あの日僕はどう感じたか一章
※ 過去掲載作です。
全七章。
過去に投稿サイトへ掲載した作品を再掲載しております。
なるべく掲載当時のままにしておりますが、読みにくい表現やその時代だから許された描写、表現には修正、加筆等をさせて頂いております。
基本的に掲載当時を尊重し、再掲載
お楽しみ頂ければ幸いです。
第一章:思春期へ
僕は当時中学一年生。
二〇〇六年は思い出せば大変だった。
受験を意識しなければならないし、部活や他の小学校から入ってくる子達との関係等やることが多くなるから春の桜ではしゃぐほど余裕はなかった。
雰囲気も変わるし、先輩も怖かった。
「興哉。
同じクラスだな。」
「うん。よろしくね。」
「中学になってもまだその口調かよ。笑われるぞ。」
彼は慶太。
僕は友達は多い方ではなかったから彼と一緒のクラスで一安心だ。
クラスに入るともうグループができあがっていた。
スポーツが得意な人、勉強熱心な人、女子同士、男女混合、アニメが好きそうな人。
僕達は多分ノーマル。
あと、ちらほらグループに所属しているわけでなく一人で過ごしていたり、少し変わった子もいた。
「やっぱり緊張するなあ。」
慶太はそんな僕を励ましてくれていた。
「クラス分けなんていっつも一喜一憂するかばっかだろ。
すぐに慣れるさ。あと三年もあるんだからさ。」
そうなのかなあ。
僕はうんとだけ返事した。
すると、誰かが話しかけてきた。
「おい。お前ら灘小の奴らだろ?よろしく。」
慶太と一緒によろしくと返事する僕ら。ただ、慶太はつっこんだ。
「名前言えって。」
その子は悪りぃと平謝りをして名を名乗る。
「俺は時田竜也。
お前らは?」
「俺は平滝慶太。」
「僕は白風興哉。」
時田君はケラケラと笑った。
「凄え名字だなお前ら。
古風というかなんというかさ。
ま、お前らの事これから教えてくれよな。」
結構いい子なのかな?
僕は慶太に目を合わせる。
慶太も同じように思っていたのかもしれない。
その後、時田君は別の子によばれていった。
「別の小学校から来た奴らともなんとかやっていけそうだな。」
慶太がそういうならなんか安心した。
口には出さなかったがそうアイコンタクトした。
校舎裏で
「うっ。」
俺は腹を抑える。
「やっぱり中学になったからってすぐ成長できるわけじゃないか。」
俺を殴ったそいつが自分の拳をさすりながらそう呟く。
その後そいつは俺の襟を掴んで壁に叩きつける。
「耐えるか。
ムカつくな。」
更にそいつは俺に蹴りを加えて去っていく。
強くならなきゃ。ちゃんと。
春過ぎて
一年四組。
ここが僕達のクラスだ。
春もあっという間というには遅いくらいに終わってくれたおかげで人間関係もそれなりに出来てきた。
慶太は好きな音楽ができたらしい。
年齢も年齢だから変わり過ぎたジャンルでないといいな。
そんな事を思うようになっていた。
僕は相変わらずJ-POPを放課中鼻歌で歌っている。
「好きだな。
その歌。」
「うん。」
「出なきゃ歌わねえよなあ。
あのさ、興哉は他に何か好きな歌ねえの?」
「ないよ。」
僕の話し相手はすっかり時田君だ。
彼からは夏直前辺りに
「竜也って呼んでくれよな!」と嬉しそうに言われたけどまだ無理だよ!
