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避けられぬ懐疑〈冷笑〉

※お祓い済みです。

我々は心霊確認班。
この世とあの世。
狭間を歩く一族が現代社会に追いやられ、生きづらさを体感している。
しかし、すっかり慣れてしまった。
というだが…。

前回

総集編(ここを読めば追いつけます)

◎インターバル

紅 元雪べにこう もとゆきは行く。
かつてはムエタイファイターとして戦い続けたが、日本人ムエタイファイターである元雪はキックルールの対応を求められる国内格闘技団体と国外との試合で身体を痛めて引退をした。

齢二十二。
そんな自分はどう生きてたらいいのか職を転々としながら悩んでいた。

そんな元雪には昔から霊媒師としての訓練を詰まらされ、そこから逃げるように「武力もないといけない。」と前置きをしてムエタイの道を極めて霊媒師の練習から逃げた。
しかしZ世代の元雪はいざとなった時の為に霊力もトレーニングしていた。
紅家が使う物とは違うやり方で。

「ほら、出てこい!」

三体の使霊。
赤の怨霊、青の水子、黒の捕縛霊。

インターネットを利用したある企画の為に鍛えてきた霊的スキルを現代社会に利用してやろうと考えた。
霊の使役なんて使ってまで生きようとする人間は少ないらしい。
イタコ能力を使う仲間も探していたがみなバレないようにこの世を揺蕩っている。

「元雪。またバイト辞めたのか?」

赤が下世話な事を聞いていた。
怨霊ではあるが既に恨みの相手は呪い殺したという。
元怨霊だが力は増大だ。
元雪のムエタイスキルでねじ伏せていなければ使役出来なかった。

「バイトなんていつクビになってもおかしくないしな。
これからはお前達の力で食える分は賄うさ。」

心霊写真、心霊動画を大量に撮ったもののあれを採用させるには他の力が必要だ。

例えば「旅行していたら映っちゃった。」といったシチュエーションがいる。
なぜなら霊を信じていない人達からアンチコメントが来るからだ。
世知辛い。
世知辛いぜ。

青や黒は浮遊している。
時々会話はしてくれるが。

「近くの霊から聞いたんだが、この付近で俺達とは違う心霊トンネルがあるだろう?深夜に入って俺達と自演すれば映像技術も手に入る。
元雪が稼げる場はそこだ。」

だけど熊やキョン、ヤンキーも出ると噂だ。
そっちの方が怖い。
いくら元格闘家でも限度はある。
それが通じたのか

「俺達が憑いてるだろう?」

ああそうだな。
なら準備をしよう。
とびっきりの恐怖を収めに。

◎イタコから逃れる為

 もう二十五になるのか。
私は伝統あるイタコの末裔だ。
勿論そんな技術は資格にもないし、専門学校もない。
オカルトや神、魔女なんて存在しない証明になったのはいいけどこの能力があれば食べるのに困らないのにと嘆く事はある。
日本や世界で回ってくる仕事なんて大したことがない。
株やらなんやらで凌いでいるだけの運の良い歳上に負けないスキルで自衛しないと。

私の名は言囀 沙婀ことづて さあ

言囀家は代々霊媒師やイタコ業をやっていてかつてスピリチュアルが流行った時に私の母が本を出版した事もあった。

と言ってもカウンセラーのやり方ばかり注目されて霊払いとか死者の代弁、また対霊グッズの販売などそういった才能は廃れていった。

私はオカルトが嫌い。
この力も使いたくない。
だから、この付近で私達の家宝だった

皿ヶ峰 鈴蘭鉱さらがみね すずらんこう

をトンネルに隠してある事を聞いた私は、今の仕事を終えたら向かうつもりだった。
有給もとったし、私だけの人生の為に伝統を売る。

けど、安売りしていいのだろうか?
まあいい。
全ては今を生きる為だ。
私は人気のいない深夜に向かう事にした。

✳︎

最近は深夜も出歩く健康志向の邪魔者がいるせいで集中が出来ない。
女一人で歩くのは特に。
だから私は現地の霊に皿ヶ峰について聞きながら歩いていた。

『今時イタコの末裔が訪ねてくるなんてねえ。確か、さっきも霊媒師の末裔?の元格闘家がこのトンネルへきたよ。

皿ヶ峰についてバレたのか?
いや、その元格闘家が他の霊と話せる術はなさそうだ。
霊媒師と言ってもピンキリ。

兎に角急がねば。

自然に調べた場所と食い違いがある場合は更新して探すつもりだった。
幸いにもここの霊達は大人しかった。
どうやら霊媒師の方は分からないがヤバイ人間もいるようだ。

ブゥン!ブゥーーーン!

