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【SIREN考察】須田恭也が堕辰子を倒した行為は正しかったのか?

※この記事は、2018年8月22日に『NAVERまとめ』に投稿したまとめの移転です。

※ネタバレを多く含みますのでご注意ください



SIREN(サイレン)とは?

プレイステーション2で販売されたホラーゲーム。2003年11月6日発売。

他人の視界を覗き見る「視界ジャック」という能力を駆使し、屍人と呼ばれる敵から逃れつつ戦うステルスアクション。

2006年2月には続編の『SIREN2』、2008年7月には第3作『SIREN:New Translation』が発売されたほか、2006年にはメディアミックスとして、映画化もされています。


神を殺した少年・須田恭也

『SIREN』の主人公・須田恭也。

ネットのオカルト掲示板に書き込まれた情報を元に、軽い気持ちで羽生蛇村を訪れ、異界に巻き込まれます。

その後、村の有力者である神代家の娘・美耶子と出会い、神に花嫁として捧げられる運命にあった彼女と共に、異界からの脱出を目指します。

しかし、美耶子は眞魚教の求導女である八尾比沙子に囚われ、結局神に捧げられました。

この時、美耶子は恭也に自分の血を分け与えており、花嫁としては不完全な状態であったため神に受け入れられませんでした。そして、歴代の神代家の娘同様、肉体は滅びても精神は滅びない状態となり、永遠に異界に留まることになりました。

その後、恭也は夢で美耶子と交わした「すべて消して」という約束を果たすため、常世で堕辰子を倒し、異界の屍人もすべて殺戮していきます。

屍人は生きている人間を見つけると問答無用で襲い掛かってくるため、人間にとっては脅威以外の何ものでもありません。また、生まれながらに神に生贄として捧げられる運命にあった少女を助け、その元凶である堕辰子を倒すというのは、一見すると正しい行為のようにも思えます。

しかし、恭也と美耶子の異界での一連の行為は、本当に正しかったのでしょうか?


そもそも羽生蛇村の呪いとは?

1300年以上前の天武12年(西暦683年)、村に神が降臨します。このとき、村は長い飢饉に見舞われており、村人は飢えに苦しんでいました。空腹に耐えかねた村人は神の身体を食べてしまいます。この行為が神の怒りに触れ、村人は一人の女を残して死に、残った一人は永遠に死ねない呪いを受けました。この生き残った村人が、後の求導女・八尾比沙子です。

現在の羽生蛇村の住人は、外部から来た一部の者を除き、全て比沙子の子孫です。比沙子が受けた不死の呪いは子孫にまで受け継がれており、村人全員死ぬことができません。

しかし、真の意味で不死なのは神の身体を直接食べた比沙子のみです。彼女は神と血肉を分け合ったいわば同体なので、体も心も不死です。これに対し、比沙子の直系の子孫である神代家の娘は、心は不死ですが身体は滅びるという不完全な不死であり、肉体を失っても精神が生き続けるという悲しい運命にあります。これは、神の血肉を食べるという禁忌を犯した比沙子とその娘(直系の子孫)が、神によって常世に来ることを拒まれているからです。

比沙子や神代の娘たちとは異なり、他の村人たちは不死の呪いを受け継ぎながらも常世へと旅立つ(すなわち死ぬことができる)チャンスがあります。

それが、異界で屍人が行っている『海送り・海還り』の儀式です。

異界では6時間おきにサイレンが鳴っており、この音に導かれ、屍人は赤い海に身を沈めます。これは、村人が現世の穢れを祓い常世へと旅立つ準備のための儀式とされています。屍人はこの儀式を繰り返すことでより完全体の屍人へと進化していき、やがて常世へと旅立ちます。

つまり、『海送り・海還り』は、不死の呪いを受け継いだ村人が常世へ旅立つために行う行為であり、異界は、村人が常世へ旅立つ準備をするための場所だと言えるでしょう。

そう考えると、堕辰子が死んでしまったことで、異界は大変な事態になっている可能性が浮上してきます。


堕辰子が死んでも、村の呪いが解けたわけではない

2003年8月5日。八尾比沙子は自分を実として神に捧げ、堕辰子は完全復活します。

これに対し恭也は、不死なる者を永遠に葬り去る神の武器・宇理炎と、聖獣の宝刀・焔薙を使い、堕辰子を葬りました。

堕辰子は神であるため本来は完全な不死ですが、宇理炎と焔薙はそんな堕辰子すら完全に葬ってしまうことができます。1300年前、比沙子たちに食べられた状態とは決定的に異なり、本当の意味で死んでしまったことになります。

しかし、神を葬った後も屍人は存在し、八尾比沙子も死なず、異界もそのまま残っているため、村の呪いが解けたわけではありません。

SIREN公式解析本『SIRENマニアックス』によると、村に呪いをかけたのは堕辰子ではなく堕辰子よりもさらに上位の存在であるらしいです。そのため、堕辰子を葬っても呪いそのものが解けるわけではないのです。

