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てんコミドラ全巻レビュー(第3巻)

今にも本から飛び出してきそうな迫力あるドラえもんに加え、温かみのあるのび太のほっぺと暖色の背景に癒される表紙の第3巻レビュー。

第1話 あやうし!ライオン仮面

たった2コマの登場でありながら、2コマともフィギュア化(通常版/バーニング版)されているドラえもん屈指の人気サブキャラ「オシシ仮面」や、いつも締め切りに追われている人気漫画家 フニャコフニャ夫先生の登場話。
続きが知りたいからと漫画家の自宅に乗り込む行動力(当時は漫画家の住所などが公開されたらしい。すごい時代だ…)を見せるドラえもんが主役となり、のび太が脇役に回る珍しい回でもある。
タイムパラドックスの手法の一つ「存在の輪」を子供にも楽しめるよう描かれた、SF漫画ドラえもんならではの傑作。

【マイベスト1コマ】
短い足を無理して伸ばし、足を組んで土管に座る偉そうなドラえもん。[ P11_3 ](※ページ数_コマ数)

第2話 日づけ変更カレンダー

日づけを変更すると言うより「周囲の人間に日づけを誤認識させる」思考操作系のひみつ道具か。強力な機能のわりにネジを回すタイプのUIのため、数ヶ月後に設定するのはかなり大変そう。
クリスマスの飾り付けや正月の準備に余念がない玉子や、ローラースケートをやりたがるドラえもんが良い。

【マイベスト1コマ】
ハの字の目でおねだりするのび太。180度ターンで無視する玉子。その様子を無表情で眺めるドラえもん。大変味わい深い冒頭の1コマ。[ P19_1 ]

第3話 ママをとりかえっこ

のび太だけなく居候のドラえもんまで家族と誤認識(?)させてしまう性能の高さがウリ(ドラえもんがついでに自分の写真も入れたのかもだけど)の「家族合わせケース」の話。
3人のママの写真を見ていて思ったけど、しずちゃんはパパ・ママどちらにも似てないな…(アニメ版ではママがしずちゃん似だったはず)
それぞれが自分の親のことを理解する心温まる展開から、女子友達の家に忘れたパンツを女子の母親に届けてもらうという洒落にならないオチへのギャップが面白すぎる。

【マイベスト1コマ】
2組x3セットだから2パターンしか組み合わせが無いのに、わざわざカードをシャッフルするドラえもんの念の入れよう。[ P30_2 ]

第4話 シャーロック・ホームズセット

ドラえもんには度々登場する「ごっこ遊び」用の秘密道具。のび太の迷探偵っぷりが冴え渡る。
冒頭のくだりが伏線になっていたり、関係なさそうな事件がじつは真相解明に繋がっていたり、ちゃんとミステリーになっているのが素晴らしい。
昔読んだ時は「推理ぼうがあれば他の道具いらないじゃん」と思っていたが、改めて読み直すと『手がかりレンズ → レーダーステッキ → ズバリパイプと使って推理を進め、それでも真相が分からない時(もしくは答え合わせ)に使用するのが推理ぼう』と、推理という体験を楽しむためにしっかりと設計された道具であることに気がついた。

【マイベスト1コマ】
ドヤ顔で自らの犯行を認めるのび太。と、その事実に驚愕して目を丸くするドラえもんとしずか(からの、のび太のノリツッコミ)[ P44_7 ]

第5話 スケジュールどけい

共感度が高すぎるのび太のお悩みから始まるドラえもんの災難回。
トイレの時間すら先読みしてスケジュールしないといけない「スケジュールどけい」の融通の効かなさ。勝手にどら焼きを食べ、雨の中野球をするドラえもんを笑うのび太の極悪非道っぷり。逃げてきたドラえもんを匿い、夕食まで提供してくれる骨川家の優しさ。見所が多い。(あと故障したテレビを自慢の手刀で直してくれない玉子)

【マイベスト1コマ】
「おやつがないもん。」のドラえもんのムスッと顔。可愛い。[ P56_5 ]

第6話 うそつ機

数あるウソ系ひみつ道具の中でもネーミングの分かりやすさと、見た目のインパクトから「ウソ800」の次くらいに有名な(気がする)「うそつ機」。言ったことが実現すると言うより、相手に信じ込ませる洗脳系の機能っぽい。
前話「スケジュールどけい」の恨みを晴らすかのような、ドラえもんが語る「のび太が嘘をつけない理由」が酷くて面白い。

