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願いと犠牲

※この物語は又聞きです。

 背後に誰かがいるのは怖いですか?
死角に得体の知れない者がいるのは怖いですよね。
ですが、真正面から現れる怖さも堂々としていて恐ろしい。
この話は、ある人から聞いたお話です。

私はいつものように事業所へと赴く。
低賃金で早く別の所へ就職したい。
外も中も差別だらけでつまらない。
稼ぎもないから娯楽もない。
人間なんて大嫌いだ。

今すぐ何かと契約を交わせるのなら、啓発的なエッセイやビジネス理論を書籍化した奴らを根こそぎ不幸の底に陥れたい。
私が読書嫌いになった理由は出版業界の衰退と資本主義に甘えておきながら、一人で生きてきたと錯覚している肉達が鬱陶しい身体。

もう禁じ手を使うしかない。
私には秘伝書がある。
妄言ではない。
ある者を呼び出す為の家宝だ。

私には親も金も何も無いけれど、役所からの差し押さえすら跳ね除けて守ってきた秘伝書だ。

そこにはこう書かれていた。

・恨みや欲で使うことなかれ
・ 誤解を産む金の亡者の破片を入れるべし
・愛に翻弄されるなかれ

さすれば弱きが強きを挫いてくれる。

最後にそう記されていた。

恨んでるやつなら何処にでもいる。
けれど誰か誰だか分からない。
事業所にいる人間なんてみんな被害者だ。
だったら…

私は書店にいってぼったくり価格の自己実現を訴える資本主義者の本をなけなしの金で買って家へ帰った。
綺麗事と戯言で金の亡者なのは代わらないからいい餌だ。
破片でいいと聞いたが内心、秘伝書のことは信じていなかった。
けどもし本当なら。
一縷の望みに縋りながら、私は本を破って秘伝書に貼り付けた。

「なるほど。いつの世も変わらないなあ。」

うわああああ!

秘伝書から筋肉質のモンスターが現れた。
という事は亡者の破片なら本でも成功するのか。

「秘伝書に頼らざるを得ないほど憎むようになったか。
あんなに小さなかったのに。」

私はただただ恐れ慄いて腰が抜けた。

「まあ、見たくもない亡者の本を盗まずに金払ってまで恨んでるわけだしな。ちゃんとこいつを地獄に送るよ。けど、何かを呪うという事は幸せを捨てているって自覚は持ちなよ。」

リスクだなんて綺麗事だ。
けれど対価なしの儀式なんて成立しない事は分かっていた。
これで死ねる。
死と引き換えに亡者を殺せるならこんな人生、捨ててやる!

「ほら。」

するとモンスターは大金を渡してくれた。

「あんたはもうそれなりの会社員で貯金もある。
亡者はさっき拷問して殺したよ。
おかげであんたは幸せを手に入れた。
もう差別も区別もされない。
あんたの代償は幸せになることだ。」

すると景色が変わり、私は先程の事を忘れた。
秘伝書ももう存在しない。

数ヶ月後。

もうすぐ旦那の昇進だ。
日本を含めたアジア全般は遅れている。
後退国ならではの幸せを手に入れるまで私も事業所務めの障害者だったからこの幸せは納得だ。
本当の幸せかは分からないがこれから作ればいい。
やっと子供を授かって、嬉しい悩みで満たされる。

何時間も待った。
出産には立ち会ってくれると言ったのに!
何故来てくれない?
私は出産の為、病室に入っていた。
難産も覚悟していたがそうしていると室内に悲鳴が響き渡る。

おおよそ誰にも似てない筋肉質の何かが産まれた。

「いやあ、久しぶりに会うことが多いねえ。といってもあんたは忘れてるよな。」

え?
治まらない痛みと幻覚ではない確かな奴の存在に私は混乱した。

「旦那はもうこの世にいないよ。
あんたが昔呪った亡者の身内に俺も頼まれてね。」

一体何を言っている?

「代償というかさ、俺ってイマイチ人間の考えるメリットデメリットって理解できないのさ。
だから金と恋を何もなかったあんたに渡した。
今はアジア諸国では恵まれている部類になったんだよあんた。
それがあんたの代償だ。
もし、またないものねだりしたら殺される程度ではすまないかもね。」

私は過去に何をしたんだ?
記憶に無いからただ恐怖するだけだ。

私はそのまま眠った。

旦那は死体で発見された。
殺した人間も顔が分からない程の返り討ちを受けたらしい。
旦那はもしかしたら戦闘経験があったのかもしれない。
あのまま子供が産まれていたら私もDVを受けたのかも。

旦那の墓に手を合わせると誰かが声をかけてきた。
何故?
誰?

その人は何かの本を持っていた。
そして私の腹には包丁が突き立てられた。

「蹴落として幸せでしたよね?」

そう吐き捨てられて私は意識を失った。

数ヶ月が経ち

奇跡的に私は助かった。
しかし貯金ももう底を突く。
あのモンスターが言った代償がなんなのか分からなかった。
私を刺した人間も未だ見つかっていない。
蹴落としたって?
誰を?
私は辛かった障害者生活を抜けたかっただけなのに。

こんな筈じゃなかった。
でも不思議と納得はしているのだ。
だから怖いのだ。

私は過去にモンスターと何をしたのだ?

皆さんは誰かのおかげで生きていて、自分一人だけで幸せになったり不幸になっていませんよね?
下駄を履かされてから八百長だらけでエリートになっている過程で私達は大事な友や仲間や様々な人達や生物と共に共存しています。

独りよがりの幸せと成功の裏で、危ない何かと交わした契約も忘れながらね。

駄目ですよ。
いい事ばかり書くなんて。
ちゃんと末路も書かないと。

皆さんは、誰を蹴落として威張っていますか?

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