺達“死人”はそうなんだけどな。
生前に拘る奴はあえてそのときの名前を名乗るけどろくなもんじゃねえ。

  誤解を招きそうだが死んだ奴が生前について拘ってて大丈夫だった奴を俺は知らないからそういう。

  まあ避けて通れる道じゃない。
生きてりゃ普通の事も、死ねば有り得ない反応になる。
子供だった俺達は短い期間しか生きていられなかったから死者としての順応も早いのかも知れない。

「あっ、いたよ。」

「やっぱ空手の練習してる。あの情報屋の言う通りだ。」

俺達の仕事。

  まあ勝手にやってるんだけど、若くして死んだ相手を引き入れることが仕事内容だ。

  これも賛否両論で“あいつ”はそれで離れていったけど。
おっと話が脱線しそうだった。

「なんなんだよあんた達。」

  尖ってるな。
生前の思い入れが強そうだ。

「構える気持ちは分かるけど落ち着いて話そう。」

少年は警戒を解く。

「すいません。死んだっていう自覚がまだ無くて。」

  生前の名前は“支倉はせくらシンジ”

  中学二年生。
空手とスポーツが好き。
家族構成は父と母、妹が二人。

  死因はいじめによる自殺。
今から三年前…と情報屋と他の幽霊達から聞いた基本的な情報だ。

  道着姿で死んでも練習なんて泣かせる。
武道やスポーツでみんな強くなれるわけじゃないのにそうすれば強くなるという決めつけは頭の悪い判断だ。

  それよりもこの子だ。
こういう行動には未練がある。
このままだとこの子は誰かを殺すかもしれない。

  彼女が少年に話す。

「私と同い年くらい?」

「その聞き方は古い。タメって言うんだよ。」

「いいじゃん同じ意味なんだし。」

「世代がバレる。」

  少年は二人の間に入る。

「すいません。僕の話を聞いてくれるんじゃないんですか?」

  二人は『しまった』といった感じで謝る。

もういい俺が話す。

「あのさ。
こっちは君の死因とかいろいろ聞いて周ったんだ。
でもそれだけじゃ不確かだから直接会いにきた。」

少年は疑っている様子だ。
そりゃそうだ。

「僕は弱いから一緒にいないほうがいいですよ。」

「そんなの関係ない。私達はあなたが心配でやってきただけ。」

少年はしょげている。

「心配だなんて。死人にこれ以上何が起きるんですか?」

「ミュータントになるわけじゃないけど、殺人者になるかもね。」

「馬鹿!ストレートすぎる!」

  少年は笑った。
無理してる笑いだ。

「僕は未練なんてないですよ。
知ってた。こうなること。
力がなんの意味もないことを。
弱いやつは弱いままだって。」

  俺達は少年の話を聴くことにした。

「僕はずっと弱くていじめられていた。
それが嫌で空手をやり始めたけれどなかなか強くならない。
よくあるいじめを乗り越えた有名人のように強くなりたかった。
師範にも相談したけれど、どうにもならなかった。
僕はその道場の宣伝に利用されただけ。
逆にいじめは酷くなり、耐えきれず遺書を書いて死んだよ。」