【マイベスト1コマ】
まさに今から殴りかかろう感が凄まじいジャイアンの顔。[ P60_5 ]

第7話 スーパーダン

ホームズセットに続く「ごっこ遊び」用の秘密道具。
道具の機能としては同作者の「パーマン」の装備に近いが、あちらは筋力アップと透視能力は「マスクの能力」なのに対し、こちらはマントだけで3つの能力を兼ね揃えている。
コンクリを砕く頑丈さののび太に対し、生身で善戦するジャイアンの戦闘能力の高さは凄まじいの一言。

【マイベスト1コマ】
「格闘しているうちにマントが外れ、いつの間にか猫の首に結ばれる」という「盲亀の浮木」並の奇跡を起こした後、フワフワと飛び立っていくノラ猫。めちゃ可愛い。[ P75_7 ]

第8話 ボーナス1024倍

タイムマシンを利用した(タイムパトロールにバレたら洒落では済まなさそうな)資産運用の話。
定期預金の金額計算でAIを搭載しているはずのドラえもんが「2の10乗=1024」の計算をわざわざ紙とペンを使って計算しているが、これは今後100年間に起きる様々な景気変動を考慮した複雑な計算をしているからだと思われる。
実際、現在の金利では10年後に倍なんて絶対にいかないし。あと数年のうちに超高景気があったり、なんだかんだあって1024倍になるのだ(そう考えると夢があって楽しいし)まぁ、そもそもロボットが紙とペンを使って複雑な計算をしているのが面白いのだが。
あとラストの、一瞬で「古銭の購入」を閃いたのび太の発想力もさすが。

【マイベスト1コマ】
銀行に入る前に挨拶をする律儀すぎるドラえもん。[ P81_1 ]

第9話 ミチビキエンゼル

『精巧に作られたロボットは風邪もひく』さらに『あったかくして寝ていると治る』という衝撃的な事実から始まるお話。
ミキビキエンゼルの造形がとにかく可愛い。前巻の正直太郎もそうだが、どうしてドラえもんに登場する人形系道具はこうも愛らしいのか。
機能としては、前述したスケジュールどけいとは異なり、指示に従わなくてもキツめの罰則は無し、というあくまで「導くだけ」というのが名前通りの優しさで良い。「一人では外せない」という、それを帳消しにする極悪仕様も備えているが。

【マイベスト1コマ】
手を取り合う二人をシルエットだけで描いた1コマ。のび太のことを第一に想うドラえもんと同様に、ドラえもんのために必死になるのび太。言葉では表せない人とロボットの友情が、3巻目にして早くも作られている。[ P96_3 ]

第10話 そっくりクレヨン

わずか5ページながら、のび太の強烈な画力が印象に残る話。
ちなみに、クレヨンの効果かは分からないが、のび太の2度目に描いた絵は明らかに画力が上がっている(立体感のあるポーズや、細かい鎖の描写など)

【マイベスト1コマ】
スネ夫の顔を出鱈目に描き、笑顔と悪意が溢れ出るのび太。[ P101_4 ]

第11話 きせかえカメラ

その使い勝手の良さから短編・大長編ともに登場回数の多い「きせかえカメラ」の話。
分子を再構築してあらゆる衣服を作り出す仕組みを「積み木」に例えるドラえもんの説明が光る。
機能もさることながら「背景透過された衣服をファンダーを越しに相手に合わせる」という、着せ替え紙人形を彷彿させる遊び心ある設計が素晴らしい。

【マイベスト1コマ】
腰を落とし膝を曲げ、しっかりとカメラを固定してプロ顔負けのスタイルでシャッターを切るドラえもん。[ P105_2 ]

第12話 ああ、好き、好き、好き!

矢が刺さった者は、矢を放った者のことが強制的に好きになるという、万人が(たぶん)欲するであろうひみつ道具(そう言えば、最近読んだ「プラチナエンド」という漫画に同じような能力が出てくるな)
『矢で射抜く』という発動条件のハードルの高さはあるものの、動物でもロボットでも見境なく効果がある。また、鼻息でも飛ばしても手で投げても効果があるため「弓」はオマケと思われる。
「ドラえもんの尻尾を引っ張ると透明になる」という初期設定が見れる、貴重な回でもある。あと名前も分からないぼた子の友達が可愛い。

【マイベスト1コマ】
高さ的にそのまま覗いても見えそうだけど、のび太のために四つん這いになる優しいドラえもん。[ P115_5 ]

