アドレナリンと麻酔 #2

#1ではホルモンの話に文字数を使ってしまい、ノルアドレナリンの説明が「アドレナリンより知名度が無い」くらいしか出来ていなかった気がする。
ので、今回はノルアドレナリンについて厚く書いていこうと思う。

まず、ノルアドレナリンのノル(Nor-)の意味は、元となる化学物質から一つ欠けた(大抵メチル基が欠けている)ものを表す接頭辞であるらしい。
実際、アドレナリンが発見されたのは1901年であり、ノルアドレナリンは1946年に見つけられた。アドレナリンを基本として、その化学構造がちょっと欠けたアドレナリンがノルアドレナリンという名付けられ方である。
ちなみに、腎臓から出るホルモンにレニンというのがあり、これは腎臓を意味するrenal(レナル)から来ており、アドレナリンもrenalの上(ad)の器官である副腎(adrenal)から出るホルモンであるからadrenalinという名付けられ方らしい。(両親が共に高血圧なので、高血圧の治療の話でよく出るレニンの話を加えてしまった。)
話をノルアドレナリンに戻すと、その名の通り、ちょっと欠けたアドレナリンであり、逆に言えば、あと一押しでアドレナリンになる物質(前駆物質)であるともいえる。実際、ノルアドレナリンを材料にアドレナリンが作られるという関係性にある。

アドレナリンの出来損ないみたいな名前がついているノルアドレナリンは大した役割を果たしていなそうな響きがあるが、現在の科学では、脳における役割はノルアドレナリンの方がよく分かっている。
脳の機能におけるノルアドレナリンの関与としては、睡眠-覚醒の状態、注意力(集中力)、感覚の調整、長期的な記憶の形成が知られている。
対する脳内でのアドレナリンの働きとしては、心臓や血管の調整くらいのものしか分かっていない。
分かっていないものが重要でないとは言えないが、薬をつくる際の対象となるのはよく分かっているシステムに対するものなので、麻酔でもノルアドレナリンの睡眠-覚醒状態に関与するシステムに注目したものが開発されている。
デクスメデトミジンという薬がその例の1つで、ノルアドレナリンが作用して人の脳を睡眠状態に傾けるシステムにおいて、ノルアドレナリンの代わりに働くことで、人の麻酔状態を誘導する薬である。
神経をブロックするような麻酔方法ではなく、むしろ、自然な睡眠に近いような麻酔方法であるため、麻酔薬により呼吸が弱くなる状態(呼吸抑制)が少ないのが特徴である。

参考:

https://www.nipro-es-pharma.co.jp/product/di/files/safe/DXMT_safe_038271.pdf


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