イモータル・リチューアル
あらすじ
ムエタイファイター・草太速閃は消滅可能性都市の故郷から多額の報酬が支払われるかつて流行った町おこしを頼まれた。
そこで出会った町おこし計画者の一人である女性が草太速閃だけにある悩みをうちあけたことが始まりだった。
うぬぼれサイエンス
新聞を確認しながら一人電車を使って目的地へと向かう。
普段は自分の車を使うのだがタイヤの後すら残さないでどうしても向かいたかった。
消滅可能性都市。
いまや日本で話題にならないことはない。
生まれ故郷に愛着がないわけではないが二十一になった以上、
故郷は故郷。
暮らしは暮らしと分けて考える必要があることが人間関係を繰り返すことで実感した現実だった。
道路だけでなく線路や航路も出来る限り研究した。
せめて女性関係とそれなりに折り合いをつけられれば無駄な比較をせずに済む。
消滅可能性都市である故郷から多額の報酬が秘密裏に支払われるということはなんらかの形で故郷にすむ有権者が無形文化財にして私物化するつもりとでもいうのか。
草太速閃。
ムエタイファイターであり、国内外問わず立ち技ルールを経験しているフリーの廃墟研究者。
またの名をリサーチャーアンドファイターと呼ぶ。
日本語で伝えると【調査する格闘家】。
やってることは外研。
フィールドワークだ。
ふう。
お仲間と専門用語で話しすぎた。
論文とは違う街行く人々相手に伝わる言葉を習慣にすることをいつも決めてメモ書きしてる。
だから面倒でも電車、船は使うのだ。
* * *
きっかけはスポンサーだった。
故郷には格闘家としての自分を売っていなかったからかしばらく気がつかなかったが故郷で自営業を勤める人達が出身者の若手である草太速閃をわらをつかむ思いで探していたことから話を聞くことになった。
消滅可能性都市として騒がれていることに危機感を抱いた彼らは今どき「町おこし」をしようと勝手に盛り上がって話にならなかった。
大事なスポンサーだからずっと聞いていたが古いやり方ばかりでお世辞にも希望が見える解決策はなかった。
だから速閃は試合で勝ち続け、トップファイターとして戦うことで故郷を助けることに決めたのだが一人の女性が速閃に耳打ちをした。
「実は他にも問題があって。」
トイレを理由に二人で外を出る。
場所を案内するという理由で辺りを歩きながら情報を聞いた。
「不死リアルプログラムっていう意味のわからない研究が、この場所を離れた医者の捨て台詞で聞いて最初はスルーしてたんだけど、夜な夜なうめき声が聞こえて眠れなくて。
インターネットでもあまり噂になってないから自分だけの問題だと思っていたけど…」
女性は本の地図を取り出して速閃に見せた。
「なんでアプリじゃないのかって質問はここを見ればあなたまでの世代ならピンとくると思って。知らなかったらごめんなさい。」
いまは無くなっている洞窟の場所が女性が見せた地図にのこされていた。
速閃はこの地で廃業した医者の捨て台詞にあったという「不死リアルプログラム」
について違和感がぬぐえない。
ここの住人を生かすつもりがないから暴言として吐いた単語なのか、それとも医者が関わっている研究を余生を使ってここの住人に伝わるわけがないと馬鹿にした言葉なのか。
「ここの洞窟がいまは研究施設に変わってる。
うめき声の真相を確かめるために声のする方へ道を空いた時間に調査してみたら研究施設って書いてある場所の割には綺麗な一軒家にしか見えなくてフリーランスの人かもと思っていたけど、前に出ていった医者がここの職員らしき人に笑顔で挨拶していたのを見て怪しいなって感が告げて…ごめんごめん。
いくらここの出身の格闘家であの人たちがスポンサーっていっても町おこしなんて今更した所で聖地巡礼に来てくれる人達がここにくる可能性が低いことも知ってる。
でもね。 」
気になる話はここからだった。
町おこしの内容は速閃がここの代表選手として登り詰めるストーリーだけでなく、ここで興行をする計画もあった。
最初は他にもここの出身者で格闘家がいるのかと思っていたが人口を増やす目的で植物を使った研究があるらしい。
そのことについてはたまに速閃が研究をしていた時に耳にした程度だった。
『アナザー''レイ''』
人間や動物をつかわず植物を利用して生まれた人造人間。
100%植物で出来た若手に消滅可能性都市を任せるといった猟奇的な内容だ。
植物も生き物なのに伐採しつづけ、植物研究者もだんまりの身勝手な絵空事。
だが植物に声帯はない。
まさか?
