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新しさを楽しむ才能【2022年ふつうの旅 #25アメリカ vol.2】
観光したり、仕事したり、乗るツアーバスを間違えて、グランドキャニオンの南側のつもりが西側に到着したりする #2022年ふつうの旅
前回のヒューストン、ワシントン、ボストンのトントントンでは、科学と歴史を追いかけた。
NASA、ホワイトハウス、ボストン茶会事件、MIT……この国がいかに自由と民主主義を勝ち取ってきたのか。また、軍事力を背景に、いかに科学を進化させてきたのかを感じた。
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今回は、ニューヨーク、ラスベガス。つまり、エンターテインメントの中心地、カルチャーを感じる旅である。そして、たぶん最後のnoteになる。
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ニューヨークは見どころが多い。
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自由の女神、エンパイアステートビル、タイムズスクエア、セントラルパーク……有名どころは一通り見て回った。
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鳥人間時代の大先輩である後藤さんが仕事の研修で渡米中だったので、ニューヨークに来ていただいて、MoMAやイントレピッド海上航空宇宙博物館、マディソンスクエアガーデンを訪れた。
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その中で、強く感じたことがある。この国は、新しいものを楽しむ才能がすごい。ということだ。
そもそも欧州の既得権益層から逃れ、一攫千金を夢見て移住してきた人たちである。基本的にベンチャー気質というか、新しいものに臆しない。まるで、日本のITベンチャーと、昔ながらのドメスティック企業のような違いがそこにはある。
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イントレピッドは現役を退いた空母を再利用している博物館だが、その中には最新のVRや4D装置が並び、多くの客が体験していた。大きな立方体に乗り込み、ぐるぐると回転している。戦闘機を体感する装置だ。3台もある。ものすごい速さで回転する装置に、楽しそうに乗り込むごくふつうの家族。なんとなく、日本では、あの手の最新装置は簡単に導入されないし、体験する人も少ないような気がする。
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新しいものへの投資と消費が好きである、ということを突き詰めると、世界で最初にそのプロダクトや権益を確保できる、ということでもある。この国が、エンタメやテクノロジーで世界を制覇している理由の一端を垣間見た気がした。もちろん地政学的なアドバンテージをベースとしたドルや英語の有利さがそこにあるとはいえ。
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MoMAでは、現代アートはもちろん、マティスのダンスをはじめ、古くからの名画が、ひとつのビルすべてに展示されている。ゆとりあるスペース、高い天井、明るく現代的な建築物。アートを鑑賞するにあたって、一切の情緒を取り除き、スッキリとした環境に置いている。例えばプラハやウィーンの国立博物館だとこうはいかない。建築そのものがゴテゴテしたクラシカルな様式であり、暗闇の中で鑑賞することになる。このような合理性もまた、新しさを楽しむという才能に裏打ちされているのかもしれない。
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キュレーションの面白さについては、年代を問わず、既存の価値観を塗り替え「よさを再定義した」ものばかりが集められている気がした。モネの部屋では、曲面の壁に沿って横長く睡蓮が展示されており、鑑賞者と作品の距離を再定義しているように感じた。近づくと、筆の跡が雑にも見え、よさが感じられないが、3メートルほど離れた瞬間に、よさが立ち現れる。それまでの芸術との決定的な違いは、この「距離の再定義」なのではないかと感じた。にわかなので、とんでもなく間違ったことを言っているかもしれない。
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ティルマンスの写真の展示では、クリップで停められた写真が、非常ドアにもまたがって展示されており。このラフで親密な距離感もまた、新たな発明に思えた。
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ウォーホルやデュシャンは言うまでもなく、既存の価値観とは違うものを「これをアートと考えたらおもしろいでしょ?」と問いかけてくる。
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つくづく、表現物というのは、時代と企画と表現の組み合わせであり、そのどれもが欠けないものだと実感した。特に企画を仕事にしている自分としては、時代と表現に接しながら、境界をぶん回す仕事がしたいものだと思いを新たにする。
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新しさや、楽しむことに臆しない人々は、スモールトークも上手である。都市伝説かと思っていた「その服いいな、どこで買ったの?」をニューヨークの地下鉄で、ヒップホップっぽい格好の若者に聞かれた時は、嘘だろ?と思ってうれしくなった。TOKYOで買ったんだよ。というとオーケーと言われる。何がやねん。
地下鉄でフリーラップを披露するおじさん。かと思ったら、何かに怒っているだけだった。大阪の通天閣周辺にいるおっさんと同じだ。FxxKとSxxTくらいわかるよバカヤロー。
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マディソンスクエアガーデンでは、NHLを鑑賞した。アイスホッケーのルールはよくわかっていないが、サッカー同様に1点がかなり重いものであった。ニューヨークレンジャーズというホームのチームとシカゴブラックホークスの試合。見どころは野球のような「乱闘」である。1試合に2〜3回あるが、もちろん本気ではない。あの「棒」やスケート靴という凶器を使わず、あくまで拳でメットを殴るのだ。
