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イベント参加レポート: Agile Tech Expo Episode 2 Keynote アジャイルガバナンスとシビックテック

あじゃてく夏の陣

2020年秋に誕生してからというもの、錚々たる顔ぶれを配したカンファレンスとアットホーム雰囲気なコミュニティで存在感を放ちつづけている「Agile Tech Expo」。Episode2と第された今回は「New Normal Agile」シリーズとしては最終回とのこと。その最終回のKeynoteとしてCode for Japanの関さんが登壇されるというのは、実に象徴的だ。

アジャイルガバナンスとシビックテック

「技術の部分に閉じていても社会は変わらない。オープンな技術で社会を変える。」

そう語る関さんが社会に働きかける活動に興味をもったのは東日本大震災。OpenStreetMapに情報が集まっていく様から、改めて技術の可能性を感じたとのこと。一方ではデマの拡散、人と人との分断があった。

「行政/自治体は共創のためのシステムをうまくデザインできていないのでは?」

これが、関さんが現在の活動を始めるに至った原初的な情熱の種だ。

伽藍とバザール

エンジニア界隈では有名な概念、「伽藍とバザール」。変更を受け入れる自律的な小集団、「バザール」。では自治体はどうか?これは、明確に伽藍モデルだ。(良い悪いではなく、今現在そうだよ、ということ)

それぞれの自治体で伽藍が作られる。上記「伽藍とバザール」から課題を引用すると、「変化に弱い」「1つの組織にノウハウが留まる」「利用者側は手を出せない」といったような課題がある。

行政をバザールモデルに

関さん率いるCode for Japanが掲げる問いは「行政をバザールモデルにできないか」というもの。日本がオープンソースコミュニティになっていく。

Code for Japanのビジョンはこちらの言葉に集約されている。

ともに考え、ともにつくる社会

オープンにつながり社会をアップデートする。これは相互に暗黙知を共有しアップデートしていくSECIモデルに似ている。

「こんなやりかたあるよね」

Beyond all borders
Open-source minded
The first penguin, agile flippers

Code for Japanの行動指針。この指針がCode for Japanだけでなく市井に広がっていくと、どれほど大きな変革につながるか想像もつかない。ワクワクする指針だ。

知恵や型を共有するオープンなネットワーク

アイデアソン、ハッカソン、データ収集…こういったオープンな活動が広がっている。そして、この動きはコロナ禍で加速したとのこと。東日本大震災をきっかけに誕生した活動が、その約10年後に起こった災厄であるコロナ禍で加速したという。

なぜ、危機的状況で活動が加速するのだろう。これは「課題」がこれ以上ない形でくっきりと眼前に現れるから、そしてその課題が誰にとっても解決するべきものであるから、なのかもしれない。話を伺いながらそのように感上げた。

東京都のCOVID-19サイトの立ち上げは、その活動の加速と成熟具合が結実した象徴的なものだった。

全都道府県に波及

このサイトは単体でも素晴らしいが、世に放たれたその後にOSSの真価を発揮していく。各都道府県で、次々とgithubからクローンして作成されたサイトが立ち上がっていったのだ。

「OSSへの投資は、社会的な知的資本への蓄積につながる」と関さんは語る。ベンダー以外の開発者がサポートすることもできるし、そういったことの結果として市民の便益が向上していく。税金を投入するという性質を考えると、OSSはフェアネスの観点でも好ましい。

COCOAのオープンプロセス化

様々な問題が取り沙汰されるCOCOA。関さんは、プロセスのオープン化を徹底し信頼を再構築するために奔走している。一時期は荒れていたGitHubも、ポジティブなコントリビューターが増えてきているとのこと。不満を怒りにエスカレーションして非難するのではなく、よりよいものを作るモチベーションに変換することこそがエンジニアの本分だと思うし、そうでありたい。

アジャイルガバナンス

経済産業省が出している「アジャイルガバナンス」。Society5.0、No one left behind な社会をつくりあげるために必要とされているもの。
業界ごとではなく課題解決に着目した、マルチステークホルダーのガバナンスモデル。それがアジャイルガバナンスだ。

環境・リスク分析
ゴール設定
システムデザイン
運用
評価
改善

このサイクルを、マルチステークホルダーで継続的かつ高速に回転させていくモデル。これが本当に回るなら素晴らしいが、いかにマルチステークホルダーを継続的かつ高速に巻き込んでいくのだろう。そこが全体の成否にもかかってきそうだなと感じた。

「ガバナンスのためにインセプションデッキなどが活用できる」なるほど、ここでアジャイルとガバナンスが明確につながった!ガバナンスを継続的かつ高速に回転させる、そのためには開発の現場で継続的かつ高速な開発を実現するためのアジャイルプラクティスが転用できる、ということのようだ。

参加型熟議民主主義

民主主義は選挙だけではない。政治的な意思決定に対して日常的に参加することが重要であるはずだ。デジタル技術を活用することによって多様な市民が参加する、より高い正当性と反省性をもった話し合い(熟議)による民主主義が実現できる可能性がある。

選挙という一方通行な方法論には限界があるのではないか。最近特にそう考えることが多く、けれどもじゃあどうやったら?ということへの答えはなく、悶々としていた。そんな中、関さんのこの話は深く胸に響いた。諦念から選挙へ行かない人が増えている。そういった人たちが選挙に行くことも大切だが、もしかしたら選挙以外のアプローチでの政治参加があるのかもしれない。

Decidim

オンライン・オフラインを融合させた熟議のためのプラットフォーム、Decidim。日本では加古川市が活用を始めているようだ。

企画展「ルール?展」でも様々な情報が得られるようで、11月まで開催しているとのことなので行ってみたい。

自分たちで手綱を握る

濃密な45分のKeynoteだった。OSS活動については存じ上げていたが、政治参加のアプローチについては新鮮な驚きがあったし、こういったやり方があるのか、と胸が熱くなった。まだこの国に失望するのは早い。自分たちで手綱を握り、自ら改善していく、そう生きていきたい。


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