「さっきから何か心当たりがありそうな顔をしているけれど何か知ってるの?」
速閃は少しだけ考えすぎていた。
それから謝って女性の話の続きを聞いた。
「生きた人間を利用する案をあの医者達がやりかねなそうだったけれど、研究施設にしてはただの一軒家すぎるそこでは…『幽霊』が見えたんだよ。」
アナザー''レイ''は植物でもない?
幽霊が見えた?
オカルトは信じないが女性がここで嘘をいうとも思えなかった。
それにこの研究が速閃の耳に入ったのもあまりにも馬鹿馬鹿しい専門用語ばかりだったからだ。
『枯れた植物と未確認の幽霊を使ったローコスト人材育成』
つまり死んだ植物と存在しない幽霊を使って新たな生き物を増やす同じ研究者として世紀末すぎる人間ゆえのおろかな発想。
まさか自分の生まれ故郷がそんな実験に使われることになるなんて。
確証はないがいずれ人が消える田舎を利用した計画。
速閃は女性に自分が研究者であることも話した。
廃墟研究者とまでは言えなかったが今どき専門家で食ってはいけないので他の研究で様々な現場で学んでもいたのでこちらも嘘はついていないつもりだった。
「研究者もやってるんだ。
新世代は器用…いや、ごめんなさい。
副業しなきゃ稼げないのは私もそう。
本当は私もこんな場所出ていきたいんだけど家庭の事情と懐事情でなかなか都会とか海外…そういう好きな場所で一人で暮らそうと思ってるだけで動けなくて。
だからこんなよく分からない話を男の子に聞いてみたくなっちゃったのかもしれない。
悪いね。」
速閃は「そんなことありません。」と女性の意見を肯定しうめき声の正体を伝える。
「その幽霊はまぎれもなく幽霊です。
ここの研究者がもし使うとしたら通称・アナザー''レイ''。
町おこしの内容で格闘技イベントの話も聞いていましたが僕はアナザー''レイ''こと幽霊と試合することになるかもしれません。」
今度は女性が驚く。
「え?それはないんじゃ?
でも可能性はなくはないのか。
そのアナザー''レイ''が私の見た幽霊で、ここを出ていったはずの医者も協力しているかもしれない研究にあなたが巻き込まれることになるのは許せない。
でもそのなんとかレイってのはこのまま放置して大丈夫なのかな。」
速閃は|上腕二頭筋|じょうわんにとうきんを曲げて力こぶを作り、笑顔で女性に見せて
「僕にお任せください。」
それだけ伝えて日程があった今、例の研究施設に向かっていたのだった。
リング外のたたかいと
速閃が子供の頃にかくれんぼに使ったかどうかギリギリ思い出せる範囲の記憶にしかなかった洞窟はすっかり小綺麗な一軒家に変わっていた。
研究施設か。
ネームプレートらしきものには『幽霊調査研究所』と書かれている。
研究施設はフィクションだとやたらセキュリティの高そうな機械設備ばかりに描かれているけれど別にただの家に見える研究施設も珍しくはない。
だが速閃は違和感を覚えていた。
弁護士事務所か会計事務所ならまだ分からなくはない建物。
いくら消滅可能性都市だからといってここの住民が案内してくれた女性以外に知られていないなんてことがあるのか?
中に入る前の間ずっと考えていると一人顔を隠した何者かが話しかけてきた。
「ごよう、ですか?」
「は、はい。よりすぐりの幽霊感知実績があるとお聞きしていたので。」
あくまで依頼人というていで行かないとバレる。
目立たずにここまで研究してる場所なのだから。
顔を隠した案内人はどうぞと研究施設へ案内してくれた。
中に入ると庶民的なフローリングにマットがしかれ、靴入れもある玄関だったが奥へ入るとそこにはガラスケースに黒い半透明の人のような何かが口を開けながら頭に装置を取り付けられ縛られている。
いくら依頼人を通すためとはいえこんな悪趣味なものがある場所を普通歩かせるか?
