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闇ドラ十一話:俺という男

※全十二話で、五年前に投稿した自作です。

投稿サイトに掲載した作品を処女作と読んでいいのかは分かりませんが、自分の話を描きたくて『私小説』にのめり込んだ作品でもあります。
なるべく掲載当時のままにしておりますが、読みにくいやその時代だから許された描写、表現には修正、加筆等をさせて頂いておりますが基本的に掲載当時のままにしております。

お楽しみ頂ければ幸いです。

あらすじ

闇ドラとは。
二人の男女が死してなお生を謳歌する物語である。
そこに誰かが何かを挟む余地はない。


  俺は生を知らない。
死産だったからだ。
このことを教わったのも生を経験したことのある子供の幽霊仲間から教わった事実。
それも随分昔だけどな。

  親のことを俺は面倒だったから探さなかった。仲間がいたからそれで充分だった。

  俺を育ててくれた仲間達のリーダー各の少年は川で泳いでいた時に溺れて死亡したと笑って言っていた。
俺は「なぜ笑う?」かと問うと彼は謝っていた。

  もう一人の少女の霊は交通事故を起こしてしまった家族の無理心中で死んだらしい。

  彼女もそう話す時は笑みを作って胡麻化していた。
もう一人の少年の霊は裕福な家庭だったようで誘拐され殺されたらしい。

  俺は生きていたことがないからわからないのだが、自分の死を語るというのはそんなに恥ずかしいものなのだろうか?
平等に与えられている生死において皆が同じような生き方や死に方ができるのなら苦労なんてないのではないのか。

  他の水子(子供の霊)もそうだった。
俺のように死産で生を知らないやつもいた。ただ一緒にいても安心感は得られなかった。

  俺は生きている人間の体験をしたかった。何かを食べたい、飲みたい、味わいたい、聞きたい、嗅ぎたい、触りたい、吸いたい、好かれたい、嫌われたい、愛したい、群れたい、一人でいたい…
俺はどうしてもそれが知りたかった。

  そんな時にどうしようもないやつに出会った。  

「お前暗いな。俺に似てる。よろしく。」

  おお。
これが友情なのか。
ふと経験したことのない感覚が湧いてきた。
育てられる時は友達というわけでなく、なんていうのだろうか。
『家族』と呼ばれる状態だったのかもしれない。

  でもこの遠いようで近い感覚。
友情なのか?俺は迷いながらもそいつと付き合った。

  そいつは二十代前後で親に決められたように生き、決められた学校を出て、決められた会社に付くも最期は自分の意志で死を選んだ人間だ。
話すことも生前の愚痴ばかり。

  でも俺はそれが嬉しかった。
こんな風にがむしゃらに話しかけてくるやつなかなかいない。
狭い空間で死を共有していた俺にとってそれは生きている同年代と話す感覚に近しいものだった。

「お前、本当はどうしたかったんだ?」

  俺はそいつに聞いた。
そいつは涙ぐみながら傍の柱をたたいた。

「自分のやりたいように生きたかった。
エリートなんてくだらない。
もっとふざけたかった。
もっと遊びたかった。」

  本音を隠す日々に疲れているのはこの言葉が明白に教えてくれる。

「俺に言ってくれてありがとうな。」

  彼の涙はより量が増えた。

  生きることの苦しみだって俺にとっては大事な事だと思った。
死ななくてもいいことだと俺が思っていても相手の感じ方はわからない。
それを知ったのは悲劇が起きた後だった。

  そいつがある日生きている女性を殺し始めたのだ。
人気のない場所に待ち構え、まるでカマキリが獲物にとびかかるように近づいた女性を殺し、自分の精器を押し付けていた。

「何をしている!」

  それを見つけた俺を見たときのそいつの顔は般若のようだった。
死者にしては欲が強すぎたか。

「お前にどうこう言われる筋合いはない。
俺は俺で好きにやらさせてもらう。死んだとしても!」

  俺にはどうすることもできなかった。
でも、なにかやれるはず。
たった一人の友人に対してできること。
俺は悩んだが、かつて拾ったナイフがあったのを思いだした。
たまに霊でも触れる物体が存在する。
死んでからできたものなのか、そういう縁があるものなのか。

  俺はそれで“友”の腕を斬った。
友は苦しみながら俺に罵詈雑言を言い放つ。

「なぜ切った!俺の勝手だろ!正義の味方になったつもりか!」

  そんなんじゃない。
俺は何も言えなかった。
悪いな。
俺はお前みたいにおしゃべりじゃない。
今思えば他にもっと方法はあったのだろう。
だが友の悲痛な姿をこの目に焼き付けるのはもう辛かった。

  だから俺は唯一の友を殺した。
白い血が流れ、友は消えていった。

「ごめんな。
俺が馬鹿なばっかりに。」

  それから雨が降った。
その時街を歩いている俺と同じような背格好、二十台前後のやつらが眩しかった。
天候とは相反する状況に俺は居た堪れずにどこへともなく去っていった。

「あんた…見かけない幽霊だな。」

  気が付けば俺はお爺さんの小屋の前にいた。

「俺でも知らない幽霊が来るなんて。」

「危険だから可能性がありそうなやつにはちゃんとマークしておけ。」

「あんたの言う通りにさせてもらうよ。」

  それから俺は生者を殺す幽霊を殺すことにした。
俺にはよくわからない償いというもの。
霊も…友の命も俺は奪った。
俺もやっていることは変わらない。
なら俺はこのまま突き進むしかない。勝手に生きるためには。

  だから仲間からも距離を置き、たった一人で技を学び、情報屋の爺さんとともにこの汚れ仕事を行ってきた。仲間もほかの幽霊を探すためにここを嗅ぎ付けてきたができるだけ避けていた。

  そんな活動も慣れてきてしまった頃、ある不幸な女がいた。
情報屋によれば死を選ばざるを得なくなったが踏ん切りが付かない生者を殺す女と記されてあった。

  いつもなら気にしないことだったがふと気になった。
友のことだろうか?
なんなのか。
写真を観たらなかなかの美人だ。
とはいっても歳はそうとう離れている。
生前のことだからな。
死ねばみんな年齢関係なく大体一緒だ。

  だが俺がターゲットにした時からその女は殺しを行わなかった。
俺のことは知らないはずなのに。
あれだけの殺しをしておいて悔やまない幽霊なんて、生前に執着していなければいないはずだ。
なんだかこの面倒くささに関しては俺手が手をかけた友に似ている気がした。

  恋愛については俺はよく知らない。
知りたいがもどかしい所だ。
そういう興味もあって彼女に近づいた。
話してみるとそっけないタイプだった。
だから俺は強引に誘ってみた。しぐさがなんか素敵だった。少なくとも俺にはそう見えた。

  そうして今の俺達がある。
俺の人生はだいたいこんなものだ。俺は勝手なんだ。

何もかも。

続く

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