  俺達は黙って聞いていた。
この子は何も悪くないのにこうして死んでしまうパターンは辛い。

「大変だったな。話をしてくれてありがとう。」

  それから少年は続けた。

「それであいつらを習った技で殺そうとしたよ。でも出来なかった。憎いのに何かが止めた。」

  彼女が言った。

「家族のことが一瞬映ったんでしょ?」

「そう。」

「ま、その歳ならそうだよね。」

  彼の返事を無視する。

「殺せなかった。
他にすることなんてもうないのに。
何故だか躊躇ってしまう。」

「その反応は普通だと思う。」

  俺はできるだけこの子に伝えてみる。

「君は人の痛みがわかるのかもしれない。
ずっとここで空手の練習をしていたのは、少しでもその怨みを払うためでしょ?」

少年は驚いた顔で俺の話を聞いてくれる。

「生前もそうしてたのかな?その気になれば解決できたかもしれないけど君は別の道を歩いた。

他に方法はあったかも知れない。
でもそれを今君は実践した。
手を出す事を理不尽だと分かっているのに躊躇出来た。
充分強い。

  寿命がやって来る最中、普通は死ぬのもやられるのも怖い。
立ち向かおうと悩んで生きた君を俺は凄いと思うよ。」

  少年は涙を流して俺達に駆け寄った。
本当に…本当に何もかも押し殺していたものを取り戻すように。

「本当は殴りたかった。
今だって。
でもそれじゃあみんなが哀しむから。
だから少しでも強くなるためにずっと鍛えてた。

でももう死んでるんだもん。
生きている人を頼れなかったからそれから…それから…」

  少年に好きなだけ甘えさせた。
死んでるんだ。
本当は生きている時にしておくことが大事なことかもしれない。
でも俺達は死人の気持ちがギリギリわかるぐらいだから。

  少年は好きなだけ泣いた後、項垂れるように地に足をつけた。

「中学二年生でこんなに泣くなんて。皆さん失礼致します。」

「いいって。同年代…タメだし。」

「もうどっちでもいいよ。」

「ええ?あんたが言ったのに。」

「二人とも面白いですね。」

  危なそうだったけどよかった。俺達の説得でなんとかいった。

「そう言えば、もし僕が誰かを殺しそうだったらどうな…」

少年の頰を何かが掠めた。確かめるとナイフだった。

「お前は?」

綺麗事にトドメ

「なんであなたが?」

  彼女がナイフを投げた主を見る。
そして彼が少年に話しかける。

「お前が誰かを殺すなら俺がお前を殺す。それだけだ。」

  こんなタイミングで来るとは。
情報屋の話を聞いていた限り目をつけると思っていたが。

「もう彼は大丈夫だ。怯えさせる行為はやめろ。」

  そいつはナイフを拾って俺に向かう。

「人には人の事情がある。
この場合霊か。
俺は警告しただけだ。ムキになるな。」

「相変わらずだな。」

  “こいつ”は俺達と一緒に過ごし、後に抜けた男。最初に話した仲間だ。

  少年は恐る恐る俺達に聞く。
「こ、この人知り合いですか?」

「仲間よ。」

  彼女が説明してくれた。
その後の話をあいつは続ける。

「お前達を仲間だと思ってる。坊や。
俺は生まれた時に死んだからな。
そいつらはそんな子供の霊達を集めて仲間にしてるんだ。」

「だから僕のことを知ってたんですね。」

少年は冷静を装っているが震えている。

「でも危なかったぞ。
お前らもう少し早く来い。
俺達はずっと見張ってたぞ。」

  俺達?
「他にも誰かいるのか?」

  そこには女性がいた。
なんだか死者にしては感情表現豊かそうな人だ。今までのやり取りを見ていたのか涙と驚きが顔に出ている。

  俺はあいつに向かって話した。

「ベタベタくっつけとかそんな決まりはないし、裏切ったとかは思ってない。でも今回は手を出すな!」

「わかってる。
お前のそういう所もな。
けど、死者が生者を殺すなら俺は誰だろうと殺す。
身勝手な旅にもルールはある。」

こっちとあっちのルールが食い違うこともあるかもしれない…か。

「警告ありがとう。
わざわざ俺達に伝えるなんて本当に我儘わがままだな。」

「とにかく気をつけろ。
それとお前ら。
対象年齢広げとけ。
歳上の霊ともコネがあった方が後々やり易いぞ。」

「それもありがとう。情報屋に聞きに言って調べる。」

そう言い終えるが速いかいつの間にか二人はいなくなっていた。

プールにて

「なんか今年の熱さは霊にも及ぶのかな。」

小学校のプールでいい大人(の霊)が泳ぐ。浮かぶ。

「それよりだいたい情報屋が言ってた通りなのねあなた。
まだ分からない事が多いけど、一緒に育った仲間ならもうちょっと話しても良かったんじゃない?」

  彼はプールサイドで服を脱ぐ事なくだらけている。
最近彼のだらけた姿ばっかりでなんかイメージが崩れる。

「余計なコミュニケーションは俺の旅に必要ねえよ。仲間ならとくに。」

「仲間だから伝えないといけないことは伝えたほうがいいんじゃないの?」

「うるせえな。母親じゃないんだから…」

  彼の言葉が詰まる。
私はこのなんとも言えない状況を打開するために必死だった。

「ほ、ほら、母親って言っても絶対じゃないし色んな人いるし私なんて子供置いて自殺して死んでから生きてる人も殺して…はぁ。だから…」

「もういい。」

  少年少女。
特に少年による何かや誰かの影響力は大きい。

  人間弱い者に惹かれていく性質だ。
大抵は強者に惹かれるが違う。
弱いもの虐めはその最たる例だ。

だからこそ大金星というのは強く輝く結果になる。

  強い者ほど敵が多いのだ。
最も弱く最も強いことが理想である限り、生きづらさは蔓延する。

  でも殻を抜ければ世界は広がる。生きているうちに経験できればいい。

続く

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?