草刈りマスターズ TRIAL〜草刈師匠に弟子入りしてきた〜
草刈りの師匠に弟子入り
旅づくりワークショップの講師として、今月も高知の土佐山に来ている。旅のコンセプトは「弟子入り」だ。
今回は「草刈りへの弟子入り」である。土佐山アカデミー事務局長・吉冨さん発案の「草刈りマスターズ」を競技化するためのトライアルが今回の旅づくりと重なっている。草刈りマスターズは、ゴルフのマスターズのように、草刈りを競技化し、楽しんで、地域課題とツーリズムをひとつにしてしまおうという試みである。
草刈りというのは、自分の家の庭でやったりするイメージがあるが、ここ土佐山においての草刈りは、地域の共同作業だ。年に2回、6月と10月に、県道沿いの草を集落ごとに分担を決めて一斉に刈っていく。
梅雨から夏に向けて、土佐山の緑は一斉に濃くなっていく。草はガードレールを超え、車に当たるほど生い茂っていく。それらをキレイに刈ることは、自分たちの生活以上に、山を通り道として通過するドライバーに対してのマナーでもある。この美意識が日本の道をキレイに保ってきたとも言える。
本来なら公共の仕事でもあるため、国から補助金が出ている。それもあって、決められた日に、半ば公式行事的に、大々的に草刈りが行われるのだ。土佐山にある14の集落が一斉に草刈りを行う様は壮観である。
ワークショップとして草刈りのお手伝いをし、その経験の気づきから、マスターズイベントの競技化、ルールづくりまでを行う。なにしろ初めての試みなので、いろいろと予想外のことが起こるが、それも込みでのDEEPな体験となった。
刈ってみてわかること
今回の参加者は、前回に引き続き、山梨大学の水研究チーム。顔を合わせるのも3度目で、気の置けない仲間となってきている。教授から大学院生、学生まで、幅広い年代のチームである。
やってみて初めてわかることがある。草刈りはその種の野生の知恵の宝庫である。まだ名前のない道具が、代々使われていたりする。例えば木の先が二股にわかれた「べんりなぼう」。これは刈った草が側溝に溜まったものをかきだし、谷側に捨てる際に重宝する。
ローカルルールもたくさんあり、人によってそのルールも変化する。例えば、草を刈る過程で、美しい紫陽花だろうが容赦なく刈る。かと思えば、残す人もいる。また百合のつぼみについては共通して残す。なぜなら土佐山を代表する花だから。このあたりは明文化されたルールではなく、なんとなくそうなっている。
草刈りの道具にはたくさんの種類があり、カマ、ぼう、ブロワー、草刈機など、段階を踏んでレベルを上げていく楽しみがある。草刈機の中にも、強力なエンジンを背負うタイプもあれば、手持ちタイプもある。刃が回るタイプがあれば、ナイロンのコードのようなものを回転させ、草花を粉砕していくタイプもある。
それぞれにおいて最適なシーンと用途があり、特に打ち合わせることもなく仕事は進んでいく。大まかに刃で刈り、コードで整え、はしっこはカマで仕上げる。刈った草は棒でかき出し、谷側に捨てる。細かな草はブロワーで吹き飛ばす。マニュアルはない。
3チームほどに分かれて県道の草を刈っていき、最後は川沿いの広場に集まる。広場の草を一斉に刈り、仕事はひと段落である。高川の集落について仕事の様子を見学し、時に手伝わせてもらったが、数時間以上かかるたいへんな労働だ。広場でキャンプをしていた学生達は、朝から草刈機の轟音に目を覚まし、苦笑いでいそいそと立ち去っていった。この日しかみんなが揃って草刈りをする日はないので仕方がないのだ。
いのししの丸焼きでBBQ
草刈りが終わると、公民館の前のスペースでBBQが開催される。前日に丸太や竹で骨組みをつくり、ビニールシートを屋根にした即席のテントがつくられている。既存の商品を購入するのではなく、あるものでなんとかする「ブリコラージュ」的な動きが面白い。
草刈りは主に男性陣が担当し、側溝の草の掃除や仕込みが必要な料理は女性が担当する。都市から来ると、そういった性役割があることに少し面食らうが、当人達はその役割を自然に楽しんでいるように見える。
高知らしい大きないなり。大皿に盛ったそうめん。サラダなどを味わう。そして、なんといっても、山で仕留めたいのししの丸焼きだ。Netflixで見た「バーベキュー最強決戦!」を彷彿とさせるような豪快なピット(ドラム缶での自作である)で、ケツから鉄の棒を差し込まれ、モンキーレンチでねじ止めされたいのししがこんがりと焼かれる。
なんと北京ダックのようにナイフで皮からこそげとって食べる。パリパリの皮とジューシーな肉のハーモニーが野生味のある香りとあいまって最高にうまい。間違いなくここでしか食べられないDEEPな味だ。もちろん、地元の集まりとしての料理であり、お金をつけて販売することはできないはずだ。そこにお邪魔させてもらっているという形式のグレーなツーリズム感がたまらない。
市の議員さんが挨拶にやってきていた。このように県道をみんなで整備する自治体はとても珍しく、そのことを誇りに思っている。今後のトンネル整備や土佐山の文化の話と共に乾杯の音頭があり、宴は盛り上がっていく。地元の方々と話すと、元々は独立した農民として自分の田畑を管理してきた住民達が、自分の仕事のやり方に誇りを持って集まっている。ちょっとしたことならなんでもありものでつくってしまう。だから、やり方は譲らないが、何をするかについては寛容に従う。独特な仕事の進め方や自主性の強さの秘密が少しわかった気がした。
マスターズのルール
トライアルとして位置付けられた今回の「草刈りマスターズ」。ほぼ、「お手伝い体験」ではあったが、そこには初体験の楽しさがあった。ワークショップによって、競技性を高めるためのアイデアを出し合う。
各々の体験から、思ったことを話し合う。単純労働的になると音楽がないとつらい。道具を変えていく、身につけていく過程は楽しい。草刈機については事前に講習がないと安全性に不安がある。県道に分かれて作業するため、速さや量を競いあうことが難しい。ゆりを見つけたらポイントにしようと思ったが、1つしか見つけられなかった、などなど。
みんなの意見から、スポーツ的なイベントというより、身につけられる装備やスキルやアイテムをマスターしていくレベル上げ的なイベントの方に可能性を感じた。「ふつうのカマ」「便利な棒」「風神のブロワー」「伝説の草刈機」といったカードを集めていくソシャゲのリアル版のような。
とっくの昔からDAO的なカルチャー
中央集権ではないDAO(分散型自立組織)的な在り方が叫ばれている昨今、ここ土佐山では自然とそれが実践されていた。ナラティブ(対話的)な進め方とも言い換えられる。特に設計図や強権的なリーダーを持たず、それぞれがなんとなく自主性を発揮しながら、話し合いながら、自分なりのやり方で物事を進めていく。
それは、草刈りのみならずテントの設営やBBQについてもしかりなのだ。段取りや根回しをしっかりすることがいい仕事でありプロジェクトマネジメントである、と思い込んでいる都市型の文化とはちがう、野生の思考があるように感じた。
次回は、土佐山で食材をハントし、地元の知識を得て、BBQの材料にするキャンプの旅をつくる予定である。日本の夏は湿度が高く、緑はさらに濃くなっていく。ゆずの実も少しずつ大きくなってきている。