研究者としてではなくだんだんムエタイファイターとしての感が芽生えてくる。
ファイターとはいえ暴力的な衝動があることはほとんどない。
ムエタイがすっかり近代化され、遠征はあまりしたことがないがタイも変わった。
場所にもよるがムエタイファイター達が日夜練習している雰囲気だけは歴史として残っていて感じさせられる等身大の人間としての感想だ。
逆に言えばこの研究施設は日本でありながらどこか薄暗いいつ攻撃されるか分からない恐怖ばかり考えてしまう。
「あんた、見たことある研究者だ。」
案内人が顔を隠しながら何かを唱える。
「研究者としてはまだ芽が出てなくて。
でも僕、プロ格闘家でインターネット限定とはいえ顔出ししてます。
自分で言うのもなんですがそれほど認知されてるとは思っていないんですが。」
廃墟研究者やってるムエタイファイターなんて他にはいないが何故顔が割れているのだ?
しかも研究者と言っている。するとガラスケースにいた幽霊と似た黒い霊体達が無数に時分を取り囲んだ。
「なるほど。この用心深さで田舎でも目立たたなかったのか!」
この研究施設関係者に知られていたのか?
町おこしを考えられていたから誰かお節介な人間が教えたのだろうか?
真偽はともかく簡単に進ませても帰らせてもくれないか。
速閃はムエタイ前の儀式を行い、軽装のまま舞う。
わざわざ律儀に妨害しないあたりこの霊達は何かを探っているのだろうか。
そんなことはどうでもいい。
むしろ奥へただ進めばいいだけなのでまとめて相手してやる!
声を上げて気合いを入れ、速閃の臨戦態勢に気が付いた霊達が攻撃をくりだす。
交わして攻撃をよけ頭を狙う。
ガラスケースにいる霊達を見た時に頭以外装置が取り付けられていたから攻撃できるのはそこだけ。
グアアア!
霊達の生々しい声が研究施設内に響く。
気が引けるが向こうも攻撃的かつ法に触れる対象とは違うので速閃はただ攻撃をくり出す。
ハイキック、ストレート、ロー、MMAファイター発祥なのにキックボクシングで覚えたカーフキックも低身長な速閃の目線の下に入り込む霊達の頭を狙うにはちょうどよく、本来は禁止されている肘ありのムエタイわざを存分に発揮しながら霊達の頭部を狙える時は溜まっていたストレスが完全に晴れた。
やばい。
アドレナリンが湧き出ていたら他の研究施設関係者と冷静に会話が出来ない!
ただ霊達は死ぬことはないようで頭を攻撃された後は速閃へ恐怖の目線を向け倒れながらこちらをにらみ続けるだけで反撃はしなかった。
喧嘩が苦手な速閃にとって霊達が攻撃しても無事なのは良かったものの、油断をすれば何をされるか分からない恐怖もあるのでただただ無双し続けるしかなかった。
霊達も恐怖で逃げるものもいれば、まるで誰かに操られているかのように攻撃を続けるものもいてひたすら速閃は攻撃を食らわせないように戦い方を変えていた。
判定勝利をあえて狙う敵ファイター達の対策と真似がここで生きてくることになるとは。
速閃は内心戦いにたのしさを感じつついつの間にか奥の部屋へと進んでいた。
そこには一人の人間がモニターとパソコンと安そうなパーテーションと椅子がならぶ研究施設というよりプライベートルームとしか言いようがないところで拍手をしてこちらに近づいてきた。
相手は人に見せられる程度のセンスで出来た無地のシャツに長ズボンの私服の男性でどこか飄々としていた。
「へえ。噂では聞いていたけど本物のムエタイ?選手なんだ。」
どこで聞いたのかは分からない。
この故郷の人達とはスポンサーとはいえ本格的に関わってきたのはつい最近。
しかもこの人とは初対面。
「なぜ知ってるかって顔してるね。
俺としては廃墟研究者としてのイメージが強いね。この場で会うのは俺もはじめてだけど。」
廃墟研究者として知られている。
ということはツテがあるとしたら…いや、これは極端な発想でしかない。
「あなた、ホラー関係者なんですか?」
今どき廃墟イコールホラーなんておかしいと思ったが念の為に。
「いまは肝試しも許可がないとプロの番組関係者でも入れないし、悪徳YouTuberが肝試しにきた他に入ってくる人やYouTuberを恐喝するために使われることもあってね。
君みたいな廃墟研究者と仲良くなれれば今後俺達も仕事が続けられる。」
仕事?
