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闇ドラ八話:邪魔な風潮

※全十二話で、五年前に投稿した自作です。

投稿サイトに掲載した作品を処女作と読んでいいのかは分かりませんが、自分の話を描きたくて『私小説』にのめり込んだ作品でもあります。
なるべく掲載当時のままにしておりますが、読みにくいやその時代だから許された描写、表現には修正、加筆等をさせて頂いておりますが基本的に掲載当時のままにしております。

お楽しみ頂ければ幸いです。

あらすじ

  人には何か持たせちゃいけないよ。
ろくな使い方をしないから。
ほんの一握りの確立でしか使いこなせやしない。使いこなせたところでなんともない。
だとしても何も価値がないなんてことはありえない。
誰も使えないなんてのは間違いなんだよ。

 自分は死んだのか。
目覚めると何事もなかったのかのように街に自分は立っている

  生前の記憶。
なんなんだろう。
あまりまともに喋れた覚えがない。
時間がどこかで止まったままだ。
ただ一つ分かっているのは自分が普通に育ったわけではないことだ。

  なんだっけ。
生前に誰かから聞いた記憶をたどれば「ちてしょう」だとか。
だから自分はうまく喋れない。
そもそも知らない。

  誰かから『脳の形が違うから』と言われたような気がする

  お医者さんかな。
しまった。
見ていてくれる人がいるかもしれない事を失念してしまった。

  この語りはすべて自分の脳内だ。
多分何かの真似事なのは学者で理屈っぽい父親の影響なのかも。

  それとも養護学校で出会った友人達の誰かか。常に付き添ってくれた母親か。
嫌な顔をしながら自分の排泄の世話をしてくれた係員だろうか。

  自分がなんなのかわからない。
でもこれでよかったかもしれないな。
「ちてしょう」というよくわからない何かが自分を現しているらしいことだけしか知らない。

  それ以上はあまり考えてもしょうがないかもしれない。

『いいか?
お前は何の役にも立たない!
こんなことお前にいってもしょうがないが俺もお母さんもお前が生まれて苦労しかしていない!
お前の兄も妹もお前の存在が疎ましいんだ!』

『お前が役に立つのは精々死ぬことくらいだ。
自分達はお前の障害年金でようやく賄っている部分もある。
普通ならそんな制度は使わない。
なぜか教えてやろう。
どうせわかりゃしないがお前が出来損ないだからだ!』

  難しいことはよくわからない。
ただ言われて嬉しかったと言われれば違う。
でもどこか当然の反応だよなと思う自分がいた。

  自分がこうして考えられているということは、まだ死んでないのではと考えるがまだわからない。
げんに街の反応を伺ってみても参考になりゃしない。

  生きていても変わらず自分以外のことは考えないからだ。
それもそうだよね。

  でもからかう人間すら自分の前に現れない。
みんなすり抜けていく。
生きている頃とは違う。
本当にすり抜けていく。

「立ち往生してどうした。」

  黒い服の誰かが自分に話しかける。
自分はなんて反応したんだろう。
あれ…死ぬ前こんな状態でも喋れたはずなのに。何を喋っていたか記憶にない。
なんなんだ?

  自分は髪をくしゃくしゃにする。
彼は物言わず自分の手を握った。
どういうことだろう。
どこかへ連れてかれるのかな。

「死にたてほやほやか。」

  そうか。
死んだんだ。
よかった。

  自分はどんな表情をしていただろう。
もういいや。
死んだんだ。
役に立ったんだ。

  黒い服の人は自分の顔を見るなり一度も振り返らなかった。
なんでだろう。
今、自分が一番輝いている最高の時なのに。
この人に今自分が感じている輝きを分けてあげられないかな。

鉄道

  黒い服の人は電車に乗ろうとする。
そして改札をそのまま通り抜けていく。
そこを自分が止める。

「なにすんだよ。」

  だめだよ。
ちゃんとお金を払わないと。
捕まってしまうよ。

「はぁ。あのな。
俺達は死んでるんだ。
簡単に言うともうお金を払う必要なんかないんだよ。
あったって受け取ってもらえない。」

  そんなことを淡々と話す黒い服の人の顔は悲しそうだった。
そんなこと生きている人が聞いたら逆に喜びそうなのに。

  でもお金ないや。
駅員さんごめんなさい。
無料で乗せてもらうね。

  お互い黙ったまま電車内の椅子に座る。
隣は黒い服の人。
その隣が自分。
不思議とその周りには誰も座らなかった。
夜といっても人が多い時刻はあると思うけど今回は閑散としていた。

