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あの日僕はどう感じたか五章:時田竜也の休日

※ 過去掲載作です。
全七章。

過去に投稿サイトへ掲載した作品を再掲載しております。
なるべく掲載当時のままにしておりますが、読みにくい表現やその時代だから許された描写、表現には修正、加筆等をさせて頂いております。
基本的に掲載当時を尊重し、再掲載

お楽しみ頂ければ幸いです。


  夏休み最初って言うのにみんな予定ありかよ。

  なんだってこんな若い内から忙しいんだ。
これだから中学生活って言うのは苦しい。

  ほどほどの高校にいければいい俺にとっては小学生気分が抜けてないと言われてもおかまいなしに遊んでいたい。

  当たり前だ。
この先ずっと働くために何かをし続けるくらいなら、今この一瞬を楽しく過ごすことが俺は大事だと思っている。

  それでも勉強も運動も俺はしてる。
習い事はおざなりだけどな。

竜也たつやにいちゃ〜〜〜ん!!」

  おや、この声は。

「夏休みなんだっけ?竜也にいちゃん暇そうだし、遊びたいからきたよ。」

  杉川隆太すぎかわりゅうた…極真空手やってる時に知り合った俺の家より離れた家のガキだ。

  小学校三年生だがヤンチャな所はまだまだ幼い今時の男子小学生だ。

「ほら、顔を出せ!」

  俺は隆太の頬を掴んだ。

「こう見えて忙しいんだよ俺は。」

  隆太は何か言っているが頬を掴んでいるので聞き取れない。

「ぶぎゅ〜〜〜〜〜わあっ!」

  俺は掴んだ頬を離した。
「もうなんでこんな事するの?暇なのは事実じゃん。」

「わかったよ。ごめんな。でも、お前は何はしたら喜ぶんだよ。」

  せっかくだから隆太と遊ぶことにした。

-----満引みちひき公園-----


  いくら小学生だからって今時公園で遊ぶのも嬉しいものなのだろうかと考えるが安心して欲しい。

  隆太はゲームも家族旅行も楽しめるパワーキッズだ。

  この公園は田舎にしては大きく、噴水まである。

  隆太は噴水で水着を着用し、ジャブジャブ遊んでいる。

「お前本気だな…プールじゃないのに。」

「今時の小学生はストレスも溜まるの。
だからこれくらい遊んだって恥ずかしくないもん。
竜也兄ちゃんも遊ぼうよ。」

  俺、中一なんだけどな。
流石に夏休みだからか親子連れが多い。
知り合いはいないが見られたらどうしようときょどってしまう。

  すると水飛沫みずしぶきが俺にかかる。

「竜也兄ちゃん考えすぎだよ。
頭冷やしてあげた。どう?落ち着いた?」

  やったなあ…このガキ!
俺は隆太に付き合うことにし、タンクトップを脱いで半裸になった。
こんなこともあろうかと濡れていい服装にしていた。

  すると隆太が俺の身体をまじまじと眺めた。

「やっぱり中学生にもなると凄い筋肉だね。
竜也兄ちゃんあれからもトレーニングしてたの?」

「ま、まあな。それよりさっきのお礼!」

  俺は深い水溜りから大きく水を抱えて隆太に飛ばした。

  隆太はずぶ濡れになった。
若干泥も混じっていたから咳き込んでいた。
流石にやりすぎたか。

「隆太大丈夫か?ごめん…」

  バシャァ。
すかさずカウンターをくらってしまった。

「竜也兄ちゃんが適度に意地悪で適度に優しい事は知ってる。
だからもっとくらえ!」

  隆太は水で埋まった地面に拳を突き立てて波を起こし、目眩しを使った。

「お、おい!やりす…がはっ…」

  俺の鳩尾にタックルを喰らわす隆太が見えた時には吐き気に襲われていた。

  隆太って強いんだよなあ。
すっかり忘れてた。
俺はつっぷした。

「四つ上っていっても体格差は頭脳面で上回れるんだよ?わかった?」

