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闇ドラ十話:慟哭、衝動、生存
※全十二話で、五年前に投稿した自作です。
投稿サイトに掲載した作品を処女作と読んでいいのかは分かりませんが、自分の話を描きたくて『私小説』にのめり込んだ作品でもあります。
なるべく掲載当時のままにしておりますが、読みにくいやその時代だから許された描写、表現には修正、加筆等をさせて頂いておりますが基本的に掲載当時のままにしております。
お楽しみ頂ければ幸いです。
あらすじ
難しいことはいい。ただ一つ“生きる”ことに執着し続けている間は経験したことのない生という感覚を得られる気がするからだ。
だって死んだからって何もかも終わったことにはならないだろう。
勝手
本当、あの情報屋のマイペースさと彼の身勝手さはベストマッチね。
わたしもわたしで結構勝手な所はあると思ったけど。
ああ。
なんで聞かれてもいない自分の擁護をしてしまうのだろう。
いまいち身勝手になれない。
この世に置いた子供も、死んだ旦那も、彼も勝手に生きて、勝手に死ぬ。
わたしなんて勝手に死んで、そのあとはどう勝手に動いただろう。
勝手に死んでから手にかけた生者達のことを勝手に忘れ、勝手に思い出して罪悪感が蘇る。
そう思えばわたしもなんて身勝手なのだろう。
「名前も知らない幽霊さん。
ありがとう。
自分じゃうまく死ねないんだ。
あの時、あの人を車ではねなければ、今の俺達はもっと幸せだったと思う。
でもみんな安心して。
この幽霊さんが俺達を殺してくれる。」
そういってわたしは近くのバットを持ってこの家族を殺した。
信じられる?
子供でさえ納得したような顔をしていた。
だからわたしはいいことをしたと勘違いしてしまった。
法や生きている人間同士でできないことはわたし達のような存在が不始末をする。
それってwin-winだと思っていた。
それもわたしの勝手な解釈。
わたしは日本からあまり出たことがないのだけど、不法移入者のカップルで自国に戻れぬ哀しみをわたしに吐露し、殺してくれと願った人もいた。
新天地で新しい生活を新しい自分達で生きていこうとしていても最初の壁はとてつもなく思い。
そのカップルを殺した時に改めて“理不尽”の三文字が浮かんだ。
なかには障害者の家族、リベンジポルノをされた女性、いじめられた生徒や先生、宗教絡み、政治絡み、同性愛による不和等。
わたしは“不幸”と“生きづらさ”を抱えた人達に寄り添い、要望を聞いた。
無造作に殺していたわけではない。
わたしのことが視えて、そして不幸な人間を殺していた。
その自分ルールがいかに歪んだものかを彼と出会い少しずつ学んだつもりだ。
どうしてわたしを殺さず連れていくのだろう?
わたしが物語の駒であるのならこの先どうなるのだろう。
とはいえわたしも彼が生を殺す幽霊を退治する行動も正しいのかわからない。
でもわたしは彼を応援しているし、その結果わたしは誰も殺したくなくなったのだ。
ただ単に人より血を見過ぎただけかもしれないけれど。
半端者だ。
子供は強く育っていた。
わたしは生からも死からも歓迎されていない。
勝手に殺し、勝手にルールを決め、勝手に連れていく彼。わたしは彼を知りたい。
死産だったこと、仲間の幽霊達によって育てられたこと、どこか生きている人間より人間らしい所しかわたしは知らない。
居場所も何もかもなくしたわたしにとって彼は恩人以上の何かを感じていた。
でも彼の前だといつものようにただ公共交通機関を利用してくっちゃべったり、情報屋で何かを飲む(フリ)をしているだけ。一歩踏み出せない。
彼のあの殺しのテクニック。
身の守り方。
殺気。
どうやってあの若さで手に入れたのだろう。
それなのになぜ不器用ながらもかつての仲間のことを思いやれるのだろう。
生きたことがないというのに。
生きていたわたしでもできなかったこと。
違う。違う違う。そうじゃない。
わたしは彼のもっと本質を知りたい。
彼の性格や彼がわたしについてどう思っているのか。
なぜこんなわたしを側に置いてくれるのか。
「おい。」
わたし達はバスの中で揺られていた。
「俺に何かいいたいことがあるのか?」
彼はわたしの方をけだるげに見つめる。
「え?べ、べつに。」
「寝ぼけていただけか。さっきからずっと俺を見つめていたぞ。」
どうやらわたしは彼のことをずっと見ていたらしい。
「それより次で降りる。」
はいはい。
依頼ね。
わたしもすっかりこの光景に慣れている。
またわたしのように死んで殺人衝動がたかまった悲しき同胞が彼に殺されるのだ。
今回はラブホテルに住み着いたヤクザの幽霊が生者を殺しているようだ。
なんというかホラーらしいシチュエーションだ。生きていたらもっと恐怖していただろうな。
急いでその部屋に行くと凄惨な現場が広がっていた。
「お前か。霊殺しの男ってのは。」
「話が早いな。なら今から大人しくしてくれないか?」
わたしはその現場に何をするでもなく立っている。
女性のバラバラにされた身体がそこに転がっている。
相手の男性がいるわけではなく、その女の一人がいた。
ああ。
きっと霊が視える人間だったんだな。
そして恋をしてはいけない相手を愛してしまったのだろう。
「ガキが。俺がどういう人間か知ってんのか?」
「ああ知ってる。単なる嫌われ者だろ。」
「いうじゃねえか。」
「無法者には無法者って言葉。
裏社会に少しでもかじっていたのなら生前に嫌というほど教わったはずなのに。」
彼は冷たくいい放つと同時にその霊を切り伏せていた。
「はははは…俺の組にも欲しかったぜ。」
皮肉なことに今度はヤクザの霊が自分が殺した霊と同じようにバラバラになった。
彼は現場の掃除をしていた。
たまにどこで学んだのか手を合わせたり、十字を切ったりして現場に生者が死者となったとき弔っていた。
「死んだ人間にできる手伝いはここまでだ。悪いけどあとはこのホテルに任せるしかない。」
優しい、冷たいとかそういう言葉じゃなく彼には『勝手』が似合う。
自分が良いとか悪いとかそうでなく、死んでいるからどうかとか生きていた経験がないからどうだとかそんなくだらない理屈じゃない。
―ー勝手なのだ。――
やっぱり好き。
あなたが好き。
かつての俺
俺は俺なりに生きている存在が素敵だと思っている。だからってこれが俺の正しいことかはわからない。
すぐ助けられることもあれば、もう間に合わないこと。
生者や死者から疎まれることだっていくつかある。
でも俺は微笑みを守りたい。
かつて助けられなかった友の分まで俺は咎を背負うしかない。
助けたいと思うほどそれはただ勝手なものでしかない。
なら俺は俺のまま気ままに生きていく。
それが死者の命を喰っている者としてちょうどよく収まるのならば。
俺は俺として生きていく。
立派な生き方も死に方もこの世にはないのだから、汚いくらいがちょうどよい。
全てが俺にちょうどよい。
続く
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