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POWER OF VISION

※苦手な方は戻るまたはブラウザバック推奨
かつて別投稿サイトで掲載していたものをnoteにて再掲載致します。
時代によって許された表現がありましたが可能な限り再現しております。
そして長文かつ表現の配慮がまだ足らなかった頃の作品ですのでご不快でしたらブラウザバック。



童蹴鞠


  鍛え続けてもう十年程。
  正確な年数なんて別にいい筈。

―二〇一三年


  戦うというのは悪い気はしない。
  子供の内は弱いし暇だから、こうやって鍛えて相手を正当に攻撃できる世界があることに感動していたのだ。

  どうしても痩せたかったし、目に見える形で成果を出したかった。
   俺達の世代は高く評価を見積もられがちで、歳上が  しっかりしていないからどこか気を遣って居たのかもしれない。
   そして時代遅れ…いや正統な判断はどこかで嘲笑われてこちらも同じ対応をするからそういう反応の繰り返し。

  殴ってみたかった。
  殴ったら倒したかった。
  もう脚を使わない世界に、
  ''蹴る''という選択肢があるのが堪らなくてね。

―二〇二一年


  なんとか進路を決めて、高校は卒業した。
  これからどんな夢を持つか。
  どんな期待をされるのか。
  どれだけ自分自身の人生を彩れるか。

「ナオキ。
ほれ!」

   勢いよくジュースを投げる友達の声に従い、受け取ってみる。
   炭酸じゃないよな?
   だとしたら嬉しいけど空ける時に手間がいる。
   確認したらオレンジジュースだった。

「卒業おめでとう。」
「今頃?もう六月。」

   仕方がないか。
   この友達と会うのは久しぶりだからな。

「相変わらずきっつい練習を耐えてんの?」

   きついだって?
   周りからはそう見えるのか。
   慣れって怖いなと思うけれど俺はそう感じていない。
   体幹を鍛える感動は一度味わったら抜ける事は出来ない。
   しかし、経験者でしか分からない話を他に伝えるというのは傍から見ればおかしな事。
   だから俺は無難に答える。

「トレーニングってのは負荷があってこそ。」

   それとこのタイミングで友達が現れたのに不信感があったから質問をしてみる。

「なんか様?
久しぶりに会う友達にありがちな宗教とかマルチ商法勧誘なら、引っぱたこうか?」

   ドキッと挙動不審になる友達。
   こいつ嘘つくの下手なんだよね。
   どこか懐かしさを感じつつも、そんな汚いやり取りを繰り返していく歳になってしまったことに落胆もする。
   こう見えて俺は繊細なのかもしれない。

   それから饒舌に友達は語りだした。

前払い

―コインランドリー

   ウイルスが蔓延しているおかげで何にも楽しい事がない。
   ウイルスがある前から楽しい事があった訳ではないから言い訳だが、今まで焼肉が食べられたのに急に   アレルギーになって食べられなくなった無念というのはこういうことなのかもしれないと感じる。
   ワガママだぁ?何不自由なく暮らしていたらそう思うか。
   若くても全ての人間に可能性がある訳ではないのが現実。
   いくら才能があったって、実力があったって、信奉したり至上主義になったら生きている価値のない無責任な人間。
   俺はそういう歳上をネットやSNSで見過ぎてしまっただろう。
   コインランドリーで洗い流される衣類を少し観て駐車場へと戻り、ふと半生を振り返る。

「そういや、ナオキって今何してるんだろう。」

  狩吉かりよしナオキ。
   確か中学が一緒だったか。
  もう会ってないけどダブったりとか無けりゃ、俺達は高校を卒業して進学なり就職なりしているのかも知れない。
   昔ゲームをやったくらいで、ナオキにとっては多数いる友達の一人かもしれないけど何故こんなに奴に拘るのだろう?

   キックボクサー。
   今時そんな競技に没頭しているなんて。
   どこかで流れてきた情報から知った事だ。

〇あいつなら…あいつならヤツを倒せるかもしれない〇

―ナオキから

「おいおい。
キックボクサーはアスリートだぜ?どういう解釈をしたのか知らないけど、お前の言うヤツって人間だよね?
オカルトって言ったって本当に幽霊とかいる訳ないじゃん。
それにライセンスがある人間…武の心得がある奴に『化け物を倒せ!』なんて無茶ぶり寄せよ。こういうのは専門家に頼めよな。」

  気前のいい友達から頼まれた話は

「自宅前に現れる黒い影を倒せ」

   だなんて無茶ぶりだった。
   そういう類を否定はしないが信じていない。
   そして俺は当然だがリング以外では戦いはしない。
   ただでさえウイルスで希望を奪われたんだ。
   それでも忙しさはやってくる。
   報酬だって大したこと無さそうだし。

   はぁ。
   いや、報酬は前払いで貰っているか。
   このジュースがそれなら。

「カメラ機能オンをしてくれるのなら手伝うぜ。」

「ナオキまじ?」

「密にならない息抜きには丁度よさそうだし。」

   こうして俺達は活動を始めた。

現れる奴

  ここか?ここかぁ?
  全然いないやんけ!どういうこっちゃ!

