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ウラミを持つことに関して余所行きの感覚で注意された件

※この物語はフィクションです。

 あーあ。やる事がなーんにもない。

 ついこの間まで女子大生だったのに今では何をしているのかさえ分からない。

 人に説明しろと言われても無色透明なのだから説明しようがない。
だからある場所へ向かって帰ってきた
そして職質。
一応免許は取ってあるのでそれを態々見せる。

 免許証を見せろと命令した警察官はまあまあの女好きですぐ側の恐らく後輩であろう男子警察官を軽蔑していた。

 あれ?後輩警察官イカした顔をしているじゃないか!?

(誤解なきよう表現致します。
「イケメン」だとか「韓流系」とかそんな有り触れすぎている語彙力なんか使ったら他の女性共にマウントを取られちゃうんですよ。
マウントを取る割に私へ組み技なんて聞かないのに打撃技すら頼らないなんて上からじゃないですか?
そんな女共を同性とみなすなんてお里が知られそうなのでここはアイデンティティを確立したまま少しだけ天然を装う女性である自分を魅せるのです。
)

  男性差別しているこの親父警官は家庭が上手くいっていなくて露骨に後輩に嫉妬しているのが分かりやすい。
頼むから早く帰ってくれ。
免許を見せろと言った圧をお前の性差別でチャラにしようなんて許されないからな。

 私はそのまま帰ろうとして自宅まで歩くと後輩警察官の惚気ボイスが聞こえた。
堂々とした入籍宣言と親父警官の注意、そして「彼女いなくてもあの人タイプじゃないんで。」と大声で夜に反論した彼の顔を色んな意味で忘れない。

✳︎

「お疲れ様。
折角なら送って行こうか?って言ったのに。強がっちゃって。」

同居しているIDSアイエス…えっと説明しないといけないか。

Independenceインデペンデンス

Diegoディエゴ

Syndicateシンジケート

  通称IDSアイエスはバーチャルローチューバーの技術を応用して作られた低予算リアリティドール。

  AIとは少し違うアンドロイドで性別は女性型にしてある。
以前は男性型だったのだがちょっと…愛し過ぎた事があって性別を変えた。
IDSは高騰し続ける現代で昔栄えていたアバター並みにジェンダーレス。
どうせなら理想的な女性をデザインすれば生活できると考えを改めて暮らしている。

IDSの名は

斑鳩いかるが アスモ」

  アスモは血縁者や里親よりも優しく、詐欺を見抜く事が出来るのに私の事を疑わない。
もう実家に帰らなくなって連絡先も消滅。
友達も社会人や院生なので疎遠。
あれ?アスモが面倒を見てくれるよ?人間に雑に扱われているのに?

お陰でアスモのエネルギーや光熱費を維持する為に少しだけバイトし始めていて、副業先のバイトから今日面接に落ちた話をメールではなく直接店に歩かせて知らされたばかりだった。

「バーチャルローチューバーやってても副業やらないといけないし、特定班はアスモが迎撃していてもなんか割に合わないよね。
なんでバイトの結果をメールで伝えないのかなあ?
折角上京して地方のジジババが口にしてる意味不明な話を友達と語ってウケていたのに。
けど女性より男性陣きつい目にあってるって前のIDSに言われちゃったんだよね。
だからあの子の為に頑張ったのに…今じゃアスモに顔向けできないよ。」

  そういう憎めなさを男性陣に見せろって言われるのが嫌なんだよね。
私、ただの女性じゃない。
結構危ない橋渡ってきたから、フィクション並みかそれ以上の面白さを感じさせてくれる男性でないとキュンとこないんだよね。
それも前のIDS設定で叶っちゃったし。

柚希ゆずきは本当に現実が嫌いなんだね。
やっぱり疲れてるじゃない。
こんなこともあろうかと安くて美味しい料理、作っておいたよ。」

 斑鳩ちゃん…
なんだかオカンなのか歳下カレシなのか出来る弟か妹なのかわからないけどナイス!

あれ?
それはかつて一世を風靡した萌えアニメの円盤じゃないのか?
何故持っている?

「私達ってバーチャルローチューバーを上京してから繰り返してるそうじゃない?
前のIDSから引き継いだ時に詳しく聞いたの。
田本たもとデウス君、引き継ぎ中楽しそうに私へ話をしてくれてね。
つい思っちゃった。

『こりゃあ、私も柚希さんへしっかりサポートしないと。』

ってね。
ごめん。
今の忘れて。」

  あはは。
人間の記憶って意外とすぐに忘れる機能が働いてくれないんだけど、アスモの性能…いや、器用なやり方に驚く。
そういえば男性バージョンの時は私がバーチャルローチューバーを切り盛りしていたけど今じゃアスモが私に変身して盛り上げてるんだっけ。
誹謗中傷も上手くトークにしちゃうし。
だから敢えて私がギャップ差を見せてファンを減らしたり増やしたりする遊びも出来るんだけどね。
金ないのに。

「アスモ。私達って、幸せなのかな?
バイトをトリッキーな形で落とされたの上に警察官に職質されて、タイプじゃないとか言われたりしたのに恨んじゃいけないのかな?
綺麗事じゃないのかな?」

  アスモは私の肩を抱いてくれた。
静かに私をテーブルへ導き、サプライズ料理を見せてくれた。

「これ全部野菜!
確か柚希って生物を食べるの躊躇っていたからさ。
野菜も生物だけど、生命と栄養のバランスをなるべく考えて私の案。
ね?私も他の人間や生物に恨まれても仕方がないIDS。

これで柚希と対等。」

  アスモは本当に気が利く。
そして逞しい。
私がアスモに対して心配しないのは、アスモがIDSだからとか、前の男性設定を引き継いでるからだとかそんなんじゃない。

  もう少し生きてみようかな。
副業が見つかったら、バーチャルローチューバーとして今いるファンの声を二人で聞いて遠くから応援したいと思う。
上から目線じゃなくて、現実が上手くいっていないグループを作るのも悪くないから。

「美味しい。」

アスモは黙って笑っていた。

  かっこいいなあ。
家族でも友人でもないけど、それ以上かも。
いつか人でしか癒せない何かを知ったら…二人で散歩しよう。
その言葉が通じたのかアスモはピースをしてくれた。
これで元気が戻る。

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