【空想仕事調書:CASE2】円陣デザイナー
ーこの仕事を知ったきっかけは?
私は転職組なんですけど、前職が営業職だったので飲み会が多くて、ある日、ふと不思議に思ったんですよ。いつも円陣ができてるなって。
ー円陣は自然に受け入れていた?
当初はね。気にも留めませんでしたよ。そんなもんだろうって。
ーそこから、なぜ気づかれたんでしょう
やっぱりね、何度も飲み会をやってると、ちょっとおかしいなって思い始めて。だって、普通は店の前で円陣を組む必要なんてないじゃないですか。二次会に行く奴、帰る奴、カラオケがしたい奴、とっとと決めて、さっさと移動すればいい。なんなら店の中で決めればいい。なのに、気がついたら円陣の中にいる。これは、誰かが意図的にやってるなと。
ーよく気がつかれましたね
それで、よく観察してると、円陣ができるように巧みに動いてる奴がいたんですよ。いや〜アレは衝撃でした。肩を組んだり、腕を引っ張ったり、立ち位置を調整したりしながら、円を描いている。
ーその人が「紹介者」?
そう。ある日の二次会終わりに、帰り道が一緒になったので、思い切って聞いてみたんです。「円陣、つくってる?」って。
ーストレートですね
そういう営業スタイルでした。まどろっこしいのは嫌で。買うかどうか。ダメなら何を直せばいいか。それで、聞いちゃいました。
ーなんと答えられたんですか?
「よく気づきましたね。興味ありますか?」って。それで、その後、もう一軒行く時間ありますか?って聞かれて、雑居ビルのスナックに連れて行かれて。店のママに「丸いボトル入ってる?」って聞いたら、奥のドアに案内されてさ。あ、これ以上話すとまずいかなあ…。
ー匿名記事なので、身元がバレることはありません
あ、そう、ならいいですけど。それで、責任者みたいな人といろいろ話して、結局やることにしたんですよ。円陣デザイナー。
ー勤めていた会社から転職されたんですね。
と、言っても、円陣デザイナーは副業みたいなもので、今の会社の中で円陣作ってるんですけどね。
ー前の会社では活動できないんですね
担当制だから、ひとつの部署について一人までなんですよ。けっこう厳密でね。部署異動も考えたんだけど、どうせなら別の会社で心機一転始めようかなと。
ーご家族には話されてるんですか?
いちおう秘密ってことになってるんだけど、娘が気づいてるんじゃないかなあ。大学生なんですけどね、飲み会のたびに嬉しそうに報告してくるんですよ。「今日も組んでくるね〜」って。
ー組んでくる?
我々の業界で円陣のデザインを「組む」って言うんですよ。あいつ、どこでそこまで。
ー末恐ろしいですね
ま、やりたいようにやってくれるのが一番ですよ。
ー円陣は歩行者の邪魔だとは思いませんか?
まあ邪魔だとは思うんですけど、こっちも仕事ですからね。そこは繁華街の宿命だと思って避けていただければと思いますよ。さすがに道をふさいでる時は声もかけますし。「人通りま〜す!」って。
ーそれも業務のうちなんですか?
はい。円陣そのものに誰も気づいていないことが理想的なので、なるべく社会問題化しないように、不満を逃がしてやるのが大切ですね。
ー本日は貴重なお話をありがとうございました
こちらこそ。次の飲み会、よく観察してみて下さい。たぶん、いますよ。
ありがとう!Thank You!谢谢!Gracias!Merci!Teşekkürler!Asante!Kiitos!Obrigado!Grazie!Þakka þér fyrir!