![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/103773739/rectangle_large_type_2_e90416d958024d8b3c890d8157155982.jpeg?width=800)
水源をたどったら妖怪がいた
高知は土佐山に来ている。
先月に続いて「旅づくりワークショップ」のためである。今回は山梨から水質の研究チームや地域資源観光の研究チームが訪れていたので、水を採取するために水源に行く、という大テーマがあった。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/103780060/picture_pc_e3e6def8ffa96da13b6ccd2099e5fa77.png?width=800)
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/103780062/picture_pc_4044feaf667359be50b4174ffcb376b8.png?width=800)
まず訪れたのは、「山姥の滝」。
![](https://assets.st-note.com/img/1682254229181-ArNLA5JTU5.jpg?width=800)
伝説では、滝の右側に山姥がいるという。山姥とは、山の姥、つまり乳母であり、命の象徴でもある。なんとなく包丁もって襲ってくるみたいなイメージがあったのでちょっと意外だった。各地にまつわる伝承や民話は、土地の気候風土と結びついて、地方地方のアレンジが施されていて面白い。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/103780176/picture_pc_9b80b080f849696b3e14af500a6ad637.png?width=800)
滝は、まだ観光化されていない。ちょっと前までは完全に森に隠れた滝であったのだが、今は整備中で、歩道をつくったり、ゆず園をつくったりして、人が訪れられるようにしているのだ。(およそ1年後を目処に公開される予定)
![](https://assets.st-note.com/img/1682254268837-Ij4ifT2rs4.jpg?width=800)
今回は特別に工事中の滝のふもとにまで案内してもらって、水を採取したり、山姥を探したりした。山姥は見つからなかったが、静けさがひとつの価値であることに気づいた。決して大ぶりな滝ではないが、山の空気の中でミスト状の水しぶきに近づいて、神聖な空気に包まれるのはなんとも気持ちのいい体験である。
![](https://assets.st-note.com/img/1682254315422-W1SFviT9rX.jpg?width=800)
滝のすぐ近くに、有名な石がある。その名も「ゴトゴト石」である。押すとゴトゴトと動くのだが、決して下には落ちない。その絶妙なバランスがウケて、落ちない石、として、受験生がお参りに来たりするというものだった。
![](https://assets.st-note.com/img/1682254335511-A7UyKQ7fIl.jpg?width=800)
だった、というのは、最近何者かの悪戯によって、ジャッキで石が動かされてしまい、ゴトゴトしなくなってしまったのだ。ちょっと押してみたけどビクともしなかった。地元の人は怒り、犯人を探すべきだ、そこまでしなくても、など議論が紛糾しているという。誰にでも解放されていたおおらかな観光スポットが、監視カメラ、入場料、ロープなどによって管理されていくとしたら、それは寂しいものである。なんらかの解決法があればよいが。
![](https://assets.st-note.com/img/1682254360151-cXWJmdI3U9.jpg?width=800)
![](https://assets.st-note.com/img/1682254373881-56ZS1zaaDg.jpg?width=800)
さらに山の上の水源を目指して車は登っていく。ある地点より上に行くと、水源を超えてしまうため、生活用水は汲みに行くという。令和の世の中において、水道が通っていない家があることに衝撃を受けた。山小屋の運用にも近い。
![](https://assets.st-note.com/img/1682254399523-BMBYksroOj.jpg?width=800)
都積(つづみ)と呼ばれる源流点には、水を濾過する石と砂があり、貯水しておくコンクリートのタンクがあった。そのフィジカルな水の塊を見ていると、パワースポットのような、なんらかの力を感じるような気がした。
![](https://assets.st-note.com/img/1682254420288-k5lfX0OsZT.jpg?width=800)
![](https://assets.st-note.com/img/1682254448534-YVHs7Ze8Iv.jpg?width=800)
山道の入り口で、蛇が死んでいた。ヤマカガシというらしく、マムシよりも毒が強い。ちょっと気を抜いたら死が隣にある。それもまた山の暮らしである。
![](https://assets.st-note.com/img/1682254475579-ebsz4cmGVI.jpg?width=800)
土佐山アカデミーの事務所に戻り、3カ所で汲んだ水で炊いたごはんや昆布だしを食べ比べ&飲み比べ。いわゆる「利き水」に挑戦した。もちろん、ひとつも分からない。しかし、何かが違うような気がするのは確かである。硬さや柔らかさ、味の伝わり方、何かが違う。こんなに集中して水や米と向き合ったのも久しぶりだった。
![](https://assets.st-note.com/img/1682254549755-uaIwzbWjcK.jpg?width=800)
![](https://assets.st-note.com/img/1682254568190-IZ3MCB3Mqj.jpg?width=800)
体を動かして、道を行き、水を汲んで、持ち帰り、調理する。体験に、物語と学びがある。いいツアーのタネになる気がした。
いっしょに動いたメンバーとワークショップをして、山姥の滝、ゴトゴト石、都積の源流点について、いかに観光ツアーにできるか、アイデアを出し合う。前回やった「ダメだし発想法」をまた試してみた。やはり、ふつうに考えるよりアイデアがドライブする。ふつうに企画するとどこか「建前」のようなものが表面にまとわりつくが、ダメだしには圧倒的に「本音」が入っている。そこをひっくり返すと、感情が通った企画になるのだ。
![](https://assets.st-note.com/img/1682254647062-q5vR2g0sca.jpg?width=800)
地域資源の観光地化において、大切な視点は?と研究チームの方に質問すると、こんな答えが返ってきた。
観光客だけではなく、地元に生活する人たちと、いかに両者がうれしい取り組みにできるか。が大切だというのである。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/103780021/picture_pc_268d9d344b8408e354c38fec8671e761.png?width=800)
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/103780019/picture_pc_df56bdff6f1e7b92033adc202d200e63.png?width=800)
昨今ではオーバーツーリズムという言葉もあるように、観光客が増えたことによってマナーが悪化したり、環境が破壊されたりというリスクもある。サステナブルなツーリズムをつくるためには、地元の人たちとの対話が何より大切である。だから、その場所での関係づくりから始めるべきなのだ。またひとつ学びになった。
![](https://assets.st-note.com/img/1682255211938-RD62PyNHBQ.jpg?width=800)
今回たどった水は鏡川という河川となって高知市に流れ込み、市民の水道となって暮らしを支えている。つまり、山での水源の管理・保安が、高知市民の水インフラを支えているのである。
そのことをほとんどの市民は知らないという。
![](https://assets.st-note.com/img/1682254681170-DLnWjGtytO.jpg?width=800)
水には形がなく、姿が見えない。だから気づかれない。でも、そういうものにこそ、物語が必要だ。それは、例えば山姥のような妖怪の姿で、私たちにメッセージを伝えているのかもしれない。
ぜひこのツアーを完成させて、高知市の小中学校の社会見学にも組み込みたいものだと思った。それに、単純にみんなで利き水したり、その水で何かをつくって食べたり飲んだりするの、楽しそうだし。
![](https://assets.st-note.com/img/1682254619458-1uQeMzZuUc.jpg?width=800)
ありがとう!Thank You!谢谢!Gracias!Merci!Teşekkürler!Asante!Kiitos!Obrigado!Grazie!Þakka þér fyrir!