むしろ、八尾比沙子が自分自身を実として捧げることで堕辰子は完全復活したわけですから、もしかしたらそれで呪いは解けていたかもしれません。恭也が堕辰子を倒したことは、村が1300年の呪いから解放されるチャンスを潰してしまった可能性すらあります。

※ただし、八尾比沙子にかけられた呪いは単なる不死ではなく、『許されることの無い罪を永遠に償い続ける』ことが呪いの本質である、と、前述の『SIRENマニアックス』内で言及されており、そもそも誰が何をしようと村が呪いから解放されることは無いのかもしれません。


堕辰子が死んでサイレンが鳴らなくなったため、屍人は海送り・海還りを行えない

異界で鳴っているサイレンは、堕辰子の鳴き声です。屍人は堕辰子の鳴き声に導かれ海送り・海還りの儀式を繰り返しているワケですが、堕辰子が死んでしまったらサイレンは鳴らないため、屍人は儀式を行えません。

もちろん、サイレンが鳴らなくても赤い海に身を沈めることは可能ですが、サイレンの音を聞かないと屍人化が進まず、そもそも死んだ人間も屍人にはならないため(実際、赤い海から最も離れた合石岳では、屍人になることを拒む村人がダムの底に身を沈め、サイレンの音を聞かないようにしていました)、海送り・海還りの儀式は意味を持たなくなってしまいました。

つまり、屍人たちは現世の穢れを祓うことができないため常世へと旅立つことができず、このままでは永遠に異界に留まることになります。


屍人を全滅させることは不可能

屍人を消滅させる手段は海送り海還り以外にもあります。そのひとつが、不死なる者を永遠に消滅させる神の武器・宇理炎です。

宇理炎は堕辰子すら葬り去ることができますから、屍人を完全に消滅させることが可能です。恭也は美耶子と交わした「すべて消す」という約束を果たすため、堕辰子を倒した後、村の屍人を、宇理炎や焔薙などの武器を用い大量に虐殺しています。

しかし、屍人をすべて消すことは可能なのでしょうか?

堕辰子が死んだ2003年8月5日時点で異界に居る屍人を全滅させるのは不可能ではないでしょう。ですが、村の呪いが解けたわけではないですから、その後も現世の羽生蛇村で村人が死ねば、穢れを祓うため異界にやってきます。羽生蛇村の人口は1200人とされており、一部の外部から来た住人を除くほぼ全員が、いつかは異界にやって来ることになります。もちろん、新たに生まれた子供、そのまた子供にも呪いは受け継がれます。

つまり、屍人を全滅させるためには、現世の羽生蛇村の住人全てを宇理炎で焼く必要があるわけです。

道義的に問題がある上に、そもそも恭也は異界から脱出することができません。よって、屍人を全滅させることは、少なくとも恭也には不可能なのです。

※厳密に言うならば、堕辰子が死んでサイレンが鳴らないため、村人は異界に来ても屍人になることはありません。しかし、2003年8月2日夜の石田巡査のように、サイレンの音を聞かなくても体内に赤い水を取り込んだだけで、極めて屍人に近い状態になります。


須田恭也は夜見島へ

このままでは、異界はいずれ屍人でパンクしてしまいます。

この問題を解決するためには、誰かが異界に残って宇理炎を使い、屍人を消滅させ続ける必要があるでしょう。

幸い、神代美耶子の血を取り込んだ恭也は、神代家の娘同様に精神は不死なので、宇理炎を何度も使うことができます。知らなかったこととはいえ、堕辰子を殺し、今回の問題を引き起こした張本人である恭也が責任を持って異界に留まり、屍人たちを宇理炎で消滅させ続けることで、問題は解決しそうです。

しかしながら、恭也は羽生蛇村の異界から離れ、『SIREN2』の舞台である夜見島へ行ってしまいました。

これは、美耶子との約束「すべて消す」を果たすために、次元を超えた世界も含む全ての屍人を倒そうとしてのことだと思われます。


堕辰子を倒したことのメリットもある

堕辰子が死んだことで発生した問題を取り上げてきましたが、メリットも無いワケではありません。

堕辰子が死んだ以上、神に花嫁を捧げる儀式を行う必要は無いため、今後の羽生蛇村では、儀式失敗による災害に襲われることは無くなるでしょう。村で起こった災害や怪現象が全て呪いのせいであるとは言えないかもしれませんが、大半が解決すると思われます。


問題解決の鍵を握るのは竹内と安野……?

恭也は異界の問題を放棄して別世界に行ってしまいましたが、村にはまだ不死の人間が残っています。竹内多聞と安野依子です。

二人とも恭也の血を通じて美耶子の血を体内に取り入れているため、恭也同様宇理炎を何度も使うことができるはずです。宇理炎のひとつは恭也が持って行きましたが、もうひとつは宮田先生が使い、まだダムの底に残っていると思われます。

なので、竹内と安野が異界に留まり、宇理炎を使って屍人を消滅させ続けることで、当面の間、問題は解決すると思われます。

もっとも、竹内も安野も、神代の娘同様精神は不死でも肉体は不死ではないので、いずれは不完全な死が待っています。根本的な解決にはならず、問題を先送りにしているだけかもしれません。


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