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Yalla(ヤッラー)


 『Yalla(ヤッラー)』


 おっきすぎ♡、
 ぜったい結婚しゅゆ!、
 かえりたくなーい、
 となりのひと声でかいよーわら、
 ズッコンバッコン!、
 ヤッラー、

「んだこれ、脳が腐るな」俺はテーブルまで戻り、発泡酒の缶を握りつぶしながら飲み干す。ゲップをするのと同時に女の方を見やると、女はこちらに背を向けてベッドに横たわりまだノートを見ている。「目え潰れるぞ」

           ★

 なんか面白えことねえかな、と、歩き回っていたら、道に黒く巨大なサニーレタスが落ちていたので、面白い可能性を期待しつつ近づいてみたら、それ、女だった。サニーレタスでは全然なかったのだけれど、女はサニーレタスに似ることもあるのだ、という知見を得られたわけであり、俺は全然落ち込むことはない可能性があるし、その可能性があるのなら落ち込まなくてもいいのかもと瞬時に判断した俺は女に声をかけたのだった。
「知っているぜ、そのぼわついた容姿。ゴスロリだろ。ゴシックエンロリータ。実は知っているんだ」
「黒い姫ロリ」
 知るかめんどくせえ知るかめんどくせえ。てめえ、てめえにサニーレタスのどの辺りがサニーなのか質問してやろうか? あ? なんでアレがサニーなのかってよ。あ? は? 答えんな。俺がもう調べたから俺が答えるんだけれども答えはなんと日産自動車のサニーからなんだってマジどうかしてると思いませんかなんなんだてめえお前。と思ったりもしたが、俺は大丈夫だった。俺全然大丈夫。凄いんだ。
「可能性だよな。実に可能性ということだよな。黒い姫ロリ、知ったぜ。感謝」
 そんなわけで、完全に意気投合した俺たちは現在、ホテル『モーテル』にラ・タ・タなんだった。

「な。それ面白くねえからもう放っとけよ」
 俺は言って、返事をしない女の背後に寝そべり、女の肩ごしからノートを覗き込む。「ん? ……ふんぬ、ちょ……? なんだそれ」
「しらないの?」やっと女が反応し、横顔がこちらを向く。まつ毛がロールキャベツとまではいかないが凄いローリン。好き、その可能性の高さ、強。
「知らねえ。ふんぬ……ちょい、ちょい?」
「本当に知らないの? じゃあ、やってあげるよ。今度は勃つかもよ。ふんぬちょいちょい以外にも色々書いてあるやつ教えてあげる」
「ほう。可能性というわけだ」にっこり。
 

 一手目 『ふんぬちょいちょい』
 
 おおほほほ、ちょっ、なんだこれいいじゃん、おおおほほほほ。ほ、ほ……くうおおおほほほほ、ちょいちょいの部分が大事なわけだ凄いな。☆みっつあげます。 ☆☆☆

 
 二手目 『ほよほよりんりん』

 うん、ふふふ。いい。いいが、しかしこれは女にやった方が盛り上がりそうですよ。いいんだけどね。 ☆☆
 

 三手目 『ヌーホもんつ・んっぽっぽ』
 
 全然だめ。効かない。眠い。 ☆
 

 四手目 『ちゃみとぅるる・ちゃみとぅるる』
 
 え? おい、ちょっとまてちょっとまて。これアレだろ? これ、なんか普通に、お前、これ俺なんか保健の授業で「女性はこれをされても喜びません」って教わったぞ俺は。教わったですし俺も別にこれをしたい可能性がないからやめやめ、やめよう。な、やめやめ。 ☆
 

 五手目 『ぽんぬふの恋ぺちょ』
 
 ははははははは、これはいいよね。これは、お前、へへへへへへへ……なんだよ、え? なーんだよ、へへへへへへへ。これはいいよ。ね。 ☆☆☆
 

 六手目 『ソゲ、ソゲナ、ソゲナアンタソゲナ、ソゲナ〜』
 
 おい! まてまて! おっ、そげな、そげ、そ、そ、そげなあんたそげな、おおおおおおお……くっ。これはちょっと乱暴がすぎますわ。 ☆

 
 七手目 『ミッちゃん』
 
 エクササイズじゃん。 ☆

 
 八手目 『ヤメナイ』
 
 うっ、うっ、うおおっ、やめないでっ、すごいっ、うっ、絶対やめないでっ、うおっ、うっ、やめないでよ? おお、よしよしよし、よかった絶対やめないでよそのまま、うん、え、おい、おいっ、おいって、やめた? やめてるよな? やめうおおおおおよしよしよし、やめないでやめないでよしよしよしそのままそのままっておいおいおいどこいくってんだよ、あー、あー、まあそうだよな……ごめんな。 ☆☆
 

