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アスタリスクの花言葉 感想(ネタバレあり)ー世界の終わり、バーチャルの終わりー

※この記事ではワールド「アスタリスクの花言葉」のネタバレがあります。

いざ謎解きへ

せっかくならと「PROJECT: SUMMER FLARE」をクリアし、まだアスタリスクの花言葉を未踏破のメンバーで予定を合わせて挑戦することにした。

「バカみたいに難しい問題もあるけど、そこで詰まって最後まで行かないのはマジでもったいない」という話をクリアしたフレンドから聞いていたので、ざっくりと以下のようなルールを決めて進むことにした。

1,とりあえずノーヒントで1時間頑張ってみる。
2,1時間頑張って分からなければヒントをもらう。
3,どうしても分からなければギブアップして解答を教えてもらう。

結局の所本当にノーヒントかつ自力で調べてクリアできたのは2部屋目までだけで、後は1時間頑張った後にヒントを貰ったりそもそも30分も経たずにギブアップしたりと必ずしもルール通りには行かなかった。
それでも「あれかな?これかな?」と相談したり同じ映画の特定のシーンを見たりいくつかのワールドを回ってみたり、そんな感じで週末の土曜日の夜と日曜日の夜の足掛け2日かけて最後の彼女の言葉を聞き届けることができた。(本当は土曜日の夜でクリアできればいいななんて思っていたけど、22時から初めて動画プレイヤーのあるの部屋にたどり着いた時点で3時半とかで「少なくともあと1時間半くらいあります」って言われたので「じゃあ続きは明日にしますか」となった。)

クリアした率直な感想としては・・・と書きたい所だが正直言葉が出てこずただただ圧倒されてしまったというのが正直な感想だった。
謎解きを解くために別のワールドに行くくらいはまだいいとしても、映画の特定のシーンを見ないといけないとか特定のインディーゲームを認知してないといけないとか別のVRSNSプラットフォームに行かないといけないとか挙句の果てにはリアル東京の特定の場所に行かないといけないというのはあまりにも理不尽だろう。(最も自分がプレイした時点では公開から2年も経っており、VRChat自体のアップデートに伴って調整されたりご時世的な事情等々で問題自体はかなり調整が入った状態だったのだが。)
そんなとてもとても難しい難易度の謎解きではあるが、最後までクリアした人なら分かる通り「謎の内容なんて本当はどうでもよく、ワールドを作ったのはフレンドと一緒に遊ぶためのきっかけにして欲しかったから。」と彼女は語っていた。
アスタリスクの花言葉というコンテンツのために生まれ、アスタリスクの花言葉のクリアと共に消える存在の彼女の口から語られる言葉としてはあまりにも重い物だろう。

そしてそのまま「今一緒に居るフレンドの顔ぶれがずっと同じことは無く、様々な外的要因によって変わっていくでしょう。」「そしてそれに対し私達がすべきことは互いに互いを縛り付けることはでなく、忘れないことです。」と続ける。
理不尽な難易度の謎解きも全てこの言葉を聞くための物だったと考えると凄く報われた気分だった。
VRChatを始めてから1年と半年ほど、もはや仮想世界でアバターを纏い色んな人と会い話したり遊んだりするのが日常になってしまった自分にはとても重く響いた。
自分は正攻法で全て解いていったわけではないのでせいぜい数時間程度でこの言葉を聞くことができたが、人によっては数日や数ヶ月掛かった後にこの言葉を聞いた人も居るだろう。
その人達が感じた感情は自分が感じたそれの何倍も大きな物だったのではないだろうか。

"彼女"という存在

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前述した通り"彼女"はアスタリスクの花言葉のために生まれ、そしてアスタリスクの花言葉のクリアと共に消えゆく存在である。
TwitterにアカウントはあるしYouTubeにチャンネルもある、だが前者は鍵垢だし後者は限定公開と彼女の名前を知らなければ見つけることはできない。
その名前すらも理不尽な難易度の謎解きを解いていき最後の最後の部屋まで行かなければ知ることができない。

