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闇ドラ:四話

※全十二話で、五年前に投稿した自作です。

投稿サイトに掲載した作品を処女作と読んでいいのかは分かりませんが、自分の話を描きたくて『私小説』にのめり込んだ作品でもあります。
なるべく掲載当時のままにしておりますが、読みにくいやその時代だから許された描写、表現には修正、加筆等をさせて頂いておりますが基本的に掲載当時のままにしております。

お楽しみ頂ければ幸いです。

あらすじ

  ふと舞い降りる希死きし
それが悪魔の血を浴びた“騎士”の八つ当たりか王道物語における悪の役割にピリオドを打つ為に訪れる正義の“騎士”なのか。

理由はないしそんなものはいない。
生きる欲の強さの反動と考えるのなら当然。

既に死んでいても命のやり取りは存在する。


あなたの情報源


  わたしは情報屋という普段堅気の毎日を送っていれば会うことのない場所に来ている。

  新幹線と徒歩での移動を含め1時間ほど。死んだ時間なんて関係ないのに気にしてしまう。

「何してんだよ。行くぞ。」

わたしは彼の後を黙ってついていく。

  情報屋の場所って、もっとその筋の方が沢山いるものと思っていたが流石幽霊。

人っ子一人いない外れた海辺の小屋にあるようだ。

「死んでるんだからどこ建ててもいいんじゃない。」

  彼は悪態をつくわたしを無視して進む。

「ごめんなさい。せっかくわたしを殺さず連れてくれたのに。」

「そういうのいいよ。」

  自己中の旅の趣旨にそぐわないからか。
けれど言い過ぎた。
こう見えて相手の気を遣うのよわたし。

そうこうしてるとお爺さんらしき幽霊が現れた。

「よっ。」

彼が軽くお爺さんに挨拶する。

  お爺さんは少し頷いてわたし達を中に入れる。

  中は外見に対して綺麗だった。
幽霊の住む家のイメージとは掛け離れている。
そんなわたしの反応などお構いなく話は進む。

「例の女とここまで来るとは。お前さんの考えは分かりづらい。」

  お爺さんはわたしの存在を気に入ってはいないご様子。

「まあいずれ殺すし。目立った行動がないから同行させてる。」

「そうか。所で紫藤しどうはどうした?」

「その霊なら殺したよ。ほらっ。」

  そう言って彼は白い血がついたナイフを手渡す。
あれって換金するためのもの?証拠がいるのか。

「仕事が早いな。ま、お陰で寂しくなくて済む。」

「情報をたんまり提供してくれているあんたのお陰様で。」

  それからわたしの知らない話ばかり続いた。
本当女心どころか気遣いがない。

  死んだのにそんなこと気にするわたしが悪いのか。
しばらくして会話が終わると彼はわたしに「依頼だ。行ってくる。」とだけ伝え、走って扉を開けた。

しばらく椅子に座っていると

「ちょっとあんた。」

  わたしはお爺さんに呼ばれた。

  なんか愚痴でも聞かされるのかなどと考えてしまったがわたしも暇なので近づいた。

「あいつに連れが出来るなんてな。」

  やはり友達が出来るタイプではないか。
少し彼へ興味があるのだがキツく返してしまった。

「お言葉ですがわたしは歓迎されていないのでは?」

「そう急くな。
あんたは最初標的だったからな。」

  そう。
わたしも多くの生きている人間を殺した悪霊。
彼と一緒にいていい者じゃない。

「連れてくるとまでとは思わなかったが。」

  なんか感じ悪くなってしまった。
当然の反応か。

それからお爺さんはカップに飲み物を注ぎ、わたしに渡す。

「こうした方が話しやすいか。」

「店長みたい。」

  わたしは思い切って彼のことを聞いてみることにした。

「彼って何者なのですか?」

  お爺さんは躊躇うことなく話してくれた。

「どうせあんたも殺されるなら話しておくか。」

あなたの過去

  彼は幼くして死んだ。
正確には死産だ。

望まれた命に望まれぬ死。

  彼は誰にも何も教わらず“生きて”いた。

  他の赤子や子供の霊とともに過ごしていたそうだ。

  霊は死んだら死んだままの姿で現世に残ると言われているが肉体的、精神的成長はちゃんとあるとのこと。

