背かれた側面〈Immorality〉
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かつて別投稿サイトで掲載していたものをnoteにて再掲載致します。
時代によって許された表現がありましたが可能な限り再現しております。
あらすじ
第六感を持つ南田虚大は第六感の為のコミュニティリーダー・メナスの依頼で歳下の啓発本作者を恋愛トラブルの復讐の為に捕縛しようとした。
元武術家の宰生嗣戝と中学卒業ぶりに出会い、事情を察する。
誰しも原罪を背負う以上、いたちごっこは避けられない現実に対抗する。
―二○二二年現在
同世代がかつて啓発本を書いてヒットした。
恐らく商材を買って違法で設けたのかもしれない。
「表紙のイケメンがターゲットか。」
嗣戝が速読で理解する。
他に再現性のある本なんて幾らでもあるのにと 皮肉を言ったが問題はそこじゃない。
「俺達にとっては同世代の色恋沙汰。
だが依頼は依頼。
」
はいはいと返事をし、業務用携帯でターゲットに電話をかける。
「すみませんお忙しい所。
現在お荷物を渡しに行く所ですがご都合のいい時間はありますか?」
本来荷物を渡す筈だった配達員は眠らせている。
特殊な薬も暴力もなく俺達は眠らせられる。
だからこの汚れ役を担えるのだ。
𐰶今から三日前の事だった
俺の名は南田虚大。
年齢はプライバシーポリシーに反するから暈すが二○二一年に高校を卒業した。
そして家庭の都合で…いや、持病というのか特性というのか、俺は進学も就職も諦めた。
それから同年代の知り合いから頼み事があった。
勿論、俺達は秘密が多い存在。
簡単に言えば第六感の持ち主。
予知夢を見たり、明日誰が死ぬか分かるぐらいの能力だが。
しかし、もう一つ他と突出しているのは
【俺は相手を眠らせる】
能力がある。
「あれ?虚大じゃねーか。」
中学生以来の付き合いだった。
宰生嗣戝。
俺と同じ第六感の持ち主で細くとも強靭な肉体美が自慢だ。
そのこれは彼の第六感ではなく鍛錬の賜物だが。
その脚力は見た目からは想像もつかず、ガラスやコンクリート程度なら簡単に粉々に出来る。
格闘術をかつて習っていてプロ経験もあった。
しかし、怪我が理由で諦めたと風の噂で聞いていたが。
「まさかメナスと繋がりがあったのか。さっすがSNSを使わない人間だな。」
嗣戝も中学時代はアンチコメントが付き纏うからと別の友人に影武者やらせてた筈だが。
だからこそ高校時代はお互いに普通の暮らしに憧れて敢えて距離を取ったというのに。
「速くメナスの所へ行くぞ。
辛気臭い金稼ぎだからな。」
こうしてメナス…高校時代に第六感の持ち主のみが集まっているコミュニティのリーダーからの依頼だ。
いつもなら知り合いには合わせないようにするメナスが何故、嗣戝と俺を組ませたんだ?
それからメナスから依頼を説明された。
メナス。
同世代だと明かしたが顔は日本人ではない。
後から嗣戝から聞いた情報だった。
しかしそれ以外は不明。
「安眠能力のある南田と力のある宰生。
お前達にしか出来ない仕事だ。」
簡単に言えば同じコミュニティである啓発本を買い、その作者とSNSで知り合って誘われやられた…。
その復讐に自分達は呼ばれたのだ。
メナスがコミュニティのリーダーになったのは自分が卒業する二ヶ月前。
前回のリーダーは、自分達のような居場所のない第六感の持ち主と話し合いが出来る空間を作りたくて俺達を読んだはずだ。
しかし、メナスになってから自分達はコミュニティの維持の為に裏仕事を頼まれる様になった。
メナスは元々参加者で、その時はどこの国かどんな能力があるかどうかは聞かずにお互い同世代のとして過ごしていたはずだったが。
高校時代や大学時代は考え方が大きく変わる。
メナスも第六感の持ち主だが一人の脆い人間だったという訳だ。
―現在
今時タワーマンションでお金持ちアピールとは。
一軒家が買える時代がスタンダードなんて明らかに時代遅れだから、これぐらいせこい金持ちアピールは嫌いでは無かった。
「しかし、メナスがいないから言えるが俺達の仲間でこんな奴に恋をする奴がいるとはな。」
女性の心は分からないものだ。
あの顔なら男性ウケもしそうだと俺は何故か思った。
しかし啓発本を読めば歳下だからか大した経験が言えず、精々初体験が関の山の男性啓発者の薄っぺらさには顔が長所に映る。
ターゲットはそれを理解している。
「顔でモテる奴はいいよなあ。
俺は密林でもパートナーを養える筋肉やスキルはあるんだけどな。」
嗣戝は原住民か何かになるつもりだ。
プロで稼いだ資金を貯めていると言っていたが、溜めに溜めた物欲や性欲はこの国以外で満たす余生を考えているのかもしれない。
俺は嗣戝じゃないから良くは分からないが。
「いやあ今回お前と組むのは初めてだが、どうだ?俺の拘束能力は?」
ここまでの警備は薄い訳では無かった。
しかし相手が悪かった。
【クサグモ】
宰生嗣戝の能力は蜘蛛の糸を操る力。
その場に落ちている小さな蜘蛛の糸を集め自分の糸にする。
その糸は僅かな振動を利用して指を利用するロックなら解除できる。
だが網膜認証の場合は流石に厳しい。
そこで俺の出番だ。
俺の能力は安眠能力だ。
正確に言えば
【催眠】
こんなこともあろうかとターゲットの友人関係は調べさせてもらった。
依頼人と知り合いであることを装い(※あながち嘘はついていないが)ターゲットが同居している仲間や友人と親しくなり、催眠させる。
その仲間は同世代で俺に惚れて来た為、簡単に色仕掛けをすることが出来た。
俺はそっちの趣味は無いが演じる事など容易い。
お陰で催眠させて突き止める事が出来た。
嗣戝の糸で既に部屋は散々な事になっている。
足場だけは用意させてもらったから俺達は歩けるが。
「へえ、第六感の人達ってこんな身近にいたのか。」
この状況を楽しんでいる。
非力な啓発野郎では無かったようだ。
それともヤケになっているのか?
