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アップデートし、アップグレードする~"「つながり」の創りかた"を読んで

はじめに

本稿は、2019年6月に出版された"「つながり」の創りかた"に関する感想や解説についてまとめたものである。

キーワード

本書の中心となるキーワード、「リカーリングモデル」。
これはリカーリングレベニュー、「繰り返す収益」によるビジネスモデルを指す。以下、リカーリングモデルという言葉が出てきたらそのことだと思ってほしい。

本書の構造

本書の章立ては以下のようになっている。

第1章 売り切りモデルの停滞
第2章 リカーリングモデルのバリエーション
第3章 リカーリングモデルの利益思考
第4章 つながりを強化する
第5章 つながりを可視化する
第6章 メンバーシップが強いつながりを生む
終章 マネタイズを実現するアセタイズ

なぜ「リカーリングモデル」に注目が集まっているのか(Why)が第1章で語られ、リカーリングモデルが何者で、これをうまく活用すると何が起きるのか(What)が第2, 3章で語られる。そして4章以降ではどのように(How)リカーリングモデルをのりこなしビジネスを発展させてゆくかが実例とともに紹介される。

サブスクリプションへの期待と誤解

右も左もサブスクリプション、という時代だ。Adobeがサブスクリプションモデルに舵を切ってから数年経つが、これは大いなる成功事例の一つだろう。

しかし、同じ「サブスクリプション」という名前でもうまくいくものとうまくいかないものがある。その違いは何故だろう、と疑問に思っていたのだが本書ではその疑問が鮮やかに解き明かされる。

いわゆる「定期券」モデル。インフラストラクチャである鉄道やバスは「利用する」確度、必要性が高い。かつての新聞もそうだろう。こういったものに対しては定期券モデルは有効だ。しかし、飲食など「必要なときに必要なだけ使いたい」ものに対してはどうだろう?これは企業側にとっては早期マネタイズにつながるうまみのあるものだが、顧客からするとそうではない。毎日同じ店で同じものを食べたいか?というとそうではない。拘束力が発生し、かつユーザー側の初期投資がかさむ「定期券」型のモデルが有効に活用できる範囲は実は狭い、ということだ。これには深く納得した。

私は小田急沿線民だ。小田急が試験的に開始した飲食サブスク、ニュースを聞いたときには「ぜひとも利用したい」と考えたのだが、冷静に考えると毎日箱根そばを食べるわけじゃないな、割高だな、と考え結局利用していない。

根っこにあるのはジョブ理論

「顧客はプロダクトそのものがほしいわけではなく、Job to be doneを解決するためにプロダクトを『雇用する』のだ」と主張するジョブ理論。

本書はこの主張を前提としている。売り切り型のビジネスでは「プロダクトをいかに売るか」という視点で考えるが、そうではなくてユーザーの「ジョブ」から考えるべきだいうことだ。

カスタマージャーニーマップでさえ、「プロダクト」目線でありリカーリングモデルと向き合うには不足があるというのは衝撃だった。ただ、これは個人の意見だが、カスタマージャーニーマップの目線を「ジョブ」に向け、ジャーニーを購買以降のタッチポイントにまで拡大することでリカーリングモデルと対峙することは十分可能だと考えている。

「ユーザー」は「メンバー」である

リカーリングモデルでは、企業とユーザー、という線引ではなくもはやユーザーを「メンバー」として捉えてゆく。メンバーシップを形成し「つながり」を深めてゆくのだ。

Amazon、テスラ、Netflixは当然のごとく事例として紹介されるが、そのなかで目を引いたのが東京都町田市の「でんかのヤマグチ」だ。

この事例から学び取れるのは、「コストベースで考えずジョブ解決の視点で考える」ということだ。無料だからこれぐらいでいいでしょ、ではなくあくまで価値提供、ジョブ解決目線で必要なものを提供し、驚きを与える。狩野モデルでいうところの「魅力品質」を提供しつづけることがリカーリングモデルにおいては重要なのかもしれない。

「つながり」はビジネスの必須要件

本書を最後まで読んで感じたことは、もはや「つながり」はビジネスの必須要件であるということだ。

偶然にも本書を読む直前に、「足るを知る」という記事を投稿した。
これは「必要なものを見極め、そこに力点をおいてものづくりしよう」というエンジニア向けの記事である。投稿後に本書を読み、自分の記事に欠けていた視点がいくつも提示されていることに感激した。

サブスクリプションなら大丈夫、売り切りはダメ、というかんたんな話ではない。ユーザー、もといメンバーとの「つながり」をつくりあげ、ジョブに寄り添い、顧客の生活をアップデートする。その営みのなかからプロダクトをアップグレードさせてゆく。それこそが、これからの「ものづくり」の必須要件なのだろう。

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