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ドローンに導かれて

※この物語はフィクションです。

あらすじ

令和四年。
グレゴリオ暦では土曜日から始まる一般的な日。
安良木難有やいぎにくあはあまりにも夏の青春を謳歌出来ずに嘆いていた。
かつて近所の兄貴がʀᴜʀïttrルリッターで呟いていた
『怪盗のようなセクシーレディライダー』
と出会えると信じて疑わずに上京して消息不明となった。
同年代の女子はインフルエンサーに憧れすぎて整形に手を出そうとまで悩んでいた。
難有はそんな女子友達の悩みを解決することも出来ず、そしてセクシーレディライダーに出会うことも無く秋を迎えることに落胆する。
そんなある日、ドローン型の生命体が現れた。
難有はプロレス研修生でもあったためもしもの時に備えていた。
そこで現れたのは!

01:さっきまで散らばっていたもの

 令和四年秋。
俺は一体今まで何をしていただろう?
来る日も来る日も逆水平チョップの練習だ。
ボクシングではストレートを制する者が全てを制すると言われているがプロレスの世界では違った。
というより、俺達安良木家はプロレス初心者だ。
勿論俺、安良木難有は除いて。
元々はキックボクシングがバックボーンの俺は内心ファンから求められる選手像にウンザリしていた。
高校一年生になったばかりだからか人寄り偏屈なのは自覚している。
ただSNSで一方的な誹謗中傷と自分達を私物化するオールドファンと新規ファンに媚びられる程出来てはいなかった。

「総合格闘技に行けば芽が出る。」
とか誰かは嘲っていたが、

バカを言うな!
誰が野郎同士組技をやらないけないのだ!
高校一年生なんだぞ?
そっちの気があると思われたら今の時代でも色々と生き辛いのだ。
欲を言えばひっそりと戦っていきたかったのでムエタイの練習をしていた。
すると地上波にも出演した事があるプロレスラーが俺に声をかけてきた。

「なるほどね。この本に書かれている通り、この高校生は見込みがあるな。」

明らかに手にしている本は芸人から占い師になった人の自叙伝じゃないか。
変な演技をする人だ。
オカルトは好きだがカルトは嫌いな俺にはすぐにこの人物が俺について何か知っていると感じた。
するとその方は本をしまって挨拶をした。

「やれやれ。
思春期の格闘家がデータ通りなタイプなわけないよな。
おじさんは一昔前にいた生徒の名前を覚えない新人教師のようだね。
申し訳ない。」

名刺を差し出して俺は名を読み上げた。

「ライバプレイヤー武早志むさし?」

今時こんな露骨なリングネーム・・・ハンドルネームやアカウント名とは明らかに違うな。
何者だ?

「君は噂通りあまり何かを口にする子じゃないねえ。」

「噂?」

「君の実力を知ってスカウトに来たよ。格闘家として生きるに疲れているようだね。」

自慢じゃないが俺は自分の素性は隠している。
友達の女子ムエタイファイターがそういう策をよく知っていて知名度は上がらないが食っていける忍びのようなやり方で俺達は格闘家として生き、そして俺はムエタイもやめてプロレスラーになったのだ。
しかし情報社会は恐ろしいな。
こんな形で知れ渡るとは。

「すいませんねえ武早志さん。俺はまだプロレスラーとしては研修生。
やっと所属団体も決まったばかり。
それに俺は高校生ではあるが欲も劣等感も無い男だ。
チャラついた興行をやらされるくらいなら俺は一般人になっても構わない。」

そんなのは嘘だ。
この人物を信じられる根拠がないだけじゃない。

ライバプレイヤー…そのリングネームを聞いた時にガキの頃に知ったあの響きが蘇った。

「セクシーレディライダー」

02:近所の夢

 令和二年夏。
相も変わらず猛暑で練習もきつかったからスマートフォンで配信者を追っていた。
バ美肉という姿を利用して歌ったり、ゲーム実況したりとそんな配信をずっと見ていた。
しかしピンと来ない。
あまりにも対象が歳上過ぎないか?
俺はまだ中学二年生だ。
そんな時にふとハードボイルドな漫画を読んでいた。
近所の兄に進められた。

近所の兄の名前は三茶泉霞さんちゃいずかすみ
俺の二つ上。
ある有名子役と同年代だ。
いや、関係の無い話か。
そんな兄がいつも言っていた。

「いいか難有。
レディースから足を洗ったオンナライダーは、ある日怪盗として生まれ変わるんだ。
盗むのは勿論男ごこ…」

俺は兄を引っぱたいた。
いつもの理想を追い求める姿は好きだが言い方がくどい。

「知ってる。
ドローンから現れてそのまま楽園に連れていくんだろ?
映画で観た。
映像化できないやり方で連れてかれた後は煮るなり焼くなりされるってさ。」

今度は兄が困っている。
俺が引っぱたいたダメージと言うより会話内容について驚いているようだ。

「オカルトの見すぎだぞ!
今時そんな面白い余韻に浸らせてくれる映画があるなら何故言わなかった!」

あーあ。
また話題を間違えた。
こう話を聞いていると俺に同年代の友達がいないように思われる。
弁明するつもりはないがそちらに対して支障はない。
なぜなら…

「いつも楽しそうねえ。
趣味があるのは良い事よ。」

ティミア・ヴァロ。
彼女は欧米ムエタイファイターで日本語も余裕の友達だ。
まだこの頃は俺達は同じジムのキックボクサーだった。
霞兄は一般人だが、よく知っているスポンサーの家族だったので歳が近い事もあり仲良くなったのだ。
それもティミアのおかげである。
俺は余計なコミュニケーションをしたくないだけで話は出来る。
ただコンテンツを消費するごく普通の中学二年生という立場を活かしているだけだ。