   俺達は探していた。
   友達の自宅に存在しているらしい黒い影なんてありふれ過ぎて判断に迷う。
   夜にいるのか昼にいるのか具体的な説明をされなかったからほぼ手探りだ。
   友達の家が一軒屋だから良かったものの、賃貸だったらややこしくなる所だった。

「で、俺は素手で攻撃しなければいけない訳?」
「そこはちゃんと考えてるよ。ほら…」
   特殊警棒か。
   最初から俺に頼むつもりだったのね。
  俺の詳しい今を知らないとは言っていたけど、まあ嘘だろうな。

  本アカウントぐらいしか俺に興味を持つ身内なんていなさそうだが、格闘用アカウントの情報も出回っていたか。
   何れにしろアスリートは万能ではないからな。
ま、何があっても証拠を残せばいい小遣い稼ぎにはなりそうだ。

   しかし探しても探しても黒い影なんて何処にもない。
   強いて言うのならカラスを影と間違えたくらいで何時間か経過した。

「本当に居るのか?」

「カメラはまわせなかったけど録音した声を聞いただろう?」

「ああ。
聞いたけど典型的な呻き声だけじゃピンと来ねえよ。人に頼むならもう少し入念にやってくれよ。」

「わ、悪い。」

   久しぶりの友達と険悪にはなりたくなかったからとにかく周辺を探す。
   怪しまれないように定期的に友達の家へ入って息抜きしながら。
  本当に黒い影の正体なんて掴めるのか?

ザザザ

  俺達は聞き逃さなかった。

ザザザ

「へぇ。恐怖体験って地震みたいに唐突だと思っていたけど、ちゃんと前置きが入るんだな。」

「ナオキ?」

  スイッチって奴だろうか。
  漸く獲物が現れてくれた。
  散々待ち、怪しまれないよう気を遣い、マスクをしながら貴重な時間を割いたんだ。

ザザザザザザザザザザザザザザザザザザ!

  アウトドア系クリエイターはこういう感覚なんだろうな。
  狩りとも違うハンティング。

ザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザ!

   友達なんて放っておいて俺は行動に出る。

   草むらの先は古ぼけたトンネル。
ふん。
   一応ウェアラブルカメラは付けてある。
   だから怪しまれた訳だけど、こんな便利な代物があるのなら戦いながら証拠を掴める。

  音の主。
  確実に人間のそれではない。
  試合をすればわかるのだが、人と対峙する時と獣と対峙する時では感じるストレスが違う。

  こいつは上物だ!
  俺はトンネルへと入っていく。

マヨイガと夢の力


   トンネルは不思議な香りがする。
土とコンクリートの自然と人工が混ざる狭間の匂い。
   ガキの頃はどこか異次元的な魅力を感じていたが、今は別の感想を抱く所だ。

「お前が…主か。」

   トンネルから人気のある場所にやってくるなんて正気じゃないだろう。

『ほぉ。誘い込んだ奴とは別の者がワレへ向かってくるとはな。』

   喋れるのか。
   しかもRPG風味で。

『人同士で戦える者。まさかそんな存在が身近にいるとは。』

「お褒めいただき光栄かな。
けど、俺はまだプロになって日が浅くてね。」

『態度は若き魂そのものか。
ワレはお前達人間の誇張された妄想と違ってか弱くてな。
それだけ強気で居られる人間を見た事は無くて内心驚いているのだ。』

  褒められては!いないのは分かっている。
  だが生命は掛かっている。
  油断する訳には行かない!

『ふん。
私が相手で良かったな。こう見えて私は穏健派でね。』

「怖気付いたのか?」

『穏健派と言っているだろう?
初めから戦うつもりも襲うつもりもない。
しかし、お前の友達は踏み込んではいけない領域に取り憑かれ掛けていたから、少し脅かしてみただけだ。』

「それが逆効果だったって訳。
俺達はオーバーエイジ。
更に若さもあるからこれからそういう世界を探求しようとする…言ってみれば下世話な奴が増えてくるかもしれない要するにどの世界も生き辛くなるって話だ。」

   何度か対話をしている内に、本当にこの黒い影は戦う気はないということが分かった。

   なら仕方ないか。

「ここの秘密は漏らさない。もし不安なら…」

  友達の恩を返す必要もあるから上手く話をつけないとな。

「俺に力を貸してくれないか?」

『何?』

「人間だからさ。
今見た世界を暗号化でロックすることは出来ない。
だから、お前が俺と一緒に来てくれるならこの映像は編集して置くよ。金になる部分だけ教えてくれれば…そういう取引をするわけだから代償はデカいと思ってね。」

  黒い影は笑っていた。
  何か俺は可笑しいことを言ったのだろうか?
  こういう取引はある意味取引だろう?
  礼儀は必要だから。

『よかろう。では、お前と共になろう。』

その後


  あれから夏は終わり、秋に染まる。
  ちゃんと秘密裏な処理されたノンフィクションで俺達は金を稼ぎ、事なきを得た。
   友達ともすっかりパートナー関係を築いて新たなネタを探している。
   久しぶりの友達とあんな体験が出来るなんて結構俺は幸せ者かもしれない。

  ただ今までと違うのは…

「ナオキ。最近疲れ目が酷くないか?」

   ああ、これ?

「新しいカラコン…かな?」

   いつでもそこに…

   ワレ ハ イル

…今後不明瞭…

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