研究者が選ぶ内容は研究者の数だけあると聞く。
でもこの人はなんの研究者なんだ?
いや、研究者なのか?
たしか昔、友達と遊んだ時にホラー関係のDVDを見たことがある。
まさか!
「ホラー番組制作スタッフ?それともホラー番組研究家?ですか?」
男性は拍手をさらにオーバーにして笑い始めた。
「元ホラー番組関係者だよ。よくこれだけの情報で当てることが出来たね。
いや、もうネタばらしするか。
俺達がやってるのは不死リアルプログラム。
植物や存在しないはずの幽霊達を使って新たな生き物に低予算で色々と手伝ってもらうことを目的としている。
そして町おこし。
ここの住民が君のことを教えてくれてね。
格闘家だってことだけ強調されていたけれど田舎って嫌だねえ。
隣三軒両隣だっけ?
それで君が廃墟研究者をやっていることも調べさせたんだ。
ネットリテラシーだけでなく現実においても選手としての露出以外を二十一っさあぁい!まで隠し続けるなんて格闘家も俺達ホラー映像業界関係者に近い売り方を心得ていて共感してたんだ。」
さっきまで彼を守っていた霊達を倒した相手を初対面によく喋る人だ。
速閃は他にも質問をした。
「あの霊達に調べさせてたんですよね?
いや、霊達というのは時代遅れか。
アナザー''レイ''に監視させていた。
違いますか?」
むしろそれ以外にはないはず。
彼はもう拍手はしていない。
さっきまで立っていたのに流れるように椅子に座っている。
「この町おこしが成功すれば俺達はここを所有物に研究が続けられる。
もうホラー番組関係者ではなくアナザー''レイ''研究者であり開発者だ。
でも需要がまだなくて円安や人口減少にコンプラ強化でなかなか売れない。
格闘家でもある君なら分かるかもしれないがグレーゾーンを守りながら生き残る世界にいる以上、ごまかせなくなったらおしまいなのさ。」
グレーゾーンか。
それは格闘技というよりも地上波時代の人間が作ったフィクションだ。
薄々速閃も感じていたがホラーも地上波で誇張されすぎ、ブームも過ぎて苦しんでいるのかもしれない。
同じ町おこしに呼ばれた研究者として、報道による代償としてファンから余計な期待と誹謗中傷をされるファイターとして彼に少し同情している部分も速閃《せてろ》の頭の片隅にはあった。
ここの女性が教えてくれたうめき声の正体はアナザー''レイ''によるものなのか。
少し引っかかるが。
「だが霊なんて本来は存在しない。
ローコストでは限界がある。
植物の体組織だけじゃとても足りない。
だから医者にある協力をしてもらったのさ。
察しがいい君なら分かるかもしれないけれど。」
言明はしないが生まれ故郷の闇を知った瞬間でもあった。
「このまま住民を利用するつもりですか?」
「悪いことかなあ?
経済にしろ、政治にしろ、田舎にしろ、なんにしろ…人も予算も何もかもが足りない。
そこでこれだけ法を守ろうと消滅をさける為に俺達は努力している。戦ってる。
むしろ君は研究者でなければ後に町おこしの協力をすることになるチームの一員を攻撃したことになるんだ。
君は何を背負う?
何のために生きる?
廃墟か?
格闘か?
応援してくれる人のためか?
それとも誰も助けてくれない法と信念のためか?