「私も中学卒業したらバイク乗ろっかな。」

「残念だなティミア。
君はあまりにも美を求めすぎた。
その容姿でバイクに乗られたら確かに虜になりそうだが…」

今度はティミアのローキックが炸裂した。

「歳下は興味がないって言ってたから聞いてたのに。」

「ガ、ガードが堅いなあ。さらに一撃も重い。
少年漫画の終盤の敵かよ!」

笑っちゃうだろ?
こんな臭い会話。
けれど俺達はこの一時が安心出来るのだ。
所得格差が埋まらなかったり、環境問題の悪化。
俺達人間なんて存在しなければ緩やかにもう一度地球に隕石が堕ちてまた別の生き物が現れる。
これもただの妄想だが戦いに明け暮れる俺達の思い浮かべる未来はこうして駄べて乗り切るしかない。

セクシーレディライダー…いるとしたら俺はティミアだといいなあ。
俺がちょっと他校の女子と付き合っていた時にティミアが火消ししてくれたから格闘家として生きていられる。
兄の妄想は下手な恋愛話より面白い。
さっきまで見ていた規制と収益剥奪に脅えて作られた色っぽいボイスに塗れた配信を拝むくらいなら、
もっと過激な狂気を楽しみたい。
非日常を相手に魅せ続けるあまり、俺達の欲望は一般論とはかけ離れていく。

そんな毎日を抜け出したかった。
この思い出から二年が経過したのか。

03:スカウトの目的

  そして現在。
プロレスラー研修生ではあるものの、限定的な一般市民生活を送りたかった俺の前に現役プロレスラーがありとあらゆる条件で俺を誘う。
普通なら喜ぶよな?
評価してもらってると。
俺は血筋無ければ富裕層でもない。
だがそれで満ち足りているのだ。
もうすぐ高校を卒業する兄からの連絡もティミアからの心配の声ももう俺にはかかってこない。
若い内の苦労は買ってでもしろというのなら、今孤独の俺にはきっと希望があると強制された未来を抱く。
ある時三人で描いたセクシーレディライダーには誰も出会える訳がない。
ティミアの伝で出会った監督家に恥ずかしさを捨てて頼んで映画を作ってもらったがなんだかしっくり来なかった。
あの時に散財したファイトマネーの額と主演女優の見えてはいけない所を三人で楽しんでいたという事実ももう過去の話だ。
このまま、非日常に戻るのか。
自分を押し殺したまま現実に生きるか。

カチッ。

武早志さんは音がした方向へ振り向く。
ほほう。修羅場は幾つかくぐってきたようだ。
しかし傍に現れたのは数年前の型をしたドローンだった。

カチッ。

俺達の会話を記録していたようだ。
するとドローンはまるで映画のCGのような非科学的な変形をし、UFOとかつて家族から教えられたあの姿に変わった。

えっ?
何が起きたんだ?
俺は急に夢を見たのか?
いや、その場にいた武早志さんもちゃんと見ている。

そこから二酸化炭素の煙を出して現れたのは正に怪盗だった。
ピッチピチの赤いライダースーツにヘルメット。
そこから僅かに見える茶色の髪に花のような良い香り。
プロポーションも軟派ならすぐに飛びつきそうな肉感だ。
もしかして…これがセクシーレディライダーなのか?

「こほん。そこの高校生!」

俺のことか?
なんだか聞き覚えがあるが、それはきっと俺の中で想定していない現実を受け入れられてないだけだ!

「貴方は世界一強い。頑張ってね。」

投げキッスというやや古い方法を現実で初めて見た。
そうか。
こんな現実でもまだ捨てたものじゃなかったんだな。

「武早志さん。
俺、あなたの言うことを聞いてみるよ。
そうしたら俺にも先があるかもしれない。」

「ああ。おじさんもその返事を待っていたよ。」

こうして俺の夢は叶った。
というより、新たな道程が始まった気がした。

エピローグ

「ティミア久しぶり!一回自国に戻って飛び級で大学生なんだっけ?」

美しさの固定概念に疑問を抱いていた私は一度日本を離れてやることをやっていた。
勿論ムエタイは続けている。
それに霞が放っておけなかった。
SNSの火消しを頼まれているとストレスが溜まる。
こんなの日本ではなくてもつまらないもの。
私はサブカルチャーに詳しくは無いがかつて噂で聞いた日本に潜むネットの狂気を楽しみたかったのだが遅く産まれすぎた。
霞が辛うじて知っているらしくよく教えてくれたっけ。
何処から何処までが彼の妄想なのか。
けどそんなことはどうでもいい。
霞と話している内に分かったことがある。
彼は工業技術に優れている。
だから強大なスポンサーを務めてくれたわけだ。
そして離れてしまった難有に告白したかったこともあった。

かつて私が美しさについて悩んでいた時。
難有は私の肩に手を当て言ってくれた。

「内に宿すムエタイ魂が源だったから俺達の友でいてくれたんだろ?
火消しのお礼が遅れて悪かった。
ティミアに叶う女はいない。」

別に惚れてなんかない。
ストレスの元は難有だ。
けど彼が悪いわけじゃないしだから火消しだって受け入れた。
難有の大和魂とかそういうのを見直したとかそういうわけじゃない。
三人で観たあの映画をいつか私も撮りたいし、霞の語る世界観が好きだから一緒に実現しようとここずっと話していた。
難有はずっと将来に悩んでいたから。
せめて私達のやり方で伝えてみたかった。
それがあのセクシーレディライダー。
思ったよりも速く作れてしまった。
霞は既に出会っていたのだ。
怪盗風AIの技術者として。
こんな簡単に夢が叶ってしまうとは。
私も霞に相応しい参謀になる為に頑張らないと。
そして難有。
また一緒にリングに上がろう。

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