  いくら腹筋を鍛えてたって鳩尾まではなかなかカバーはできないぜ。
こいつは小三とはいえ大人気ない。

「お前の将来が不安になるよ。
ほら、さらにお返しだ!」

  俺は足で水溜まりを蹴って飛沫を喰らわす。

「だから竜也兄ちゃん汚いって!」

  お昼も過ぎ、当たりはすっかり夕方だ。
俺と隆太は半裸で地べたに転がっていた。

  遊び終わり、日向ぼっこをしていたらこんな時間になった。

「竜也兄ちゃんも子供だね。」

「中学生なんだからそりゃそうさ。」

「つまらない返事。」

「小坊にはわからねえよ。」

「流石に中学生は小学生の事知っておいてよ。」

  俺達はそんな返しをしてから笑った。

「竜也兄ちゃんってやっぱ筋肉質だね。
急所狙ったのに吐き気だけで済むなんてさ。」

  物騒な会話だ。
でも俺は笑っていた。

「お前も割れてはいるけど胸とか腕とか鍛えないとバランス悪いぞ。
お前も足を鍛えろ足を。」

「俺は蹴ったりしないもん。」

  そうだったな。
隆太もなんだかんだ優しい小学生だった。
って結構マジで遊んだな。
夏休みにしてはあんまり人がいない日という事もあってハメを外したけど誰かに見られてないかな。
あんまりそういうことを気にしない俺でもそこは繊細なんだ。

  けど、今目の前にいる隆太の遊び相手になれるならこれぐらい馬鹿になった方が面白い。
俺は地面から跳ね起きて、隆太に手を差し伸べる。

「行こうか。」

***

  夏は日が長いから助かる。
あんまり遅いとお互いの親が心配するしな。

「ねえ竜也兄ちゃん。友達できた?」

  疲れたからか少しテンションが低い隆太。
話題まで暗くなりそうな事を聞く。

「俺は中学からの友達できたぜ。
最初は勇気いるけど、やっぱり素直になる事が一番だな。隆太、なんでそんなこと聞くんだ?」

  隆太はだいぶ沈んだ声で話してくれた。

「俺、新学期になってあまり友人関係うまくなくて。
友達はいるよ。
でも、クラス別になってさ。
春にあんまり喋れなくて。
それで、気を紛らわせたらと思って竜也兄ちゃんと遊んだんだよ。」

  そっか。
友達の悩みっていつまで経っても付き纏うもんな。
俺は興哉おきや達が同じクラスという奇跡に改めて感謝した。

「話してくれてありがとな。
難しいことや正解は言えないけどさ、最初は無理が必要だけど自然と素直な隆太でいれば友達できると思うぜ。」

  隆太は上目遣いで俺に「ほんとぉ?」と問う。

やっぱ可愛いな。
後輩…になるのかな。
歳下の友達も。
なんか寂しい。
すると隆太と同じくらいの背格好の影が見えた。
その影が俺達に声をかける

「隆太君。やっと声かけられた。」

  よく見ると三人くらいでまとまってる子供達だ。歳は隆太と変わらないか。

「な、なんで俺の名前知ってるの?」

「おいおい。
クラスのメンバーの事も知らないのか?この時期に。」

「竜也兄ちゃんには関係ないよ。」

  冷えてえなあ。
友達ができないのはそういう所じゃないかな。

「隆太君…さっき楽しそうだったね。俺らも混ざりたかったなあ。」

「あんな隆太みたことないし。
頭良くそこの兄ちゃん攻撃してたね。」

  ああこりゃ俺も結構知り合いに見られたわ。もういい。
夏休みだし。

隆太は顔を赤くする。

「隆太君、身体鍛えてたんだね。ねえ、僕にも身体の動かしかた教えてよ。」

  隆太がさっきまでの疲れが嘘みたいな素振りで彼らと話していく。
知らぬ間にその子達と一緒に帰っていった。
俺は一人になった。

「ま、楽しかったし隆太に友人できたっぽいし。いっか。」

  着眼点とかいろいろツッコミ所はあるけどな。
さて、俺はまた祭りのプランを練るとするか。

続く

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