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試合の前には起立して、歌手による国歌斉唱である。日本における始球式のようなものだろうか。これはけっこうグッとくる。ウッドストックのジミヘンを連想した。そしてセレブリティの紹介。「ストレンジャーシングス」のジム・ホッパーおじちゃんが来ていて興奮した。
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何より驚いたのは「1秒も飽きさせない」究極のエンタメプロデュースである。そもそも試合会場には生のDJとオルガン演奏家が控えており、プレーが止まったり動いた瞬間に音楽をかける。ファールがあり、次の動きまでの10〜20秒で、Kiss Cam(観客席のカップルが映し出されキスをするという、日本では150%ありえないもの)や抽選やTシャツをバズーカで客席に投げたり、カラオケしたり、というミニコンテンツが100個くらい用意してある。
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それはまるでTikTok。細切れのエンタメを矢継ぎ早にお見舞いされ続けるのだ。悪く言うとパチンコやソシャゲのガチャのように刺激され続ける。「間」というものがない。だから、観客も、少しでも音楽が変わった瞬間にささっとトイレに行く。
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これをトータルでプロデュースし、スイッチングするショーランナーがこの会場のどこかにいるのだ。
楽しませる意欲と楽しむ才能がありすぎる。
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新しいものを取り入れるというのは、一種の合理性が必要だ。逆に言うと、今までの慣習を捨てる「情緒のなさ」も必要であり、日本人特有の「空気を読む」「行間を感じる」「周りの目を気にする」あたりは著しく欠如していくことになる。自分にとっては心地よかったが。
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情緒のなさ、という観点でびっくりしたのは、教会である。ヨーロッパからイスラム圏まで、宗教施設というのはある種の荘厳さ、静謐さを備えており、神的な何か、人智を超えた特別な存在を感じさせるべく、アートディレクション、サウンドプロデュース、ランドスケープデザインがされているものだ。
ところが、アメリカの教会のドアにはでかいQRコードがあり、サブスクでメンバーシップを募集している。床には大きくWELCOMEと書いてあり、サイネージが今日の神父と演奏をコマーシャルしている。合理的すぎる。新しいものを受け入れすぎている。笑った。
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ユニオンスクエアチャーチでは無料でゴスペルが聴ける、と聞き、朝に向かった。そこではバンド形式で演奏が繰り広げられ、歌詞が背面の巨大画面に表示される。歌詞と曲調がずっといっしょである。神を讃えよ。
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911メモリアルミュージアムには、沖縄や広島や、はたまたベルリンのホロコースト資料館のような荘厳な「鎮魂」を予想して訪れた。しかし、この国のプラグマティズムはそれだけでは終わらない。当時の写真、映像、構造、防犯カメラ、飛行経路、すべてを公開し、分析し、その膨大な資料を、データを、じっくりと確認することができた。情緒的なスペースももちろんあったが、それよりも、再犯を防ぐための合理的な執念を強く感じた。空港でのチェックがやたら厳しく、長く並ぶことになるのがこの国でのあるあるなのだが、それに文句を言えなくなる納得感があった。
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では、この街には情緒はないのか。そんなことはない。冬のニューヨークは特別だ。
高層ビルは空に白い息を吐いている。道から白い煙が立ち上っている。地下鉄が暖めた空気が排気口から地上に顔を出す。一気に冷やされた空気は白く染まる。冬の合図だ。
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12月になると街は完全にクリスマスムード一色。マーケットはいつもより豪華な料理が満ち溢れ、街を歩く人はモミの木を小脇に抱えている。そこらじゅうにツリーが立ち並び、クリスマスソングが街を染める。ロックフェラーセンターのスケート場で遊ぶ子どもたちと大きなツリーがホームアローン2を思い起こさせる。
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移動して西へ。
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ラスベガスは、お台場、ドバイ、マカオのような、人工物の夢。もともとは砂漠なのだから当然なのだが、より情緒は失われていく。客室にいくまでにカジノがあり、バーとスナックとカジノがあり、各ホテル内にシルクドソレイユのホールがありカジノがある。お金を回し続ける、エンタメの都。その空虚さに、ノスタルジーさえ感じる。
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カジノでは300ドルだけ勝って、すぐに退散。己の器の大きさ(小ささ)は、日本円にして約4万円であることがわかった。
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そして、なんとグランドキャニオンを見ても、あまり感動しない身体になってしまった。カザフスタンやノルウェーの方がよかったな〜などと思ったり。これもまた、世界一周によって失われた情緒なのかもしれません。
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じゃ、そろそろ帰ります。
いまいちばんしたいことはざるそばを食べること。
そして、なんと、仕事したくなってます。
そんな気持ちになるとは。
NEXT COUNTRY ▶︎ JAPAN
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