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避けられぬ懐疑〈源流〉

※お祓い済みです。

皆さんは現状を保っているだろうか?
何かから逃れるように。または向かう為に。
我々は常に異界から距離を取るように一歩、また一歩進んでいる。

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関連回

総集編(ここを読めば追いつけます)

◎一卵性

「ではあなたがこの状況を招いたんですか?」

そう言って投稿者を問いつめる浦泉菜冨安を観て、画面を食い入る双子がいる。
自分達、皆倉かいくら兄弟だ。
たまたま暇だったからサブスクも何だし、レンタルDVDでも漁ろうと双子の弟、皆倉浪華かいくらなみかと菓子を食い漁って眺めていた。
自分達はスポーツが好きでインドア系かつこの手のジャンルに手を出すのは初めてだった。
令和の高校生である自分達にとってジャンルやタイプなんて一面にしか過ぎないが。

遙華りゅうかってホラーにハマるならどういう系がいい?』

遙華は最近調べたばかりのジャンルを脳内から引き出していた。

「廃墟かな。サケカイでも廃墟から全ての物語が始まってるし。」

何となく廃墟と答えた。
何故なら何十年前は沢山の人間達の社交場だったのに廃れてしまって形骸化しているからだ。
遙華はSNSや地上波で蔓延る『孤独推奨』『やっぱり集団』という結論をズラした誘導が嫌いだ。

スベテハハイキョガセツメイシテイル

浪華は廃墟かあと画面を見ながら呟く。

「俺は廃村かな。ほら、ゾンビとか謎の生物とか居そうじゃない?」

それだとホラーの意味合いが違うのではないかと思ったがホラーはリング外のプロレスだ。
超常現象と言うのは科学もバトルも何でもあり。
自分達スポーティツインズではどうにもならない。
けどそこがいいんだ!

「遙華なら廃村で踊れそうだよな。」

「確かに半裸が似合うとは言われるけどさ。けど誰もいない場所で踊るなんて嫌だな。
せめて浪華だけでもいてくれよ。」

これは本音だ。
情けなくは無い。
双子なのだから。

はいはーいと言ってまた画面に向かう。
借りてきたサケカイシリーズを春の休みを使って消化するなんて贅沢だよなあ。

しかし疑問に思う。
避けられぬ懐疑が何故レンタル出来るのか不思議だが縁というのはいつもそうだ。

『黄泉オチ』

『テケテケを追え!』

『スクランブル』

などなど「それ邦画か洋画にしちゃえば良くない?」

と言った膨大な心霊番組のDVDが店のレンタル棚に丁寧に置かれている。
古くからはVHSから存在しているとか。

「いくら何でもそんなに心霊なんてこちらに干渉してこないだろう。」

とオカルトを自分達は信じていない。
そんな中、比較的ヒューマンドラマよりなホラーを醸し出す『避けられぬ懐疑』に手を出した浪華は凄いと思う。

そして今に至る。

Btuberもホラーやってくれればいいのに。
と思って探したら怪談、感想、自主制作と色々あった。

ちょっと待って!そんなに怖い現象って現実で起きるの?

段々人間が怖いのか幽霊が怖いのか分からなくなった。

せめてお化け屋敷くらいは楽しもうかな。
浪華と。

◎二卵生の兄

 大学生活も三年目となる。
退屈過ぎず、楽し過ぎない。
双子の弟はある一件から険悪な関係から普通になった。
今頃剛の奴何してるんだろう。

俺は没にした手作りのホラー動画をザッピングしている。
こういうのクリエイター?って言うんだっけ。
ちっとも嬉しくないな。
何でこんなことしてたんだろう。

そこには家族や恋人、友人と一緒にいる場面が多い。
もしかしたらこういう押し付けを壊したかったのかもしれない。
剛と喧嘩していたからか。

自分達にとってホラーとは何なのだろう。
こうして自己満足でいくつも作っておきながら何も分かってないなんてお笑いぐさもいい所。

俺は夜を見計らって歩く事にした。
知り合いに会いたくもなかったし。

 独りで廃墟の前に立つ。
近場の心霊スポットで、ヤンキーが配信目的で利用していると噂になっていて立ち寄るものは少ない。
リサーチはしておいた。
その手の連中が現れるのは明日…深夜…そして熊対策も忘れない。

俺達は本来双子で、弟がヤンキーだったから知っている。
最近は雰囲気も変わって何事もなく青年として過ごしている。
勿論俺とは別の道へ。

早く素材を撮ろう。

こんな所に長居するつもりは無い。
兎に角生計を稼ぐ為には自分の才能を活かすしかない。
この廃墟の素材は他の配信者達に目撃されてもいない。

パシャッ。

念の為、別のデジタルカメラで撮る。
そして動画も。
一切喋る事もなく俺は進む。
何も映らなくても充分だ。
アナログ風にして、民謡を流す。
そうすれば…

ソォォォ…

ほら、こんな風にいい音が…え?
こんな意味不明な音声はまだ仕組んでいないはずだ!

