あの日僕はどう感じたか第三章:火照る季節
※ 過去掲載作です。
全七章。
過去に投稿サイトへ掲載した作品を再掲載しております。
なるべく掲載当時のままにしておりますが、読みにくい表現やその時代だから許された描写、表現には修正、加筆等をさせて頂いております。
基本的に掲載当時を尊重し、再掲載
お楽しみ頂ければ幸いです。
七月も中旬。
ついに夏休みに突入した。
先生からはふしだらな生活にならないよう健やかに過ごせとか悪い先輩に流されないようにとかを散々言われた。
「よっしゃあ!お前らやっと夏休みだぜ。悲しみの果てに〜何があるかなんて〜…」
時田君は大袈裟にエレカ〇の『悲しみの果てに』を歌う。
すると先生が時田君を指差す。
「そこ!調子に乗らない。」
てへっと笑って見せる時田君。
誰よりも君が夏休みを楽しみにしていた事を知っていた僕にとっては微笑ましい。
それから放課になってみんなで話していた。
ここ最近話して仲良くなった子達で。
「時田、祭りはまだまだ後なのに凄いテンション高いな。」
少し時田君についていけなさそうなこの子は“真田秀秋“君。
太めの体型でうちわを仰いでいる。
見た目通りの子だ。
「真田君も時田君のテンションに合わせなくていいからね。」
真田君は笑って返す。
「そりゃあ、お前らは部活とか塾とかであんまり実感がないかもしれないけど中学になって初の夏休みだぜ?まだ二年大丈夫なんだからさ。」
そういう問題じゃなくない?と突っ込む女友達、“美郷めい“さん。
「時田君。ちゃんと勉強もしないと高校いけないよ?」
「美郷!お前俺の学力舐めるなよ。
これでもそこらの奴より点数いいんだぞ!」
僕は知っている。
習い事も中途半端だと時田君が嘆いていながら僕より高い点数をテストで取った事を。
あれ以来僕も親に叱られないためにも必死に勉強したけれど。
あの時、少し“身体“について調べすぎた。だって、あの時の筋肉に反応した僕がもしそっち系だったら…その方が怖かったから。
「興哉。
お前どうした?夏休み、部活や塾があるから嬉しくないのか?」
しまった。
話を聞いていなかったかもしれない。ごめんと僕は謝った。
「白風君って最近上の空になること多いよね。
特に夏入ってから。」
真田君がそう指摘する。
「お前らみたいに部活や勉強しまくってりゃ上の空にもなるさ。
高い学力や高い地位をこんな幼い時期に強いられる生活なんだからさ。
世知辛いよな。」
「時田君に真田君も心配してくれてありがとう。別にそこは大丈夫だよ。」
美郷さんは他の人に話しかけていた。
時田君と同じ小学校、潮小からの付き合いの“赤井嶺二“君だ。
「赤井君も祭りには参加するんでしょ?
夏休みはどう過ごすの?」
赤井君は眼鏡をかけたやや細身の子だ。
僕とも話すけど、基本は時田君と話すことが多いかな。
美郷さんは浅瀬小学校、真田君は干潟小学校と別の小学校だけれど馴染むのが早い。
赤井君は美郷さんに返事をする。
「俺はみんなと変わらないよ。
楽しむし、やることはやるかな。」
「嶺二はそっけないな。お前も祭り行くんだろ?」
赤井君は急にドギマギした。
「あ、あぁ祭りな。
でも、俺、参加するともしないとも言ってないからさ。
け、けど大事な用があるしまだなんとも。」
時田君はほぉと言って嫌らしい顔をして、指で“恋人“の形を作った。
赤井君は顔が真っ赤になって反論する。
「ば、バカ!そんなんじゃない!理由なんか別にいいだろ!」
美郷さんはショックを受けた表情をしている。
「美郷、時田の言う事を間に受けるなよ。
こいつって火のない所に煙を立てる悪質なマスメディアみたいな奴だからさ。」
時田君は赤井君の腹を小突く。
「わかった。じゃ、行けそうだったら俺に教えてくれよ。」
赤井君はOKと指で作って返事する。
すると予鈴が鳴り、また授業が始まる。
珍読者
━放課後の図書室にて。
はあ。
やっと図書館も静かになった。
中学になると普段本を読まない人間もやってくる。
この図書委員という仕事も忙しいものだ。
でも、別に楽しいからいいんだけど。
清掃も終わってひと段落。
俺はシューズを脱いで、素足を広げた。
普段ここでは靴下履かないから。
もう俺も受験生。
夏休みは中学生活のラストスパートで勉強に励まないといけないし、高校生になった後の進路まで決めておかないといけない。
これがなかなか難しい。
いろんな本を読んで感銘を受けたがいいが普通の生活送れるならそれもそれでいいかなと俺は考えていた。
そういえば、身体関係の本を借りまくってる下級生がいたな。
見た感じは大人しそうな中学生。
医大でも目指すのかな?いや、この歳でそこまで目指すならこんな所で今更読まないよな。
ほんと。
いろんな奴がいるよな。
俺は素足で部屋の床を歩きながら自分の世界に入っていた。
こうでもしないと落ち着かないし。
しばらくすると誰か図書室に入ってきた。
「もう閉館だよ。」
俺は素っ気なくそう来訪者に伝える。
「い、いや。少し入れて欲しいだけ…だ。」
口の聞き方が悪い下級生だ。
同じ学年、一つ下にはいない子だし。
「いいよ別に。ここでよければ。」
図書室には司書教諭という先生がいるのだが、その方もいないのでちょうどいい。
「君、名前なんていうの?」
その子はぶっきらぼうにふて腐れて椅子に座る。
そして口を開いた。
「輾然優津樹…“てさゆつき“。」
俺は図書カードに彼の名を書く。
「受付は終了してるし君の名前…漢字が珍しくてわからないからひらがなにしておいた。
本当はいけないけどタダで帰ってもらうのも悪いからなんか借りていいよ。」
輾然君は本を読むタイプなのかわからないが一応俺は彼の図書カードを書いた。
初めて来た子だし。
すると彼はささっと棚を見回って一冊の本を手に取った。
「そうか。『だからあなたも生き抜いて』か。
多くは聞かないけどシンパシー感じたならオススメだよ。」
輾然君は俺が貸したペンでサインをしてその本を借りて行った。
すぐ帰ろうとしたがその後俺に訊ねた。
「あんた、名前は?」
「俺?三山兼則。
かなは“みやまかねのり“。
今度は時間通りに借りてくるんだぞ。」
「先輩面すんな…」
おいおい捨て台詞?可愛くないな。
まあ、俺達の世代だし。
とかいって俺は一瞬だけ苛立った気持ちをごまかしていた。
でもすぐに落ち着いた。
変わったお客さんだ。今までの先輩達もこんな経験したのかな。
続く