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trail/TRAIL

あらすじ

痕跡はある。
本当は遺したくない人が居ることも知っている。
それは鏡越しに映る世界を輪廻だと古来から継承されてしまっているからかもしれない。

△時代じゃない

 二◯二三年の春の幕開け。
鏡を見た瞬間に始まっていた。

『成人式』が『二十歳のつどい』になり、酒や煙草が十八に成人しても解禁されるのは二年後となった。
俺は◯二年生まれで、ギリギリその辺りの事情は歳上から聞いている。
進んでるのか遅れてるのかで言ったら、日本は都合よく遅れていると感じている。

俺は親族が嫌いだ。
それに纏わる幸せ話を聞く度に

『幸せの選択肢ではなくてその人自信の選択なら納得出来る。
それを主語をデカくしていい大人が盛り上がるなんて世も末だ。』

そんなツイートをしたら見知らぬ人間から叩かれたがこっそり、その人達の特定をした。
特別な事は何一つしていない。
中学生の間にその手の人間の書き方の特徴を記録しただけだ。

『集団でインターネットを使う奴らは自爆する奴を一人は抱えている。』

一昔前は同世代よりも歳上の方が酷すぎて参っていたけれど、それで自信を得たから海外のツテを使って中学生から一人暮らしをし、高校も定時にした。
そこでは割と同い年も多くて盛り上がった。
俺の仕入れた話は、いつも話題になっていた。
共通して言えたのは動画配信者を応援していたら一般化した微妙になった事の愚痴だった。

皆、家庭や友人関係、貧富の差もあるからそういう痛みは感じ易いようでいい友となった。

なんとか三年で卒業して、今は必死に労働から逃げる生活を送っている。
歯車になる生き方を選ぶ素晴らしさは分かる。
そういう道で活き活きしている友人もいるから尚更。
俺が働かない理由はしっかり伝えてあるから余計な事は誰も俺に言わない。

都内に中学生の内から必死で適応した甲斐があった。
インターネットが有っても無くても楽しめる場の確保は苦労する。
路地裏の鏡に映る自分。
朝から見たくもなかった姿。

どう頑張っても韓流スターには遠い…か。
見た目は大分寄せようとしている。

俺が韓流にハマったキッカケはメディアの洗脳や宣伝ではなく、あるサイコスリラー映画を友と見た事がキッカケだった。

学歴社会で見た目重視。
素晴らしい運動神経とパフォーマンス、友情を見せた韓国のテコンダーが顔が良くて腹筋の割れ目に筋がある方の評価をしていた。
個人的にもう一人のマッシブな身体で体脂肪のバランスがいい方の相方を思いやる気持ちと技がいい塩梅に仕上がったパフォーマンスだったのに審査員は見てくればかりで幼かった俺は

「どうか二人が仲悪くなっていませんように!」

と言語は分からないが画面から伝わった緊張感から勝手に解読した。
そこからマニアックな才能か地力のある韓流関係を漁っていた。

今すぐ仇を取る。
韓国語をマスターしてな!

俺はガキの頃にあの二人を見た時の感想をワードから印刷した内容を鏡と共に、部屋に置いている。

喜炫歩塚きてらすふかよりお伝えします。
貴方は顔や肩書きしか興味のない人種と誤解されたままでいいのですか?
俺が韓国語を習得してその理不尽を特定しましょうか?
ごね得や逃げ得はさせないから。』

成人した今読むと、中学生らしい復讐宣告だ。
けどマインドは片時も忘れていない。

△案内しようか?

 喜炫歩塚は今日も行く。
俺の話だがな。
それに今日の鏡を見ていたらより不安に襲われた。
昼ドラや韓流ドラマのように、唐突に俺の虚像が何かを掴むように手を伸ばして堕ちていく光景。

夢なのか?
夢だよな?
意味の分からない自問自答に俺は苦しむ早朝を送る事になった。

「やばい!」

更に制服を着た俺より歳下らしき人間が俺を盾にし、見知らぬ三人のやんちゃヒューマンに囲まれた。

「おいおい。そいつのツレか?」
「韓流兄ちゃんよお、そいつを渡せ!」

流石俺の居住区域。
治安がスパイシーだ。

俺は小声で後ろの制服と話す。

「なんだ?喧嘩でもしたのか?」

『(小声)いいえ!トイレを探していたらそいつらと肩がぶつかっただけです。』

「成る程な。ちなみにトイレなら五メートル先のコンビニに空いている所がある。注意事項は酔ったおっさんかこいつらみたいな奴と高確率でエンカウントするかもしれない事だ。」

『ええ?それじゃあ逃げ場ないじゃないですか!もしかして、盾にした事怒ってます?』

「対処方法ならある!この紙を渡す。
知ってるか?文字には不思議な力がある事を。」

『あんた、見ず知らずの俺に親切だな。でも、漏らすのと襲われるのとどっちか選ばざるを得なかったらあんたはどうする?』

決まってんだろ!