「虚勢では無いならお前は狂ってるぜ?
ほら、拳。
そのモテる目つきでハッキリ見えてるだろ?」
嗣戝は殴るつもりはなく自然に拳を突き出す。
この為にいつもタンクトップにしているというのだからよく分からない。
子供のままなのか、演技なのか。
「はっはっは。
随分入念だったからどんな人達が来るかと思ったら所詮は歳上か。
他の人間より金持ちだから、嫉妬してるのか?」
速く仕事を済ませた方が良さそうだ。
俺は奴の額に手を伸ばす。
「俺も君達先輩と同じ第六感の持ち主。
だが能力を持っても君達のような汚れ役すら与えられなかった。
だから炎上商法を利用させてもらったのさ。
パクリでもこれは俺の実力だ。
」
「何が言いたい?」
嗣戝は糸を樹表の蜘蛛が如く広げて怒りを示す。
歳下だからかターゲットは恐れがないようだ。
「多様性ってさ、何で今になって声を大にされてるかあんたらは考えた事あるか?」
揺さぶりか。
「嗣戝、耳を貸すな!こいつも第六感の持ち主だ!」
嗣戝は既にターゲットの意のままだった。
「あの子からの依頼だろ?
まさか糸と催眠能力を持っているとは分からなかったよ。」
嗣戝が殴りかかる。
明確な殺意を持って。
どうやらターゲットも相手を操る能力のようだ。
それさえ分かれば対処は容易い。
「何の対策もしないとでも?」
嗣戝は糸で自分を押さえ付けていた。
「な、何だと?」
ターゲットの周囲は入念に調べている。
メナスは詳細に依頼内容は口走らない。
ヒントは嗣戝の集めていた蜘蛛の糸から得ていた。
ターゲットは自分の口周りに糸が集まらないようにクリーニングしていた。
恐らく侵入者が足場を作ることを想定して。
ターゲットの仲間を催眠させている時に蜘蛛の事を話していた。
どうでもいいヒントには思えずに嗣戝が俺に耳打ちしてくれた。
【蜘蛛をペットにしているから自分の能力はバレている。
ターゲットは第六感の持ち主だ。】
と。
「へえ。結構徹底的なんだな。
なら、俺をどうするつもりだ?
言っておくがこのビジネスは俺が自分で仲間達と培ったキャリアだ。
この程度で俺の能力には辿り着けない。」
メナスめ。
これが目的か。
被害にあった仲間を利用して、隠れている第六感の持ち主を俺達に探させる。
「悪いようにはしない。
嗣戝の洗脳を解け。」
「虚大。もう解けてるよ。
けど、念の為俺は自分を縛っておく。」
ターゲットは笑った。
法律的には成人でもまだ高校は卒業していない。
ついでに現実への理解も甘くはないが経験は無い。
「絆って本当にあるんだな。
俺は金に繋がる関係以外はどうでもいいけどな。」
悲しい奴。
啓発本を見たが家族もこのターゲットを社会に貢献していると思って野放しにしているようだ。
世も末だな。
俺達は口にはしないがそう思っている合図をした。
「例え俺が第六感の能力を持っていなくても、他の時代でも似た事はした可能性はある。
幸せを利用するというのはそういうことだ。」
俺達は返す言葉もなく、ターゲットをメナスに引渡すことにした。
𐰶新たな参加者
メナスはターゲットを暖かく迎えた。
俺と嗣戝を利用し、踏み台にして仲間を売り、仲間を得る姿は許せないが嗣戝が攻撃したい俺を止めてくれた。
「ここで手を出せばメナスの思う壷だ。
反抗したメンバーを追い出して、他の仲間を利用して新たな仲間にする。
そうすれば古参と新参のバランスが取れてコミュニティの維持が可能。
俺達にとってもここが無ければ爪弾きに会う毎日がやってくる。
俺も抑えるから…ここは手を出すなよ。」
流石元ファイター。
俺の方が幼かったようだ。
いや、理屈では分かっていてもこの感覚は。
ターゲットの話術は本物だ。
文章では手を抜いているようだ。
あれだけの目に遭っても自分は助かったと俺達は舐められている。
「メナスの方が上手だ。
あいつの未来はここを利用する限り閉じていくだけだな。
それも…奴の幸せなら俺達は共存できる。」
苦労を重ねたんだな。
メナスが嗣戝と組ませた訳ではなく、嗣戝が上手く頼んだのか。
こんな男に誰も惹かれないのがこの世のつまらない部分だ。
勿論、同性に色仕掛けをする俺は嗣戝をそういう目では見たりしない。
中学時代に俺を助ける強さを手に入れると言っていたが、優しい部分はそのままに枷を解かぬまま生きてきたのかもしれない。
*
やっと依頼から解放された。
ギリギリ犯罪に手を染めずに済んだことだけは幸いだった。
もう二度とあそこには行かないだろう。
それから暫く無言で歩いていた。
業務用携帯は嗣戝が踏み潰した。
「嗣戝。
高校時代、何があったのか。
それから今後どう生きていくのか、俺に話してくれないか?」
嗣戝は黙って頷いた。
俺達も大人に…なったのかもな。
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