  遅いか早いかは個体差によるのかもしれない。

  ともかく成人間近になり、同い年くらいの自殺者の霊と友達になった。

  多分それが最初で最後の友人とのこと。
その友人が生前就活中に経験した今までの悩みをずっと聞いていたそうだ。

  しかし、その友人が生きている人間を殺し始めた。
そして彼は友人を殺したそうだ。

「あいつは自分を生んだ家族、育ててくれた幽霊の仲間、生者に感謝している。
そこに理由はいらない。
ただ、生きている状態で悩む苦しさは知らないかもしれない。

  それと初めて出来た友人が生者を殺すことにこちらの想像以上の苦しみがあったんだろう。

  不確かでどれだけ生きている頃の記憶があったか忘れている俺でもくるものがある。」

  生を守るってそういうことなのね。

  死んだまま育ったんだ。
そんなことあるんだ。
生きていたらわたしはこの話しをどう思っただろう。
泣いてあげられたのだろうか。
わからない。

「あいつはそれから仲間と会うのを避けて俺のところへ来たよ。死者の情報を扱ってないかって。その時豪雨でこの辺り荒れてたけどドラマ顔負けのシチュエーションだったよ。」

「けどあなたの情報、なんかわからない所があるわ。」

「完全な情報じゃないし、本人から聞いたわけじゃない。」

「人伝?」

  そう言ってお爺さんは彼を育てたらしい幽霊たちのリストを見せた。

  見せてよいのか尋ねたが
「個人情報なんて俺達に必要ないからな。」

  とのこと。
とはいえ出会ってすぐかつ信頼されてないわたしに見せるなんて。
お互い死んでいるからかな。

  あとなんだかんだ彼、心配してくれる人?いるのね。

  幽霊が幽霊に育てられた…か。そんなこともあるのね。

  しばらく会話をしていると彼が戻ってきた。

「ただいま。」

君死にたもうことなかれ

  私達はクルージングしていた。
どっかの船に乗っている。
お爺さんが船の出発を教えてくれた。
「遠くからわざわざ来て貰ったから楽しんでこいとのこと。」

「お疲れ様。」

「そういうのいい。」

「礼儀。」

  漁船だけど居心地がいいので二人して寝転んでいた。

「俺の過去、真に受けてる?」

  あのお爺さんがわたしに話すことは織り込み済みか。
お喋りかつ情報が筒抜けなのに寛大な彼。

「半々。でも前にあなたが少女を助けた時に生きろと激励したことを考えると納得いくこともあるのよ。」

「そうかよ。」

「ねえ。話してよ。どうせ殺されるなら聞きたい。」

  彼は不機嫌そうだった。
でも恥ずかしい感覚はないのかもしれない。
あの話が本人のことかはわたししか聞けないから。

「全くお節介なんだよなあいつら。」

「それもまた人間よ。」

「生きていた記憶があるとみんなそうなのか?」

「人による。」

  彼はだらけながらも真顔で言う。

「俺は生きている人間を殺す霊がわからない。
どいつもこいつも嫉妬や怨みを理由にするが死ぬとみんな変わるのか。
生きたことのない俺はなんなんだよ。」

「あなたも…大変なのね。」

「俺は生きている人間に感謝している。
幽霊の仲間にも。
だからこそ俺も手を汚すしかなかった。」

多くはまだわからないが彼の苦悩を知れた。それを聞いたのがわたしで良かったのかわからないが。

  わたしは涙をこらえようとする彼の顔を見ないように船上を寝転がった。

生を知らない生。

死を知らない死。

  それが他に向けられても本来は防ぎようがないのかも知れない。

何も殺さず生きられない。
死んだように生きたくない。

  でも生を一秒も謳歌できずに死んだとしたら…

  もしかしたら人類は子宮から無事に出るという過程を皆経た時点で最大の幸福を得ているのかも知れない。

  逆に不幸こそが生きている人類の求める最大の欲求かも知れない。

希死念慮きしねんりょは生に足掻く人間が死も経験したいという好奇心と欲望なのかも知れない。

  殺人衝動は生存本能の恐怖に対する欲望かも知れない。
死んでから学ぶことがあるなんて。馬鹿は死んでも治らないと言った先人は何者なのだろう。

続く


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