そんな彼女、最初の動画こそ今や星の数ほどいるVtuberと同じような自己紹介動画だったものの、次第に「世界とは何か」「バーチャル存在とは何か」そんな内容を語るようになっていく。
印象に残っている言葉がある、「人間は現実世界で死ぬとそこで終わりですが、私達バーチャルな存在はきっと現実世界の私達よりもずっと早く死ぬでしょう。」「こちらの世界での私たちのいのちは、現実世界の私たちの命よりもずっとずっと重みがないんです。」というもの。
アスタチャンネルとして投稿されている動画の投稿日時は大体2019年の初頭~9月辺り、にじさんじやホロライブ等様々なVtuberのライブ配信が増えていったこの時期に既にこんな言葉を言っていたと思うと感慨深い気分になる。

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部屋と部屋の間の通路に「バーチャルのじゃロリ狐娘Youtuberおじさん」ことねこますさんの耳が飾られている

2021年11月時点でアスタリスクの花言葉のvisit数が約9万、「#01:はじめての花言葉」の再生回数が約3000回でアスタリスクの花言葉に来た人(彼女の存在を知る導線はこのワールドにしか無いので)でさえ彼女の存在を認知することができたのはおおよそ3割程度しか居ないことになる。
多くのVtuberが脚光を浴びていく中でひっそりと活動を開始し、そしてほんの僅かな人にだけ認知されそしてその活動を終えていたのである、なんと儚い存在なのだろうか。

バーチャルな死とは何か

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そもそも「バーチャル」という言葉の指す意味としては「アバター」や「仮想世界」というよりも、いわゆる「Vtuber」を指して使うことのほうが(オタク寄りの)一般人には馴染みが深いだろう。
その場合における"死"が何かと言うと「引退」や「卒業」といった物がそれに当たるのではないだろうか。
もう二度と姿を見ることができない、声を聞くことができないのは悲しいけど例えば両親や友人、恋人が亡くなるレベルかというとそこまでではないという感じ。
自分は割と初期の頃からVtuberの人たちを追いかけていたので、そういう意味でも「バーチャル=Vtuber」という印象が強くあった。

けれどもVRChatをやり始め、アバターを纏い多くのフレンドと仮想世界で生活することが当たり前になると「バーチャル」という言葉は
自分やフレンド、あるいはワールドを指すものに変わった。
VRChatでは単なる音声やビデオ通話とは異なり、実際に同じ空間に体ごと移動しているような感覚になるためすごく距離が近く感じる。
人の形をしていなかったり本当の性別さえ不明なフレンドだって居るけれど、そんな距離感で過ごしているものだからテキストでだけ会話するような人間に比べれば圧倒的に身近に感じるようになった。

その気になれば全ての関連するアカウントを消し、姿を変え声を変えれば完全な別人になることができてしまう(無論リアルの肉体はなんら影響無くだ)。
もし仲の良いフレンドの誰かが何かのきっかけでそうなった場合、別な人格として生きていても自分が知っていたその人はもう居ないわけで、それは「バーチャルな死」になるだろう。彼女もこう言っている「「こっち」で会えなくなったら、それは同じように感じるでしょうか?」と。

今はまだバーチャルな死にリアルな死ほどの情報量は無い。だが、今後我々のようにアバターを使いリアルの自分とは異なる姿となり仮想世界で生活する人々が増えていけばそのアバターの存在価値も高まっていき相対的にバーチャルな死が持つ情報量も増えていくのではないかと思う。

いつか来る世界の終わり

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「アスタリスクの花言葉のいくつかの部屋には「終わり」という隠れたテーマがあります。」と彼女は言っていた。「縁日はあの世とこの世を結ぶ場所、AltSpaceVRは資金難により一度終わった世界。」とも。

