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バリューストリームマッピング(VSM)を組織に広める3つのポイント

バリューストリームマッピング

リーン生産方式の技法の1つである、バリューストリームマッピング(以下、VSM)。価値が生み出されるまでのプロセスを明らかにし、リードタイムを短縮するためのポイントを捕まえることができるVSMと初めて出会ったのは、MSの牛尾さんがきっかけだった。

VSMは、ものすごくざっくりいうと「関係者が全員で、リリース時点からプロセスを逆算して洗い出し、手戻りや待ちなど無駄が発生している箇所を誰から見てもわかるようにする方法」だ。

LESSON2-4-3_プロセスの贅肉を見つける

いちばんやさしいアジャイル開発の教本」p.51 図表12-4をもとに改変

もう少し詳細にプロセスを書くと、こうだ。

1. 開発サイクルに関係するシステムを確認
2. 開発サイクルの概要を確認
3. 全員でプロセスを書く
4. 手戻り率を書く
5. プロセスのグルーピング
6. 無駄にマークをつけていく
7. 改善案を記載する

詳細な説明は、こちらの説明に詳しいので「VSMよく知らない」という方はぜひこちらをご一読ください。

VSMを組織に広める3つのポイント

このVSMは、関係者全員でプロセスを見つめることで暗黙知が共有され、そのうえで無駄が可視化されるという特性がある。どこを改善するべきかが詳らかになり、また全員が納得感を持って受け入れられるため、プロセス改善を行うにあたっては必須といってもよいくらい効果的なものだ。

しかし、このVSMを実施するのには、それなりのハードルがある。まず関係者全員を集める必要があるし、それなりの時間がかかる。数時間、場合によっては丸一日かかることもある。となると「予定があわない」となったり、「そんな長時間とれないよ」となったりしてしまう。実際に予定をあわせる難しさもさることながら、心理的障壁が大きい。そんなVSMを組織に広めるためのポイントは、以下の3つになる。

なぜVSMをやるのか、組織のコンテクストにあわせて説明する
おもわず試してみたくなるような実例を紹介する
経験者がフォローし、実施の効果を感じられるようサポートする

これら3つのポイントについて解説する前に、そもそもなぜ私がVSMを組織に広めようと思ったのか、またどのような課題に出会ったのか紹介させてもらう。

VSMでリードタイムが1/3にまで短縮という成功体験

新しいチームにジョインし、目指す開発スピードと実際の開発スピードにギャップを感じた私は、VSMを実施することにした。2018年1月5日、金曜日。私の会社は1/5が仕事初めとなっていて、正月休み明けに仕事初めで出勤したらすぐ土日…というタイミング。「ここだ!」と思い、チーム全員を集めて実施した。

そこでわかったのは、期待する開発スピードと現実の開発スピードには2倍ほど開きがあるということ。周囲から師匠扱いされるメンバーへの依存度が高いこと。手動での煩雑なプロセスがあり、手戻りの温床になっていること。

こういった痛みが可視化され、痛みを取り除くための施策「ペインキラー」を発動。コツコツと改善を積み重ねていき、半年後に再度VSMを行った際には、リードタイムはなんと1/3にまで短縮されていた。

これが自分にとって強烈な成功体験となり、以後、組織内でVSM作成を働きかけていくきっかけとなる。

「え、そんなに時間かかるの?」

時が経ち、私は自分自身のチームだけではなく、組織内の様々なチームに対して開発プロセスの支援を行うようになっていった。その多くは「ふりかえり」の支援。しかし、ふりかえりの支援という形で依頼され、詳しく状況を聞いていると、どうもプロセスに課題がありそうだと感じることがしばしばあった。

しかし、VSMの作成を勧めると、最初は興味を持ってもらえても「そんなに時間がかかるものは今はできないなぁ」「マネージャーは参加できないと思うよ」というようなリアクションがほとんど。VSMの威力を身を以て体験していた私は、もどかしさを感じていた。

でも、これは無理もない反応だ。効果があるということを知らない、体験していない状態で数時間単位の業務時間をとられる、と考えたら、拒否反応を示してもしかたがない。

ではどうするのか?ここで、3つのポイントが出番となる。

ポイント1 なぜVSMをやるのか、組織のコンテクストにあわせて説明する

VSMの効果は、プロセスを可視化し改善するべきポイントを詳らかにするという点にある。この説明だけで「いいね、やってみたい」となる組織、人であれば、それでいいだろう。

しかし、「改善ポイントが明らかになりますよ」といわれても響かない場合がある。それは、「自分たちのプロセスに特に問題があるとは思っていない」場合だ。実際、VSM作成をもちかけたときに「やってもいいけど、うちはちゃんとやってるから無駄なんてみつからないと思いますよ」と言われたことは少なからずある。

ではどうするか?「いやいや待ってください!あなたの現場にもありますよ、無駄が!」と押し切るか?