奥へ進むと皿ヶ峰が埋めている場にヤバイタイプの人間がいる。

「おいおい!ここは俺達の集会所だ!何入ってきてんだあぁ?」

令和の時代に何やってんだが。
怖いのは人間の方だと改めて確信した。
これじゃあ皿ヶ峰が取れない。
私はいかつい霊を自身の身体へ降臨させた。

「な、なんだ?姿が少し変わった!」

『頼む。若者達よ。
私はこの女性に頼まれていてね。
ある事情でここへ来ただけだ。
だから大人しくしていてくれ。』

「へえ。こんな面白い事出来るんだ。
じゃあ動画にとってやろう。」

私は降霊術を解いて相手のカメラを蹴飛ばした。

「何すんだてめえ!」

ヤンキーが私の方を掴む。
他のヤンキーもこちらへ向かっている。
ヤバイ。
いくら女とはいえ死ぬ。
私は生きる為にみすみす死ににきてしまった。

「待て!」

すると痩せ型ではあるが私にはしっかり鍛えられた筋肉が見えた。
私より歳下の男性。

「あれが噂の霊媒師だ。」

え?本当に?
顔と筋肉のバランスが良くて犬顔のあの男性が?
見たことの無い品のある人だ。
霊媒師で格闘家、か…。
けど相手は人間。
確か、戦ってはいけないとか。

「へえ、カッコつけ発見!」

複数相手の言葉の通じないヤンキーに挑むなんていくらなんでも。

すると青い幽霊が次々とヤンキーの仲間を眠らせていた。

「妖術はお手の物。」

そんな呟きをし、しっかり眠らせる。
しかし三人のヤンキーは平気だった。

そうか。
こいつら

「霊耐性?」

偶に特異体質がいる。

霊が見える、人の死期を当てるといった第六感の他に

不幸になる確率を外す、金運を引き寄せる、周りの幸運を吸い続ける第六感。
それが霊耐性だ。

霊耐性のヤンキーなんて私達は運が無い。
しかもこれは霊感でも先祖から受け継がれる能力じゃないしなあ。

彼も驚いているがすぐに理解したようだ。
まさかこんな所で同類と出会えるとは。
見た所カメラを回しているから皿ヶ峰の事は知らないらしいが用心はする。

「お姉さんは逃げて!こいつらは俺が相手します。」

霊媒能力を見た私が驚いていないのに人間扱いしている。
演技か。
けど私はここで逃げるわけにはいかない。
なんとか奥へ行って皿ヶ峰へ向かわないと。
すると筋肉質のヤンキーが私の前へジャンプし通せんぼする。

「あんたは俺が相手をする。」

くっ。

どうしたらいい。

霊媒師の彼も相手の攻撃をかわす事に集中している。
黒い霊がヤンキー二人の動きを止めるが特異体質だからかゴリ押しで抗っている。

大ピンチ。

ここは背に腹は変えられない。

「そこの人、お願い。
私はイタコ。
あなたの霊を使役できる力、私に貸して!」

すると彼は捕縛したヤンキーの拳を素手で受け止め「なるほど。」と言ってから赤い霊を出現させた。

「後から来た気配…やはり貴女も俺とは違う系統ですが同類!」

「そう。生活の為にここに来ただけ。」

すると赤い霊が筋肉質のヤンキーを通り抜け弱らせてから私の元へやってきた。

「あんた、どんな事が出来る?」
「降霊術と霊との対話。」
「そうか。なら、いけるな。俺を憑依させろ!」

すぅぅぅぅ。

リラックスし、周囲の赤い霊と共に自分の身体に纏わせる。

「霊装!」

私の身体は赤い精気と共にオーラを纏い、彼の戦闘経験が宿った。

「降霊術をここまでマスターしている人がいたとは。
俺達みたいなのもこの力で稼がせてほしいよなあ。」

そんな愚痴は置いておいて私は筋肉質ヤンキーに

「正当防衛。」と言って蹴りを連続でお見舞い。
この赤い霊に宿る力は本物だ。

こうしてヤンキーを叩きのめして追い払った。

そして私は彼にある程度の事情を話した。

「これじゃあ、今日の動画はお蔵入りだ。けど、俺は知らないけど皿ヶ峰の鉱石って何かに使えない?」

何か、かあ。
怪異より人間が怖いけど対人にも使える算段が彼にはあるのかもしれない。
意外と物分かりがいいが、それは私と彼が同類だからだろう。

それからさらに話し合って、私は彼のバイクに乗せてもらって帰宅する事にした。

艶衰えんすいの提案

ファンレターか?
そう思ってメールを確認したらある人達から鉱石について教わった。
しかも俺達、『避けられぬ懐疑』を知っている。

それからアポを取って二人の霊能力者と話し、『皿ヶ峰 鈴蘭鉱』を引き渡された。
勿論ただとは言わない。
報酬はしっかり払った。
対価に見合う程の金額でどうにもならなかったからこの二人の動画を必ず採用する形、そしていつかの為にこの鉱物であるモノを作ることを約束した。

俺もスタッフらしくなったか。
少しだけ冷たい笑みがこぼれた。

ナレーション:暴れ馬。
鋼鉄のバイクは宛ら、罪人を町中に引きずる刑のように速いですよねぇ。
法定速度でも充分な狂気!

次回、避けられぬ懐疑〈教習〉

交通手段は限られている。

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