第13話 ゆめの町、ノビタランド

誰にも邪魔されない子供たちだけの世界を作る話。
それなりのサイズ感で場所を取り、小さくなれるサイズが決まっているガリバートンネルは、一見するとスモールライトの下位互換のように思える。が、実際には「小さくなっていく感じ」を楽しむことができる子供向け道具ではないかと想像。
1ページぶち抜きで描かれたノビタランドの様子が素敵。ドラやきの食べ過ぎを心配するしずちゃんに対し「ただだからね。」で返事をするドラえもんも素敵。

【マイベスト1コマ】
「ポラロイドインスタントミニチュアせいぞうカメラ」となかなかに長い道具名を言いながらカッコよくシャッターを押すドラえもん。[ P127_5 ]

第14話 ソウナルじょう

思いっきり駄洒落な道具名ながら「思ったとおりに、なんでもそうなる」という超強力な性能のチート系道具「ソウナルじょう」。
漫画内の描写ではタバコの箱から真珠が出たり木の枝がサンゴに変化したりしているが、のび太のママは出目金に変化していないので、実際に現実世界をどこまで操作できるのかは不明。

【マイベスト1コマ】
空き地の海に浮かぶドラえもんがめちゃくちゃに可愛い。[ P142_1 ]

第15話 ぼくを、ぼくの先生に

小学校程度の勉強であれば、22世紀の高性能AIを積んだドラえもんに頼めば良さそうなものだが、タイムマシンを使って自己解決しようとするのび太らしい話。
「自分が、自分に教えるんだから〜」と一応は学ぶ姿勢を見せながらタイムマシンに乗り込みつつ、次のコマでは「宿題なんか、みんなやってもらおう。」と学ぶ気ゼロになるところも実にのび太。

【マイベスト1コマ】
漫画のように手を叩き「そうだ!!」と閃くのび太と、その衝撃で漫画のようにひっくり返るドラえもん。[ P149_10 ]

第16話 白ゆりのような女の子

突然漫画が変わった!?かと思えるほどタッチの異なる少女のイラストから始まる、太平洋戦争時ののび助の体験を描いた話。戦時中を描いたドラえもんのエピソードはいくつかあるが、どれも名作である。
『思い出の美少女がじつは息子』という衝撃の真相はもちろん、そこにいたるまでの見事な流れ、ギャグ漫画ながらシビアに描かれるのび助の辛い疎開体験、そして心温まるラストの1コマ…と、感動が詰め込まれた個人的には3巻屈指の名作である。

【マイベスト1コマ】
タッチが異なりすぎる少女とのび助のツーショット。枠線や背景のトーンなど、てんコミ全巻を通してこの話でしか見ない(気がする)技法が使われた、印象的すぎる1コマ。[ P159_1 ]
ぜひ真相のコマ[ P171_4 ]と見比べながら味わって欲しい。

第17話 おはなしバッジ

ドラえもんお馴染みのお伽話をベースにした話。
無理やり感はあるがお伽話になぞらえる展開の力強さと、わずかなページ数で3つも話を入れ込んだテンポの良さは見事。
そしてなんと言っても、ドラえもんだから出来る手段を使うことで、玉手箱を開けたのび太(実際に開けたのはドラえもんだが)を違和感なく一瞬でおじいさんにしてみせたラストは、素晴らしいの一言に尽きる。

【マイベスト1コマ】
宝を期待して舌を出しながら歩くドラえもん。可愛い。[ P177_5 ]

第18話 ペロ!生きかえって

・よりによってペロが亡くなった日にうきうきしてしまったのび太の間の悪さ
・どんな病気にも効く(ただし効かない時もある)という凄まじい性能の薬
・それを『ペロが亡くなる前の時間に戻って飲ませる』という、タイムパトロールにバレたら逮捕されることを覚悟をした上での解決法
・オチのために一晩中、空を飛ばされた警官
…など、見所だらけの第3巻最終話。
あと「第3話 ママをとりかえっこ」で、パパ・ママどちらにも似ていないしずちゃんと書いたけど、普通にママ似でした。謹んでお詫び申し上げます。

【マイベスト1コマ】
ペロが生き返らせられないと知り、落ち込みまくってしずちゃんの家に向かうのび太。影が切ない。[ P185_5 ]

さいごに

金儲け(第3話)、勉強(第15話)、親孝行(第16話)と、様々なタイムマインの使い方が描かれていた。
機能は一つでも、用途は無限にある。そんなテクノロジーの可能性を感じさせてくれる、SF漫画ドラえもんらしい第3巻だった。

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