ロォォォォォ…

洞窟から鳴り響く悲鳴のような音。

ふん。
タダで素材ゲットか。

もう少し相手を騙す為のトリックを仕込むには予算がかかる。
想定外は大歓迎だ!

ビュン…

すると風の流れがなくなった。
音が全くしない。
まさか?

俺は過呼吸になった。
空気がなくなる?
嘘だ!
こんな現象なんて、しまった!撮らないと!
しかし苦しい。

うぅぅ

しぃぃぃ

ロォォォォォ…

謎の声は聞こえる?
空気の振動じゃない、骨伝導?

何処からこんな

俺を意識を失った。

◎黄泉の夢

 黄泉竈食よもつへぐいという話がある。
夢の中で手渡された食べ物を口にした瞬間、元の世界に戻れなくなるという。

俺は産まれた時の光景を見ていた。
そこには『たけし』、『つよし』と書かれたネームプレート。
俺達双子の誕生だ。

これから歩む道も、望む世界も、欲する願いも違う。
二卵性双生児で見た目もほぼ違う。

産まれた時から両親の望みを変えた存在である俺達。

もし俺が死んだ訳ではなくて夢を見ているだけなら、産まれから今までの二十年間を黄色いスクリーンで見ている事になる。
壮大なドラマではなくて有り触れた諍い。
黄泉の世界で見せられる食事がこんなロードムービー未満の人生だなんて。

源流から目を背けるな

「誰だか知らないがムカつくな。勝手に窒息させておいてただの大学生を理不尽に無の世界へ誘おうなんて虫が良すぎる。」

タダ ワタシタチ ノ コノ バデノ

あまりにも唐突で、もし撮れるものならこの世界を撮れば安上がりかつハイリターンの映像が手に入る所だったのに!

「帰らせてくれないか?この感覚だとまだ俺は死んでるわけでもない。
ここにある世界は全て夢で片がつく。」

ナラ バ

無理やり何かを食わされるのかと思えば思い出やスクリーンごと自分の中に入っていく。

膨大な記憶。
少しずつ鮮明になる頭。
この廃墟と俺達が関係はないが、霊道に黄泉の世界へ一歩踏み込んだような感覚だ。

つまり迷子。

…ちょ…っと…
おきてくださ…い

おきてください

「ハッ!」

やっと起きたと二人揃って安堵する同じ姿の青年達に目眩がしたがどうやらこちらも双子だったようだ。

「良かった~。
人工呼吸までやりかけましたよ。
息全くしてなかったですし。」

「浪華が脈を測ってくれたから生きていると分かったけれど。

優しい奴がいるんだな。
そういえば自分も後輩を助けたっけ。
大学生活をエンジョイしすぎて感覚なくしかけた。

「ありがとう。君達も双子?」

余計な文を添えてしまった。

「え?もしかしてあなたも双子なんですか?性別が違う場合もあるかもしれませんけど、俺達は男ですよ。」

「見りゃ分かるよ。」

お笑い芸人かい。
なんか安心した。
二人は俺達と違って仲が良い。
年齢は自分よりは歳下で高校生くらいか。

結局、自分に何が起きたのかは分からない。
入っては行けない場所に迷い込んで、奇跡的に救われた。
それだけな気がする。

「いやあ俺達、あるホラー観てて真似しようかなと近場の廃墟に来たら早速あなたが倒れていて肝が冷えましたよ。」

「霊現象?かどうかはあまりお聞きしない方が良さそうですし。」

俺は出任せついでに知っている怪談を話した。

「ガシャドクロって知ってるか?
人骨の姿をした妖怪で人間の恐怖そのものと言われている。
その元ネタが日本からあるんだが、ある旅人が岩場の近くに寄ると着物の女性が居たそうだ。
挨拶をして後ろを振り返るとそこには古くから白骨化した遺体と着物があった。
そこから色々と話が複雑化したが原点なんてそれぐらい淡白で、味わい深いもの。

俺はホラー動画を暇つぶしで作っていたから、知らず知らずのうちに廃墟へ飲み込まれそうになった。

長くなった。
助けてくれてありがとう。」

双子男子は暗い廃墟の中でどういたしまして!とスポーツマンシップに則っていた。

これじゃ何がホラーか分からなくなりそうだ。
ただ二人は俺のホラー動画を観たいと目を輝かせている。
なんだか憎めない。

そうして俺達は帰路に着いた。
結局俺の身に何が起きたのかは分からずじまいだったが。

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