堀川・さくら夢譚1

御国屋(みくにや)源右衛門にとって、寺社から橋から、町がまるごと名古屋に遷るという清須越は生まれて初めての大勝負の心地がして、やはり戸惑いもあった。代々、塩商を営んできた故郷への愛着も深く、お上からの命だとわかっていても「ひとりでもここに残る」と強気に構えていた。が、ここ一年あまりの間に付き合いの長い商人仲間が次々に越の準備を始め、「いよいよ堀川が開かれた」と聞くやいなや「名古屋ご城下へ、碁盤割の町にいの一番に乗り入れじゃ」と血眼になってくると、源右衛門も黙って見ていられなくなってきた。名古屋では地割、縄張りが進められ、百三十ある寺社が遷るというのだから、まさに天地をひっくり返す騒ぎで、檀家はもちろん、犬、猫、ねずみ一匹までが清須から姿を消さんとする勢いなのである。


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ありがたし この嬉しさを 詠む人ぞ
コピーライター/フリーライター/第2回(2019)「ふう太の杜文学賞」佳作受賞/取材・企画・執筆/現在はシナリオと短編小説を中心に執筆。歌詞の執筆も始めています/まだまだ描かれていない「大人のドラマ」を描きたい。/執筆記事もアップしていきます。