俺は鏡の奴が伝えようとした絶望へ自分なりに対処する事にした。
幸いインターネットで

漫拳家まんけんか

という漫画の技をひたすら練習した海外人がいる事を知り、真似ていた。
今回はそれの令和版だ!

「その紙もってトイレへ行け!ただしその紙で拭くなよ!」

「そこまで言わないでください。ここ意外と人居るから。」

田舎者みたいなもの事を言ってそいつは走って行った。
そりゃ漏らしたくはないよな。

「てめえ!舐めてんじゃねえ!」

前と後ろに殴られる気配を感じたから思いっきり右のリーダー格の懐に飛び込んだ。

「「ぐほっ!」」

まずは二人を自滅させた。

しかしリーダー格は想像以上だった。

「くっ。離せ!」

「そう言われて離すわけないだろ?
あのガキを逃していい大人を演じてるつもりか?」

「くっ…だからなんだ…盾にされて囲まれたのなら挑むしかないだろ!」

俺が働かない理由は韓国語習得の為と『漫拳家』として生業を成立させる目的があったから。

だから間接を外し、リーダー格の後ろへ回って急所へ蹴りをお見舞いした。

「うぅ゛゛゛゛」

本当は攻撃するつもりは無かったが強さを魅せないと後でついてこられても困るしな。

「お前らの様子、後で勉強する為に動画に残してある。
拡散と特定をされたくなけりゃ、大人しくここを離れた方がいいかもよ?
こういうのを欲しがる奴もいるし。」

捨て台詞でも吐くかと思ったら三人は肩を抱いて去って行った。

何だよ。
お前らも仲は良いんだな。
道を踏み外す事に口出しはしないから俺の道へはもう入るなよ。

そう呟いて俺は再び歩いていった。

するとさっきの制服男子が晴れやかな顔つきで俺に何かを伝えにきた。

「何ですかあの紙?もう一人のあんたが鏡から謎の戦法で絡んできた人達を退けてくれましたよ?
あと、思った以上にあのトイレ綺麗でしたね。
まだこの地に引っ越して慣れてなくて。
つまり、有難う御座います!」

そうか。
あいつ、ちゃんと来てくれたんだな。
朝の心配が思わぬ形で杞憂に終わった。

一見オカルト話…というよりホラーな内容だったのに彼は俺にお礼だけ伝えた。
それから何となく連絡を交換して韓国料理屋に夕方、彼を誘った。
俺が奢る事にして。

✳︎


 彼の名前は「鬼怒麗 庫院時 きるら くいんと

二◯二三年で高校三年生。
都内へ引っ越して転入したらしい。
話を聞く所、トイレの悩みが多いらしく、俺を盾にするのも分かる程にトイレに纏わるトラブルを潜り抜けてきたらしい。

以下に漏らす事が怖いか、そして何故そういった選択肢が許されないのに勤勉で勤労を目指さないといけない日本が糞なのかと、トイレが絡んだ若者の貴重な意見が聞けたのでこの店で一番美味い料理より定番の石焼ビビンバを二人で食べる事にした。

「石焼ビビンバじゃないですか!俺はこれぐらい定番の料理の方が馴染みがあって好きなので助かります。
あのぉ、いいんですか?あなたの…喜炫さんの奢りで?」

「いいんだ。気にしなくていい。
鬼怒麗君だっけ?俺の相棒も拒否する事なく利用して修羅場を乗り越えるその魂胆は面白い!これからもよろしくな。」

彼は目を輝かせて「はい!」と返事をした。
久しぶりに箸が進む。
予定外の出来事が起こるものだ。
特に今日は。

△帰宅して相棒と話す

 そんなに俺は韓流が好きに見えるのだろうか?
だとしたら戦略勝ちだな。
本当に好きという気持ちが突き抜けているファッションを俺はしているというわけだ。
俺としては漫拳家としてもっと力が身につけばいいのだが。

実家だった場から唯一持ってきた三面鏡。
そこに映った例の相棒。
俺の虚像の姿をしながら鏡の中で動いている。

「消えたかと思ったじゃないか。」

首を振る虚像。

それよりも俺はちゃんと伝えるべき言葉を発した。

「おかえり。あの子を助けてくれてありがとう。」

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