それに時田君は結構人見知りだ。
僕達には勇気を出して話しかけてくれたのかもしれない。
いまだに前の小学校だった時の子達と話すことが多い彼。
とはいえ、その子達にも別の友人ができ始める頃には彼の人間関係は僕に集中し始めてきた。
それに僕は見てしまったのだ。
プールの授業。
小学校の時とは違って更衣室が用意されており、もう二十五メートルなんてものはなく倍になったコースが待ち受けている。
泳ぎにはそんなに自信はない。
でも授業だから頑張ろう。
そう思って慶太と話しながら着替えていた。
「五十メートルとかだるいよな。
授業じゃ、女子の水着も興奮しないし。」
「そうだよね。僕はドキドキする。」
「興哉?それどういう意味?」
「あ、女子の事じゃなくて五十メートルの方。」
他愛もない会話だ。
実は五十メートルプールは怖く感じていた。
その時、ふと離れた場所で誰かと二人で着替えていた時田君を見ていた。
時田君は最近は暑いからという理由で坊主頭だ。
そこから笑いながら水泳帽を被る姿を見て、彼の割れた腹筋に見惚れかけていた。
時田君は部活入ってないのに。
だからこそなのかこの時には言葉にできない高揚感に心がついていかなかった。
「おい。興哉いくぞ。」
そう言われて目が覚めた。
そして今に至る。
「あのさ、興哉ん家行っていい?平滝はどうする?」
客観的に彼から見た力関係なのか僕は下の名。慶太は名字だった。
でも、時田君ならいいや。
彼は運動部にでも入ったら良さそうなのに一向に部に入る気配が無い。
うちの中学は部活への強制はない。
親からの強制の場合は悲しいけれど従わざるを得ない子が大半だ。
つまり、彼は暇を持て余している。
僕も春から所属している陸上部での練習期間も終わったのでせっかくだから僕の家へ彼を招くことにした。
1.この痛みを強さへ
僕は慶太と最近、教室と下校時にしか話していない気がする。
お互い新しい友人や今まで話したことのなかった同じ小学校の子や、部活や近くの先輩と話していたり、しぶしぶ行かされている塾でできた友人との関係で忙しいのかもしれない。
放課後、僕は珍しく一人で帰ろうとしていた。そしたら背中を誰かがたたく。
その人は慶太だった。
僕らは自転車を押しながら話す。
「いつもごめんな。あんまり興哉と話せなくて。」
別に気にしなくていいよと思ってはいるけど寂しかったので素直に心配してくれてありがとうと伝えた。
「中学生だし仕方ないよ。
でも、下校する時他の子呼ばなかったの?」
「興哉が一人で帰ろうとしてたからさ。」
今日はたまたま一人で帰ることになっていたけどそこまで気にしていてくれたなんて気付かなかった。
「時田って今じゃお前とばっか喋るよな。
同じあの子と同じ小学校だった子と喋ったけど珍しいことらしいぜ。」
「なんか気に入られちゃった。」
「悪い奴じゃないからいいけど。
興哉って押しに弱いとこあるからちゃんと話せるかなって。」
「僕は気弱かもしれないけど時田君とは楽しく過ごしていくよ。
中学でできた友人の一人だし。それに、今日あの子うちに来るんだ。」
慶太は今までと話す機会が減ったからかその話せなかった期間を聞いてくる。
優しいのだ。
「ま、俺も時田と話す機会少なかったし。
進展していくといいな。」
いつの間にか話していたら分かれ道へとついた。
じゃあなと慶太が手を振ってる。
時田君か。
何して遊ぼうかな。
もう一つの放課後
俺は強くなる。
強くならないと。
小学校の時は俺はまだ馬鹿だった。
だからこそここで変わらないと。
俺は毎朝筋トレをしていた。
まだ柔らかな腹筋。
やや細い腕。
中学上がってから身長も意識した。細い脚も気になる。
腹筋の時に独特の負荷をかける。
ダンベルを持つ時も力の入れ方に気を遣っている。
食事も母親と話して手伝いながら栄養にも気を付けてる。
母親からは手伝ってくれて嬉しいと言われたけど当然じゃないか。
今まで作ってくれてありがとう。これからは俺も作るから。
兄さんや妹からは何をやる気になってるかわからないと言われたが別にいい。
俺は陸上部に入った。
あまりコミュニケーションは得意じゃなかったからひたすら走った。
水泳も考えたけどずっと入れるわけじゃなかったから。
それ以来、運動が義務になってしまった悲しさを俺は強くなるという目的で相殺した。