この世には無数の世界が存在する。VRChatやClusterのようなVRSNSもそうだし、例えば数あるMMORPGとかソーシャルゲームもそれぞれがひとつの世界と言えるだろう、僕らが行きているこの現実世界だってそうだ。だが、人がいつか必ず死ぬようにそういった世界もまた永遠には存在せずいつか必ず終わる運命にある。
MMORPGやソーシャルゲームであればサービス終了という形かもしれないし、「VRChatで一度公開したワールドを消す」というのも文字通り世界(ワールド)の終わりと言えるだろう。
僕らが今生きているこの現実世界だっていつまでも続く保証は無い、もしこの現実世界が誰かによって作られた装置の上で動いているのだとしたらその誰かが装置の電源を切れば終わりである。

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大事なのは「どうやって終わりに立ち向かうか」ではなく繰り返しにはなるが「終わった世界を忘れないこと」だと考える。
何かの世界が終わったとしてそのことを嘆き悲しむのではなく、「こういう世界があった」「あの世界ではこんなことができた」とそう言い伝えて行くことでそれが回り巡ってまた新たな世界を生み出すきっかけになるのではないだろうか。

埠頭と原点を回ってみた

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8部屋目「世界の原点を探して」、ここにはアスタリスクの花言葉の中で唯一現実世界に存在するオブジェクトが配置されている。
「日本電子基準点」「日本経度基準点」「一等水準点」そして「晴海埠頭のポール」だ。

アスタリスクの花言葉をクリアした次の週辺りにちょうどイベントで集まれそうな機会があり、会場も東京ビッグサイトで晴海埠頭と近く「せっかくなら回ってみない?」とクリアしたメンバーの中で関東圏に住む何人かに声をかけて行ってみることにした。

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ビッグサイトから晴海埠頭はこれくらいの距離、電車と徒歩で30分くらいかなと見込んでいた。

目的のイベントを周り終えいざ晴海埠頭へ、ちなみにこの時点で既に15時を回っていた。
ゆりかもめで東京ビッグサイト駅から市場前まで乗って後は徒歩である。
思いの外距離が遠かったり途中の道が工事中で遠回りしないとだったりで時間がかかってしまい付いたのは16時前だった。
(ろくに調べてなかったので、埠頭に着いてからバスがあることを知った。もし埠頭に行きたいという人が居れば勝どき辺りからバスで行くことをオススメする。)

例のポールの前で一枚。
元々はこのポールのプレートに書いてある製造番号が8部屋目の解答で、この場所に実際に来なければならなかったらしい(地方勢のためにここだけ抜き出したフォトグラワールドが作られたとか)。
しかしコロナ渦になったしまったということもあり、現状はGoogleMap等を使って3つの原点を結んでその先に晴海埠頭があることが分かれば解答は導き出せるようになっている。
つまりこの場所に集まる必要は無い(どのみち行ったのはクリアした後だったけれど)、けれども実際に行ってみて8部屋目と同じ物があることを認識できたりヨツミさんや当時挑戦していた人の何割かもこの場所に来たんだなぁと思いを馳せることができた。
至極当たり前の話ではあるが、VRChatだとそのインスタンスから誰もいなくなればインスタンスは消滅する、しかし現実では全ての空間が地続きなのでそういうことは起きない。
つまりこの場所に来た人たちは時間的には違くても空間的には全く同じ場所に来ているのだ、そう考えるとなんだかエモく感じてしまった。

その後は以下のようなルートで残りの原点を回った。

・晴海埠頭から一等水準点
バスで勝どき駅まで行き、一駅乗って月島駅まで行きそこから徒歩。
・一等水準点から電子基準点
八丁堀駅まで歩き、日比谷線で霞が関駅まで行きそこから徒歩。
・電子基準点から日本経度基準点
霞が関駅まで戻って同じく日比谷線で神谷町駅まで行きそこから徒歩。

