かかってこい奇霊譚:前編
奇霊譚とは。
この話はある個人配信者達が遭遇した怪奇現象、超能力、非日常をカメラに残した物語のこと。
かかってこい奇霊譚:前編
漁師になるつもりで海へ潜り、いつものように魚達と遊びながら陸へ上がる。
二〇二四年、今年二十二歳となる婿ノ逵天馳は船舶免許はあるが魚や海藻、珊瑚を傷つけない屈強なダイバーだった。
かといって保護も簡単ではなく、栄養管理の時も魚介類から必要なエネルギーを取るくらいなら長生きしたくないと近年の健康論にも疑問を持って身体を鍛えている。
ある日のことだった。
彼の元へある取材者がたった一人でやってきて質問をしてきた。
男子高校生で監督になり、ホラードキュメンタリーをやっているよく聞くハイスペックティーンエイじゃーらしいと天馳は嫌な顔付きで話を聞いていた。
「あなたのいる地域の住人からよく依頼がきてます。
令和の半魚人が現れるって。」
たまに漁業関係や自然を扱う動画配信者から嫌がらせを受けることがある。
食わないのに魚と遊ぶなんて二十代とは思えないだの、海が友達だなんて気持ち悪いだの、漁師を告げだの。
それでも海を守るために喧嘩も引き受けて素手で勝ち、暴力にならないようにわざわざ祭りごとを子供の頃から海を守るために演舞をならって相手の攻撃を避けたり利用したりしながら乗り切ったり。
ついたあだ名が「半魚人」。
我ながら気に入っていたがついにホラー番組までやってくる所まで嫌がらせは続いた。
つくづく人間が嫌になるよ。
だが男子高校生監督の話は違った。
本物の半魚人が隠れて過ごしているらしい。
そこで彼がこの地域の人間と思しきインタビューをこちらに見せてきた。
インタビューイ:D子さん
「私は元々ここに住んでいたわけではないんですけれど、漁師の息子さんが海を守るためにご職業を継ぐのをやめてこの場所にやってくるマナーの悪い人達や危ない生き物から近所に住んでる海で遊ぶ子供達を守っていたりする若い方、二十代くらいの男性が半魚人として嫌われてる話がありまして、最初は『なんて田舎根性まるだしの人達なんだ!』って彼の味方をしているぐらいには理不尽な話だと思っていて半魚人のことを信じていなかったんですよ。」
D子さんが見た半魚人とは?
「仕事のストレスで落ち込んでいた時に波の音を聞きたくてよく散歩してるんですけれど、テトラポット?の辺りにゴミが整頓されてましてそこに人間?なのかダイバーのヒレ?なのか詳しくは分からない足跡があって、見える範囲まで身を乗り出したらその時スマホのカメラで撮った映像にもあるのですが背中にヒレがある二足歩行の灰色の生き物が居たんです。」
よく監督相手とはいえ男子高校生のインタビュアーに答えられるなあと思いつつも二人で確かめた映像には確かに半魚人と呼ばれてもおかしくない本物っぽい生き物の後ろ姿があった。
「フェイクかどうかは置いておいてこのままではあなたの仕業だと疑われる。
だから聞きこみ調査であだ名で呼ばれてる人間の半魚人である貴方に協力を頼みに来ました。」
ホラーだのオカルトだの信じない天馳は歳下が下世話なマスコミになったのかとなげいて警戒していたが彼なりに真相を暴きたいからわざわざ自分のところまで聞き込みに来たのかと落ち着いて話を聞いていた。
「強かなやつだ。
人手不足をおぎなうためにこの場所の協力者が欲しいのと番組的にインタビュアーから出てきた人間の半魚人である俺の正体を映像に入れれば盛り上がる展開にもなる。
またガキの動画遊びだったらぶん殴ろうかと思ったが、本物の半魚人がいるかもしれないとなると薄気味悪いな。」
仕方がない。
ここは歳下の監督を手伝おう。
「あと俺にはギャラはいらない。
この地域と海を守る。
半魚人に敵意があれば映像に収めさせた後に威嚇して追い返す。
敵意がなければ半魚人と共存のために努力をする。」
天馳は疑問やツッコミどころを保留にして監督の協力をすることに決めた。
おそらく誰かのイタズラかもしれない。
しかしこの地には不可思議な都市伝説があるのも事実でできるだけ海と共存するために知りたかったこともあった。
専門家は環境のことなんて考えてくれないからここは胡散臭い番組でも真剣にたった一人でやってきた歳下の心意気を買うことにした天馳だった。
後編へ
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?