そうして部活帰りに俺は自転車置き場に戻ると
「最近頑張ってんじゃん。」
よりによってまたこいつだ。
俺は無視して自転車に向かう。
すると後ろ髪を掴まれた。
「痛い!」
「無視すんなよ。」
さすがに人に見られるからかすぐ手を離して俺は裏に連れてかれた。
「がっ!」
壁に俺は叩きつけられた。
またなのか。
「お前みたいに少し頑張って状況変わるなら苦労はしないんだよ。」
俺は唾をそいつに吐いた。
そいつは頬についた俺の唾を怒りに震えながらハンカチで拭く。
「てめえ!」
そいつは俺を殴る。
当然殴るのは腹だ。
顔は周りにバレるから。
「ちょっと抵抗したくらいで調子に乗るなよ。」
そいつの拳がまた俺の腹に当たる。
「がはっ!」
髪を掴まれ、木にぶつけられる。
「少し硬くなったな。ったく。」
次は脚で蹴られる。
「うっ。」
「唾を与えたお礼がしたい。」
そいつは近くにあったスコップを持ってきた。
「死なない程度にしてやるよ。」
これは流石にやばいな。
俺は少し覚悟した。
「やめろ!」
誰かがそいつの腕を力強く握りしめる。
「誰だ!てめえ!」
スコップがそいつの腕から落ちる。
「強えな。
誰だお前。」
そいつは誰かに向かって腹を殴ろうとする。
誰かはそれを避けてそいつの動きをとめた。
凄い。
何かのドラマみたい。
「わかった。
まいった!まいったって!」
「典型的な弱い者いじめか。
なんて事を。」
助けてくれたあんたには悪いけど俺は言った。
「弱くなんか…ない…かはっ。」
そいつは覚えておけよと典型的な捨て台詞を吐いて去った。
「大丈夫か。」
俺は差し伸べられた手を取り、立つ。
「入学からずっとこんな目にあってたのか。」
優等生タイプなのかな。
俺はとりあえず今までの事を話した。
「そうか。
それでずっと鍛えてたんだ。話してくれてありがとう。」
「別に。だから俺はかたは自分で付けたかった。」
助けてくれた相手にこんな強がりをしてはいけないとは思いつつも俺は抑えきれなかった。
「誰にも言わないからさ。
あ、名前いいそびれたな。俺は平滝慶太。一年四組にいる。」
「俺は…峰桃吉。」
俺とタメなんだ。
その割には体格がいい。俺も…これくらい強くなりたいな。
「保健室まで送るよ。」
「なんて説明すればいいかな。」
「怪我をしたって言えばいい。
先生もそこまで気は回さないさ。」
「世知辛い。」
「とにかく送るよ。」
俺の人生にもこんな相手が現れるなんて。何が起こるかわからない人生だ。
2.時田竜也を招いて
十六時過ぎて時田君が僕の家へやってきた。
「興哉ん家やっぱ遠いな。学区違うってのは大きいぜ。」
彼の家と僕の家はだいぶ離れていた。
小学校違うというのもあるけどわざわざ来てくれた事に嬉しさを感じた。
僕は彼を自分の部屋に招き入れる。時田君がお邪魔しますと良い声で言う。
すると階段を登る途中母から声をかけられた。
「中学で仲良くなった子?初めまして。興哉をよろしくね!」
時田君は「こちらこそよろしくっす!」と坊主頭に似合う笑顔で母にピースする。
彼は少しチャラい子なのかもしれない。
僕は時田君にゲームか好きな漫画を読まないか提案した。
「興哉優しいな。
ま、暑いしちょっと涼しくなったら考える。」
彼は黒のタンクトップをおもむろに脱ぎ出し、上半身を露わにする。
手でうちわのように自分の胸筋を仰ぐ。
「ここで?」と僕は目のやり場に困った。
すると時田君は首を傾げる。
「どうした興哉?やっぱ俺が来たのまずかったか?」
違う!そうじゃないんだよ。
そうじゃ…ないんだよ。
彼の上半身は見事だった。
肩は日焼けの跡があるが大胸筋、腹筋にかけた部分は焼けていない。意外。
彼、この期間で海に行ったとかいってたのに。
日焼け気にするのかな。
エアコンが効いてきた段階で彼はタンクトップから上着を羽織った。
「この漫画面白いじゃん。興哉って結構こういうの読むんだな。」
「古本屋で立ち読みしたら面白くて、つい買ったんだ。」
彼はその話には生返事で続きを読んでいる。
フィクションでよくある床にうつ伏せになって漫画を読み、半ズボンから毛が生えてない脚を動かして素足からも時折指が動いている。
なんなんだろう。
珍しくない光景なのに結構見入ってしまう。
時田君が僕の顔を上目遣いで覗く。
「どうした興哉?なんかしてていいぞ?」