 九手目 『ひよこの手ざわり』
 
 はっはっは、まあ、これは、はっはっは、これはお前、これは、はっはっ、お前〜。 ☆☆
 

 十手目 『山田マン』
 
 (笑) ☆☆☆

 
 十一手目 『アイアアーイ』
 
 え? あいああーい! ……ああ、まあ元気には、なるけど。 ☆
 

 十二手目 『とろとろボッティツェッリ』
 
 俺これ好きな感じです。こういうのいいよ。落ちつきます。ホッとしちゃう。ね、気持ちいいわあ。あーなんだこれ。あー。 ☆☆☆
 

 十三手目 『後ロヲ見ナイデ』
 
 ん? 見ちゃった。……は? なんだこいつ。
 

 いつの間に侵入してきたのか乳丸出しで、というか顔面がすごくヤギで、下半身を毛布で隠した陰気臭いというか獣臭い奴が、チョリッス〜、みたいなクソ面白くねえクソポーズでクソ佇んでいた。
「なんだお前いつから——」ヤギの額に星型の模様を見つける。「——ダセえな」
 えっ、という表情を見せたヤギはゆっくりポーズを解き、はずかしい、という感じで顔面を両手で覆った。
「ダサさ。トータルでいろいろ踏まえた上でしっかりダサいのでマジで帰ってほしい。その可能性を俺は提示させてもらいます完全に」
 ヤギの丸出された両の乳首がぬぬんと勃つ。
「ぬぬん、じゃなくて」
 ヤギが顔面を手で隠し、両の乳首をぬぬんさせたまま、イヤンイヤンイヤン、という感じで上半身を左右にくねくねさせたり、時折、ビクッ、ビクビクッ、となったり、ハァハァ言ったりしている。
「なんなんだこいつマジで。なあ?」俺は、ヤギではない方の女に向き直り言うと、ヤギではない方の女がいない。
「ィィィイイイヤッラーーーーーー!」
 あ? 首をヤギの方に回す。と、毛布を取ったヤギの下半身に、バッキバキの男性器が隆起しており、それを剣術の構えの如く格好で、両手でガッシと握るヤギ。額の星型が鈍く光を放っている。
「すこしだけかっこいいけど拭いきれぬダサさが、お前——」突如強まりを見せた光で目が眩む。顔面に衝撃。大量の粘液。くせえ!
「これお前『ちゃみとぅるる・ちゃみとぅるる』じゃねのか!? おん前、っざけんなよ……なあ?」
 俺は顔面に付着した粘液を手でかき分け、またヤギではない女の方へ首を回すがやはり女はいないし、俺は首が取れていた。首を回しすぎたことによりねじり切れ、自分の股間の上へ落ちたのだった。直立したままの自分の上半身のその首元から血が大噴射しているのを眺める。視界はすぐに降り注ぐ血で塗り潰される。っだよクソ。まじふざけんじゃねえ、ふざける可能性をこの世に残してんじゃねえってんだよクソがよマジで。あ? あー。あ? あれれ。は? あー、あ? なんだよ、視界じゃん。視界だ。よく見える。なんだよ急によく見えるしあらら。あ? 乳だ。乳があるよ。俺に。結構な美乳があられるよ。なんだ? は? おい、うわ、顔面、毛。え、可能性かよ、え? そんな可能性。うーわー、ツノ。うわー、ツノ。ツノの可能性がこの手触り的にほぼ確定のツノの可能性。マジか。マージか。え? マージ。マー……面白いから、いいのか。可能性だよね。

 俺はベッドの上に開かれたノートの空白ページに大きくひとつ、星型のマークを書き記す。やはりダサい、恥ずかしい、乳首がぬぬん。
 やれやれ。
 俺は浅くため息をつき、チェックアウト時間まで鏡の前でもう少し乳を大きくさせる可能性をすごくアレした。

#古賀コン #古賀コン6 #小説

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