さて順調に回れたかと言えばそんなことは全く無く、最初に行った一等水準点は工事か何かで立入禁止のバリケードがあり近くの橋の上から見ても
草が生い茂りすぎて何も見えず、2つ目の電子基準点は設置してあるのが公園の中でその公園の閉園時間に間に合わず入り口の門まで行って終わりという有り様。
最後の日本経度基準点に関してはどうにか見ることができたが、既に日が落ちて真っ暗な中でライトアップも無くスマホのライトで照らしながらようやく見えたという感じだった。

大雑把なルートは調べていたものの、詳細なルートは行きあたりばったりで決めたり現地の状況も調べておらず、おまけに移動のほとんどが徒歩だったので冗談抜きに一生分歩いたのではないかというくらい歩いた、そんな行きあたりばったり弾丸ツアーだった。
けれども「たまには「すべてが便利で快適な」仮想世界から離れて、現実世界で不便さを愉しむのもいいかもしれませんね。」と彼女も言っていたとおり、ポータルを出して移動できないのは不便だしその後3日間ろくに歩けないくらい筋肉痛になったけれど、「VRChatで出会った人達と現実世界で会って、一緒に挑戦した謎解きワールドの聖地巡礼をするという体験」はそれだけ印象に残るものになったかなと思う。

まとめ

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PSFをクリアしてからいつかアスタリスクの花言葉にも挑戦したいと思っていたので、今回満を持して挑戦しそして最後まで見届けることができた。
「バカみたいにムズい謎解きワールド」「リアル東京に行かないと解けない謎があった」といった話は多少聞いてはいたものの、革新的なネタバレは聞いていなかったので当然ながら彼女のような存在が出てくることはつゆも知らず「ストーリーやキャラの出てこない純粋な謎解きワールド」というのが行く前に頂いていた印象だった。

彼女の言葉を最後まで聞きそして噛み締めた後ではその薄っぺらい印象は大きく変わった、「これは単なる謎解きワールドではなく、バーチャルな存在や世界の在り方を「VRChatのワールドという形式を使い、人を生み出して」説くコンテンツだったんだな」と。PSFをクリアし、その後1週間位夏の狂気に取り憑かれてヨツミフレームという人物の人と成りはある程度理解したつもりでいたがここまでベクトルの違う物だったのは完全に想定外だった。

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また、自分の場合VRChat歴自体は短いものの日本のVR業界を黎明期(大体2016年くらい)から追っており、AltspaceVRというVRCより前からあるVRSNSのことを知っていたり、アスタリスクのイトがマッハ新書だったり(詳細な説明は割愛するがマッハ新書は日本のVR業界に深く関わっているGOROmanという人物が作ったムーブメントのひとつ)して、あの時色々やっていたことがこんな所にまで影響を及ぼしていたのかと、それを数年後しに感じタイムカプセルを空けて過去からの手紙を読んだようなそんな気分になった。

「PROJECT: SUMMER FLARE」と「アスタリスクの花言葉」、どちらが好きかと聞かれると個々人によってすごく好みの分かれる所だろう。
アスタリスクのイトのあとがきでヨツミさんがPSFの事を「内容としては「『アスタリスクの花言葉』とは正反対で、かつ『1%の仮想』とも全く異なるもの」になります」と言っていた通りこの2つのワールドはあまりにもコンセプトの違う物で一概に比較できないと自分は思う。
無理やり例えるなら「ハリウッドの大作SF映画と推しVの雑談配信のどっちが見たい?」と聞かれているような物で、その時の気分次第で見たいものは変わるだろうし、そもそもの嗜好としてどっちかは好きだけどもう片方は苦手ということもあるだろう。
ただ、仮想世界でアバターを介して誰かと過ごすのが日常になっている僕らから見た場合「バーチャルな存在」とか「誰かと一緒に時間を過ごす」といった要素を扱っている分アスタリスクの花言葉の方が強く感じる部分があったのかなと思った。


以上-------2021.11.23

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