漫画のように眠らせるならケタミン?

相手を不意打ちで眠らせるという漫画でお約束の描写がある。格闘漫画であれば、首にトンと手刀を一撃。ミステリ漫画であれば、犯人がクロロホルム(又はエーテル)を染み込ませたハンカチでターゲットの後ろから口と鼻を覆って、ターゲットは「し、しまっ…た…。」と叫ぶ間もなく意識を失う。
ただ、これらの方法はどちらも現実的ではなく、手刀での方法なら相手を殺すか治らない麻痺状態に陥らせてしまうだろうし、クロロホルムもちょっとむせるかハンカチを押し付けられた部分に薬焼けのあざが出来て終わりである。

この瞬時に相手を眠らせるという漫画の描写に一番近い状態を再現できるであろう麻酔薬がケタミンではないか?という考察を最近、ブルーバックスで読んだ。
ケタミンとは静脈麻酔薬の一種で、他の静脈麻酔薬とは異なり脳代謝を亢進させ、脳血流量も増加させる(脳をある種、活動的な状態にする)作用を持った、解離性麻酔薬と呼ばれる特殊な麻酔薬である。
他の静脈麻酔薬が、眠ったような状態にする麻酔であるのに対し、ケタミンは、脳の一部はバキバキに興奮しているのに意識は無く体がロウで固められたように動かず痛みも感じない状態(カタレプシー様の麻酔状態という)を誘導する。この麻酔は通常、血圧や脈拍が落ちて血流が全身に十分に回っていない状態(ショック状態)の患者を手術・検査する際に使用される。この一風変わった静脈麻酔が漫画のように相手を眠らせる手段として一番妥当な理由として、
1.医師など病院に入れる人間なら比較的簡単に手に入れられる
2.麻酔に必要な薬の量が少ない(1~2㎎/kg)
3.意識消失までの時間が短い(30秒程度)
4.犯行をするのに十分な時間意識を奪える(半減期10~15分)
が、ブルーバックスでは挙げられていたと記憶している。(うろ覚えだけど)

ただ、ケタミンの添付文書を見てみると、静脈注射速度が速い場合、呼吸抑制が生じる(2.5%)と書いてある。通常1分以上かけて注射していくケタミンを漫画のように迅速に相手を眠らせるために使う場合、1分なんてかけて注射をする余裕がないことを考えると、ターゲットの呼吸を止めて殺してしまいかねない。
そもそも、不意打ちで静脈を狙って注射針を刺すこと自体あんまりリアリティがないし、また、ケタミンは麻薬なので病院から持ち出したらすぐに数が足りないとばれるし、そんなものを調達できる人は限られているので犯人が絞られてしまいかねない。これらを加味して考えると、恐らく、ブルーバックスの筆者も苦し紛れで強いてあげるならケタミンかなぁ?くらいのニュアンスで書いたものと考えられる。

参考:

https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00058297.pdf


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