  自分は車内や窓の景色を見回す。
なんなんだろう。
目につく限りのことを言葉にした。
綺麗とか。
アナウンスの真似とか。

「まるで生きている時みたいな行動だな。まあ好きにしろよ。」

  こっちの顔は全く見ないでだらしないポーズをとる。
勿論好きにしている。

  無賃乗車キセルなんてよくないけど死んでるならしょうがないよね。
役に立ってるんだもん。
むしろご褒美…なのかな。
いいやそんなの。

学校

「ここが学校か。何度も来ているのにあんまり慣れない。」

  学校なんて毎日行けばだいたい決まってことしかしないから慣れると思うんだけど。
でも自分が今立っている学校はよく知らない学校だった。

  他の子が周りの音を遮断する大きなヘッドフォンもしてないし、付き添いもいないし、親が必ずいるわけじゃない。
自分にとってもよくわからない世界だった。

「ちょっとここで待ってろ。」

  そういって黒い服の人は自分を置いてどこかへ去っていった。
街にいたときを思い出した。
すり抜けていく生徒達。
どうしよう。
知らない場所でどうすればいい?
自分はまた髪をくしゃくしゃにして暴れまわった。

  どうすればいい?どうすればいい?

  すると自分の行動を誰かが止めた。

  あ、さっきの人。
「待たせて悪いな。行くぞ。」
またどこかへ連れていく。どうしてこう勝手なんだろう。

水族館

  今度は水族館だ。
なんだろう。
あまり良く思えない。
魚とかより人の多さが気になった。

  学校のときよかましだけどだんだん人が嫌になってきた。
この人も信用できないし。
なんで自分を連れていくのかそれっぽく聞いてみた。

「なんだかほっとけないから。」

  端的な人だな。
わかりやすいからいいけど。

  それ以降いろんな人と魚や生き物を見たけど楽しめるなんてものじゃなかった。
それに今思えばここもお金を払ってない!

  でもこの人を追っていかないとまた一人になってしまう。
それだけは嫌だった。

 しばらく走ってイルカショーの前で自分はまた「待て!」と言われた。

  イルカショーが始まっているからか少しは安心するけど観客の声やトレーナーのお姉さんのマイク音が癇に障った。

  どうして?どうして?

「おい。お前も死人か?」

  あ、この人たちも死人?
「うわ、こいつさっき観てたけどガイジじゃね?」

「なんだその言葉?」

「障害者ってことだよ。こいつ知的っぽいぞ。」

  なんだか生きていた頃と変わらない感覚が蘇る。

「死んでもこういうのって治らないんだな。」

「よせよ。あんまり言うと可哀そうだろ。」

「いいんだよ。死んだ今そんなこと関係ねぇだろ。ありのままを話しているだけだ。」

  死んでも変わらないのかな。
こんな言葉を放つ人達は輝いたことないんだろうな。

  するとあの人が戻ってきた。
そして三人の幽霊を睨み返した。

「なんだよてめえ。」
一人の幽霊がこの人に殴りかかろうとするとその力を利用して投げ飛ばし、イルカの水槽に突き落とした。

「強いなあんた。あんまり絡んでおくのやめておくよ。」

そういって彼らは去っていった。

「いくぞ。」

ありがとう。
この人に伝えた。

図書館

  ここでは静かにしておくのがマナー、といっても死んだ自分達にどこまで通用するのかわからない。

  とりあえず広い椅子にお互い座る。特に読む本はない。

  騒いだらどうなるのかな。
あっ、生きている人間には聞こえないのか。
でもここは死んだ人も使っているようだから結局喋れない。

  あの人は疲れている様子だった。
今日ばかりはじっとしていもいいかな。

「悲しいよな。
生きても死んでも決まっていることは変えられないんだからよ。」

  なんの話だろう。
自分は死んで嬉しいことしかないのに。
そのような自分のジェスチャーが伝わったのかこの人はため息をついた。

「ちっとも楽しそうにも嬉しそうにも思えないのによく振舞えるな。
そういうの俺は好きじゃない。」

  自分は少しイラっとした。
勝手に連れ出したのはそっちじゃん。
この喜びは誰とも分かち合えることじゃないのか。
少しでもこの人に伝えた自分が馬鹿だった。
自分は怒って図書館を後にした。