君の対戦相手としてアナザー''レイ''は戦闘実験データも残してくれた。
君のデータは厳重に守る。
町おこしの協力者として多額の報酬をここの人達は喜んで出してくれる。
退治するのかい?君のエゴで。」
それなら一言伝えるだけでよかった。
「うめき声の機能を消してください。
こだわりたいのは伝わってるので。
クレームではなく近隣住民の貴重な改善案です。」
詳しくこの場所の現状を教えてくれた女性しか知らない悩み。
あとは話し合いをするだけ。
「廃墟研究者としてでもファイターとしてでもとやかく言うつもりはございません。
こちらとしても消滅可能性都市として選ばれてしまった場所をできるだけ守れるのならスポンサー相手への配慮としてではなく一人の出身者としてリングに立つ理由があるのなら命をかけて試合をし、リングではない人生を戦い続けられる。
たとえ上手くいくことばかりじゃなくても。
ですから。
僕とチームになるのなら大人としてどうか全てご内密に伝えられる範囲で協力し合いましょう!!
それに。
昔DVDでホラーを観てましたけどもう研究者ならあそこまでこらなくていいです。
もっと住民の声を聞く努力もしてください!!
お願い致します!!」
そう。
ただそれだけだった。
女性も別に下世話な趣味ではなくうめき声が嫌だったから調べていただけだ。
あとは町おこしチームとして互いに説得を続けるだけだった。
本来なら恥ずかしいことでもこれであの女性が眠れればそれで良かった。
そして彼も戦闘データを得られ、あの霊達の不気味さと余計なこだわりを抑えてくれればいいと何度も何度も速閃《せてろ》は頭を下げ続けた。
探求格闘者として
町おこしチームとして彼が紹介された時に初対面を上手く装った速閃《せてろ》はまた懐かしいゆるキャラ風に変わった半透明のアナザー''レイ''を見て彼の柔軟さにほっと息をつくのだった。
あれからあの女性と会うことはなかった。
もう確実にうめき声は聞こえないので安心してこの地を旅立つまで暮らしていることを願う。
もしあの女性と出会えたらお礼をしたい。
それまではトレーニングと減量などを繰り返し、ファイターとして力を入れながら彼と遠隔で協力しながら廃墟研究も行っていた。
莫大な報酬…とまでは流石に言えないけれどこの町おこしを成功させるためにも故郷に応援されている身としてたとえ国内でも国外でもリングの上で勝ち続けることをちかう。
それが町おこしの一番の貢献だ。
今日も試合に勝ち、内容的にタイトルマッチかトーナメントに呼ばれるほどのランカーになれたかは実感がわかなかった。
それでも速閃《せてろ》はマイクでアピールを続ける。
するとそこにはあの時の女性らしき人がものすごく喜んで立っていた。
課題の多い勝利で少しだけ喜んでいたら誰かが駆け寄ってくれた。
「速閃《せてろ》くん…選手!おめでとう!
はじめて格闘技を見たけれど相手の軽そうで重いパンチを顔が綺麗なまま勝利するなんてもう最高!もう住んでないけど同じ出身者として鼻が高いよ!」
ああ。
なんて久しぶりに聞くファンの具体的なほめかた。
気が付かないうちにSNSをフォローしていたのだろうか?
特に目立った印象もなかったから本当にはじめて見に来てくださったのかもしれない。
「あ、ありがとう…ございます。あれからうめき声は大丈夫でしたか?」
小声で質問をすると場所を少し変えてさらに小声で女性は答えてくださった。
「あれから町おこしのチームをやっているらしい男の人から謝罪されてね。
なんの事か分からないけれどそれからうめき声はもうしなくなって。
それだけでも良かったのにその男の人から資産価値があるらしい石を受け取って試しに売ったら臨時収入にしては言い難い額で売れてそのまま転職と同時に引越し。
それでたまたまあなたのことを思い出して初会場
初格闘技観戦。
面白かった。
人生って何が起こるか分からないねえ。」
あの人が気を悪くしたのか。
よく彼女だって分かったな。
やはりホラー番組関係者として知らない廃墟情報を提供してくださるだけある。
アナザー''レイ''に頼らなくても凄い人だと実感した。
そのお陰でこうしてお礼を言えるチャンスがやってきた。
もうお互い故郷を客観的に見られる。
あの人にもお礼を伝えるのを忘れないようにメモをした後にファンになってくれた彼女にお礼が言える。
「あの時と今も応援ありがとうございます!」
また練習頑張るか。
今はそれだけに集中する。
一人の漢として。
[完]
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