「いや、なんかちょっとぼおっとしてさ。」
「もしかして潮小のダチを連れてきたの俺一人?」
僕は潮小学校だった子達とも中学校では仲良くて連絡先も交換していたけど家まで呼んだのは確かに彼が最初だ。
「まあ、他の奴ら忙しいしな。
夏休みまでまだ時間もあるし。」
「夏は部活の練習があるからさ。」
そういえばそうか。
と時田君はガックリした。
「じゃあ、興哉とも遊べないのか?」
そんなことはないよと僕は祭りのポスターを出して言った。
「あ、その祭りお前も行く?いいな。あ、女友達っている?」
気が早いよ。やっぱちょっとチャラいのかな。
「そんなに練習ばかりじゃないから、空いたら連絡するよ。」
時田君は勢いをつけて寝た姿勢から立ち上がった。
「もし祭り行くなら平滝も誘おうぜ。俺も誰か呼ぶよ。」
「でも、時田君の友人は僕もまだ知らない子もいるからちょっと反応できないかも。」
「もしかして人見知り?あんなに他の奴らと喋ってるのに?」
他人の行動はなぜこうも都合よく見えるんだろうね。
「まだ連絡先交換してない子もいるからさ。」
時田君は携帯の写真を見せて僕に話す。
「こいつは同じクラスだし、俺とよく話してるよ。
興哉や平滝とも話したがってたしさ。
あいつ部活入ってたかなあ。
祭り空いてそうか聞くわ。」
そういえば部活で思い出した。
「ありがとう。
あとごめんね、話変えちゃうけどさ。
時田君は部活入らないの?」
時田君は当たり前じゃん!と謎ポーズで返した。
「俺の親もそういう干渉しないんだ。
ま、俺スイミングスクールに他でも極真空手通ってるし。」
幼い頃から通ってるのかな?別の方向で驚いた。
「最近はあまり行ってないの?」
「いや。俺規則正しくやってるわけじゃなくてさ。
家で少し鍛えてるし。
上下関係とかに振り回されたくもないし。
まあ、学校ではあまり運動してそうに見えないのに実はしてるってポジションで楽しみたくて。」
舌をぺろっとだして嬉しそうに語る時田君。
ちょっと変わってるのかもしれない。
「とりあえず僕も慶太とかに声かけてみるね。」
良いな。
だからこそあの素敵な肉体美なんだ。
モテたいのかな?僕も頑張んなきゃ。
でも間近でこうして彼の身体を見れて興奮と嬉しさが儚い。
そして遅くなったので彼を外へ送る。
「初めて来たのにありがとうな興哉。また来るぜい!明日学校で会おうな。」
そういって彼は自転車にのって帰っていった。
夕方でもまだちょっと暑い。
明日も水泳の授業だ。
今日は少し勉強して早く寝よう。
そして、時田君にありがとうとまた学校で言おうかな。
それぞれ
あーあ。
みんな祭りを楽しむ気ゼロかよ。
塾に部活にあぁぁぁぁ、こういうの本当嫌だな。
しかも俺達中一。
一番楽しめるじゃん。
卒業まであと二年もあるし。
せっかく別の小学校の奴らと一緒になれたのに。
まあ、俺は話せるようになった奴少ないけどさ。
白風興哉。
良い奴だな。気弱そうな子と思ってたけど陸上部入ったり、なんだかんだクラスの友達も増えてるし勉強もしっかりやってる。
ちょっとくらい気を抜いてもいいだろうに。
俺の知らないJ-POPの曲を口ずさむ姿がなんか面白い。
平滝とはうまくいってんのかな。
最近あの二人話してる姿みないな。
仲悪いわけじゃないんだろうけど。
「おい、竜也。」
おっと。俺なんかぼおっとしてたか。
「もうこのクラス慣れたか?」
こいつは赤井嶺二。
潮小の頃からのダチだ。
一緒のクラスになれてよかったと思うけどそういえば俺もこいつと話している時間少なくなったかも。
新しい友人が出来てくるとこうなるのかな。
「そういや、話唐突だけどあいつって今五組にいるんだよな?」
またその話かよ。
と言おうか迷ったけど俺も気にしていた。
「悪い先輩とも連んでたりとかいろいろ噂絶えないけど…」
「確証ない事で惑わすなよ。あいつにもあいつの考えあるんだろ?」
この話題になるとマジになるのが悪い癖だ。
「悪かったよ竜也。
じゃ、予鈴もうすぐ鳴るから。」
やっべ。もうそんな時間かよ。
俺は授業の用意をした。
あいつは自分の腹筋を上から下へさすっていた。
まだ小学生なのに鍛えられた腹筋。
「優津樹は凄えなぁ。
じゃあ、俺も。」
俺も俺なりに鍛えた身体を誇示する。
そんな馬鹿な事をして楽しんでいた。
いつしかあいつも変わっていった。これも思春期なのか?