「おい、待てよ!」

  待たない。
待つたびに何かが起こる。そんなの耐えられない。

  どこまで行ったかわからない。
ただ真っすぐ道へ進んだだけだ。

  そうしたら迷った。
どうしよう。
しかし今回は落ち着けた。
冷静になって図書館で怒ったことを後悔。
待てと言えばちゃんと待ってくれる。
そこだけは短い間だけど信用していた。

  なのに今回はあの人は現れるのかな。
名前も知らないあの人。
死んでそんなに立ってない障害者の自分の手を握ってくれたあの人。

  寂しい。寂しい。寂しい。寂しい…なんだか自分も疲れてきた。
そういえば死んで役に立つということだけは教わったけど、死んだあとどう役に立つのか教わってなかったな。

  そもそも役に立つということしか教わらなかったからわからない。
自分ってどうして死んだんだろう。
誰のために死んだんだろう。なんで死んだんだろう。

や く に た つ た め で よ か っ た の か な。

なぜ

  しばらく公園で泣いていた。
周りの子供達も大人も誰もいない夜の公園。
幽霊までもそんなに通らない。

  寂しいな。
生きている時からそうだった。
誰もまともに相手してくれなかった。

「おっと。死にたそうなやつ発見。」

  なんか変わった服装の幽霊が現れた。
もうそれ以上は考えたくない。
ただ自分の危機ということはわかっている。でもいいんだ。
この後どうすればよいかわからないし。

「なんかしらけるな。
成仏するわけじゃないんだからもうちっと抵抗しろよ。」

  嘘つき。
そういいながら自分の首を絞めている。
痛いかどうか言うと痛い。
でも一度死んでしまっている以上どうでもない。やっぱり死ぬ以外役に立つ方法わからないや。
次はこんな状態じゃないと…いい…な…。

  また死んだと思ったら自分の首を絞める手首だけが残り、目の前にはバラバラにされたさっきの人が白い血を流しながら倒れている。
すると手首も落ちた。

  あ、あの人だ。

「探したぞ。」

  自分でもわからないけど涙があふれてきた。
そしてその人を何回も叩いた。

  ばかばか。
どうして早く来てくれないんだよ。

「遅くてごめんな。」

  寂しかったよ。寂しくてたまらなかったよ。

 やっと自分も落ち着いた。来てくれたのは当然じゃないんだよね。
それだけは忘れないようにしないと。

  名前も知らないその人はぼそっといった。

「あんたは何も悪くない。
それとあんたの人生にどうこういうつもりもない。
ただ、俺はほっとけなかったから連れて行っただけ。
あとは自分でなんとかしろよ。」

  また勝手なことを言う。
どうしてまた連れて行ってくれないの。

「甘えるなよ。
だが、何かあれば俺はすぐあんたを助ける。」

  そういってその人は去っていった。
なんだかわからない。
わからないまま日々が過ぎ去っていった。
でも優しい人だった。
生きていてあんな人に出会えたかな?
あっても忘れてたのかな。
死んで役に立ったからあの人が来てくれたのかな?どうしてきてくれたのかな。

  詳しいことはわからない。
でもあの人を悲しませたくなくなった。
どうすればいいかわからないけど動いてみればわかるかな。
ありがとう。ありがとう。

                              

ありがとう


  

「あのさ、今日はお金払って電車のらないか?」

「急にどうしたの?」

「いや、死んでるから…いいのか。」

  変な彼。仕事のやりすぎかしら。


 

ダレカ


  なあ?
生物が決めたことなんてみんな間違いだらけさ。人間だって負け続けて海から陸にあがったんだ。だから気に病むことないんだよ。

立派になる必要なんてない。
何かを求めるために頑張る必要もない。
ただ笑顔でいれない時に助けになってくれる相手がいるなら…その相手のために少しずつ笑顔をわけてみるだけでいい。
世界中を敵に回してもいいほどの尊い何かがあるはずだから。
生まれてくれてありがとう。
どんな形でも出会えてよかった。

続く


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