【空想仕事調書:CASE4】相槌アクティビスト
ーいつからこのお仕事を?
ええと、スカウトされたのが3年前ですね。気がつくとそんなに経ってました。
ーあっという間だったんですか?
そうですね、楽しくて。インタビューのお仕事はもう長いんですか。
ー私は、そうですね…
うんうん。
ー15年以上は、続けてますかね。
ええっ、すごい。適性がおありになったんですね。
ーいえいえ、まだまだです。
そんなそんな、ご謙遜なさって。
ーところで、この仕事の難しいところをお聞きできますか?
はい。難しいところは、やはり「間」ですかね。
ー「間」。
そうなんですよ。早すぎても、遅すぎても、不自然ですし、声のトーンにも気を配っています。
ーそれって、
はいはい。
ー声の高さや低さということでしょうか
ええ、もちろんそういった抑揚もそうですし、発話のスピード感を相手に揃える、というのも、心地よさに繋がるんです。
ースピードまで?
そうなんです!
…いま少し早めに、かぶり気味に、「そうなんです!」って言ったんですけど、なんか、「聞いてくれてるな、コミュニケーションできてるな」って思いませんか?
ーた、確かに。
人は、話す内容よりも、そのトーンや抑揚や身振り手振り、視線などによって、受ける印象が変わると言います。それは、総合すると、「自分が尊重されているかどうか」「自分の話が相手を楽しませているかどうか」を、内容以外からも感じているということなんです。
ー尊重されているか、だけでなく、相手を楽しませているかどうか、まで思いを馳せてらっしゃるんですね
そう、一流のキャバクラ嬢はみんな笑い上戸です。
ーなるほど
ね?思い当たる節、ありませんか?
ーそう言われてみると、自分の話芸がすごいような気に毎回なってました。
やはりそうですか。私たちは衣装や接待など総合的な技術ではなく、誰にでも真似できる「相槌」に絞ることで、良質なコミュニケーションのきっかけをつくりたいんです。
ーそれで、相槌なんですね。
まさに。意識的にせよ、無意識にせよ、人に心を開いてもらい、楽しい時間を生む第一歩は「相槌」なのです。
ーでも、なんでも肯定してくれて、相槌が多いと嘘くさくなりませんか?
いい質問ですね〜。流石です。少しだけコツがあるんです。
ーコツが?
それは、バリエーションです。今日のインタビューで、何度か相槌を打ちましたが、実は一度も同じ言葉を使ってません。お気づきでしたでしょうか?
ーえ?ぜんぜん気がつかなかった…
でしょ?
…これは少しくだけた言い方でした。でもたまに挟むと効果的です。心の距離がほんの少し縮まります。人は「飽き」に敏感です。同じセリフを何度も聞くと、「手を抜いているのでは?」と思ってしまいます。ですから、なるべく同じ相槌は2回まで、と決めています。
ーそれって大変じゃないですか?
もちろん、そこまで厳密ではありません。ですが、広告の世界にスリーヒット理論というのがあるように、人は3回同じ言葉を聞くと覚えてしまいます。だから、2回までにしよう、と意識しているのです。
ーなるほど、奥が深い。私にはとても真似できません。
いえいえ、慣れると楽しくなりますよ。何よりカンタンに始められます。ぜひ、いろいろな相槌を試してみてください。
ーやってみます。本日はありがとうございました。
…。
ーえ?
(立ち上がって)
本当に、ありがとうございました。
ー今のは?
あえて遅くすることで印象づける、丁寧だなと思わせる、そんな技もあります(笑)
ー参りました。
ありがとう!Thank You!谢谢!Gracias!Merci!Teşekkürler!Asante!Kiitos!Obrigado!Grazie!Þakka þér fyrir!