俺にはわからなかった。
わかっていたら止められたのかな。
「時田、お前がこの問題を答えろ!」
おいおい俺が呼ばれてたのかよ。
まさかな。
クラスで笑いが起きる。
俺はとりあえず問題に答える。
このクラスの奴らで出来た友人はまだ少ないけど、優津樹。
お前はどうだ?
あいつは五組か。遊びに行ってみようかな。
走れ!
俺の名前は峰桃吉。今は満潮中学一年生。
小学校は干潟小。
干潟小は人数が少ない田舎の小学校だった。
「桃吉、映画見ようぜ。」
友達の少ない俺といつもそう言って遊んでくれた刈巣新人。
彼は別の中学に行ってしまった。
連絡先も交換したけど、あいつに甘えるわけにはいかない。
そう思って俺は今まで満潮中学で起きた事は黙っていた。
陸上部に入ったわけだし、俺は強くならなきゃ。
どこの小学校だったかも名前もわからない奴に俺は急に攻撃された。
そこを平滝慶太に助けられた。
嬉しいがやっぱり、ちゃんと自分の力で乗り越えたい。
俺はひたすら陸上部で与えられたメニューをこなした。
日に日に筋力が増していくのがわかる。
元々運動が苦手だったわけではないがこんなにハードな運動は初めてだった。
ふと更衣室で一人になる機会があった。
俺は鏡に自分の上半身を映す。
まだまだだな。自分の大胸筋を触り、腹直筋にかけて思わずさすってみた。
「まだまだこんな鍛え方じゃ出してもらえないか。」
俺は悔しくて自分の腹筋をゴリラが胸にドラミングするように叩きまくった。
ま、これからだ。まだ中学一年生だし。
俺は更衣室を出ようとしたら一人男子がいた。
「お疲れ様。」
こいつはたしか同じ中学一年生。
口数は少ないがちゃんと練習をこなしていていろんな奴と話してたっけ。
「お前こそ。」
俺はもう着替え終わったがなぜかそいつと話してみたかった。
黙って着替えるそいつ。
「あのさ、お前名前なんだっけ?」
今更だったが知らなかったし。
そいつは着替えながら応える。
「僕は白風興哉。」
良い名前だな。
なんて思った。
そいつの身体をよく見てみたが適度に身体は出来ている。
背から腹筋にかけて多少ガリガリとはいえこの夏の厳しい練習を耐えた甲斐もあって白風から滴る汗も相まって良い絵になっていた。
「俺は峰桃吉。この部活入って結構経ったが紹介遅れたな。」
「なかなか全員と話せなかったもんね。僕も遅れちゃってごめんね。」
「こういうこともあるだろ。
今話せたし。」
よろしくな。
そうお互い言いあった。
俺は更衣室を後にした。また明日も俺は走って行く。
白風をはじめ、また話せる奴が増えるといいな。
興哉目線
僕は猛暑の中走っていた。
不思議と楽しくてそんなに苦ではなかった。あまり無理はしないで練習に励む。
「白風君、結構ガッツあるね。」
一学年上で女子の先輩に僕はそう褒められた。
淡々と練習メニューをこなしているつもりだったのだけれど。
「興哉〜待って〜。」
他の子たちはヘトヘトだ。
「あともう一周。ちゃんと水分補給してね。」
先輩にみんなははいと返事をする。
「白風君はもう帰って大丈夫。塾とか今日もあるでしょ?」
先輩はとても優しい。
僕もそれだけちゃんとやれてるのかな。
僕はコクリと頭をさげて更衣室へと向かった。
更衣室に入ろうとした時、誰か気配がしたのでそっと覗いてみた。
別に不審者とかそういうのじゃなかったけどこの時間帯に更衣室へ一人でいるのは怖かったから。
すると誰かが鏡に向かって自分の身体をさすっている。
僕からすると羨ましい肉体だった。
こんな子が陸上部にいたんだ。
そしておもむろに自分の腹筋を叩きはじめた。
僕は時田君の場合と違った真新しさと興奮を感じた。
どうしてだろう。
前から気になっていた不思議な気持ち。
そして彼が着替え終わって更衣室を出るときに僕は入っていった。
それから彼といろいろ話してみた。
峰君…か。どことなく陰がある。でも話してみたら案外親しみやすそうだ。
これから仲良くなれるといいな。
僕は着替えた後嬉しくなって鼻歌を口ずさんで帰った。
続く
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