北風と太陽、という寓話はおそらくご存知だろう。この、「あなたの現場はうまくいっていないからこれをやりましょうよ」とアプローチするのは、典型的な北風アプローチだ。これでは、持ちかけられたほうは失礼だと感じたり、プライドを傷つけられたと感じ、頑なになってしまう。

無駄を見つけると、何がうれしいのだろうか。無駄をなくせるからだ。無駄をなくすということは、生産性が向上するなど目に見えた成果につながる。しからば「今よりもっと生産性を上げるため」「プロセスについて理解を深め、より相乗効果を生みやすい環境をつくるため」といったポジティブなメッセージという形で、VSM実施をお勧めすることもできるのだ。そう、太陽作戦だ。

課題が顕在化しているならば、ストレートに課題解消アプローチを。
そうでないなら、よりよい状態を目指すカイゼンアプローチを。

ポイント2 おもわず試してみたくなるような実例を紹介する

手前味噌だが、「リードタイム1/3」というのはインパクトがある。単純計算で3倍早い。シャアだ。こういった「自分たちもやってみたくなるような事例」を、できれば社内でつくる。なぜ社内がいいかというと、カンファレンスや勉強会、そしてブログなどで紹介されている目覚ましい成果は、どこか遠い世界の出来事のようにも思えてしまう。「それはその人たちが特別なんでしょう、自分たちには関係ない」となってしまう。

でも、それが身近なあなたによる成果であれば、「もしかしたら自分たちでもできるかもしれない」という気持ちを喚起することになる。

このポイントの苦しいところは、「真似したくなるような実例を作り上げなければならない」という点だ。しかし、新しいことをはじめ、成果を出し、広めていくときにはいつだってこの問題がつきまとう。

でも、やるんだよ。

最初の事例ができたら、資料にまとめておこう。

ポイント3 経験者がフォローし、実施の効果を感じられるようサポートする

なぜやるかを理解してもらい、うまくいった事例を紹介し「やってみたい!」という気分になってもらったら、今度は全力でフォローしよう。

フォローするのは、何も実施中だけじゃない。関係者全員を集めること、時間を確保すること、そういったところも含めてだ。少々、政治めいた話になってしまうが、「役職的に上の立場の人」にも根回しして参加してもらえるようにしよう。
関係者だから参加するべき、という前提もあるが、「偉い人」が参加することで「全員参加」に例外はない、というメッセージを発することができる。

いざVSMが作成できたら、そこからは実際にカイゼンしていくフェーズになる。VSM作成までではなく、このカイゼンまで伴走することが望ましい。そのほうが成功の確率は高まるし、成功したほうが周囲に「VSMいいよ」と勧めてくれる確率が高くなる。

そして、ここでの成功事例は、自分たちの最初の成功事例をまとめた資料に追加していこう。これを繰り返すと、VSMによる成功事例は分厚くなっていき、信頼度が増していく。また、様々な組織の様々な状況で成功体験が蓄積されることで、組織内に共通する成功パターンも見えてくる。(リリース周りはやっぱり自動化しておくのがよいね、など)

成功したものは組織に広まる

この3つのポイントをおさえながら活動を続け、徐々にVSMを実施するケースが増えていった。以前はこちらから働きかけていたのが、最近では「VSMを作成したいので手伝ってほしい」とお願いされることが増えてきており、組織における課題感の質的変化も感じている。

もちろん、この3つのポイントだけおさえておけば万事うまくいくというものではない。けれども、VSMというものを知ってもらい、興味をもたせ、実際に成功体験を得てもらう、ということが組織に広めていくための大切なポイントであることは間違いない。

まずは自分で成功体験を生み出すことが大前提で、そこは死にものぐるいで実現しなければならない。でも、もともと成功させるつもりでやってるんだから、そのハードルは超えられる。

成功したものは、組織に広まる。

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