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偏差値57の恋
(これはロマンチックな話でもなくて、ただできごとを記すだけのnote。)
S氏との出会いは大学時代。
たまたま講義で席が隣になって、話しやすい近所のおばちゃんみたいな人だなあと思った。
S氏はネットスラングを多用する傾向にあり、お得意のスラングでいつも仲良しの友達と教授いじりに勤しんでいた。
そこで「なんて秀逸な言葉を選ぶ人なのだろう!」と感銘を受けた。
多分刺さらない人にはどこまでも刺さらないが、私は毎回笑わずにはいられなかった。
もちろんそれだけが理由ではないが、それから私は徐々にS氏を意識するようになる。
しかし大学は広い。
広く浅いつきあい。
名前も顔も覚えられないような若者がわんさかいる。
サークルに属しているとか、同じゼミであるとか
そういった共通点がないか、無理やり作らなければ特に接点がない人とはずっと接点がないままなのである。
週に1度の楽しみが、月曜の某授業。
このときだけは、何かにかこつけて席を近くにしやすかった。
それから1年ほどずっと、友人の友人の友人くらいが開く飲み会とかでたまに一緒になる程度で
共通の話題もなく
会ったら世間話をする程度の関係性を続けていた。
自分でデートに誘う勇気もなく
偶然何かがうまくいって
誰か共通の友人が誘ってくれて
一緒に出かけられる日を夢見ていた。
それでも勝手に気持ちは膨らんでいって
これならもう、一回気持ちを伝えたほうが楽ではないかと思って
ただ自分が楽になりたかったから
(そして0.001%の確率でもしかしたら興味を持ってくれるのではないかという期待を込めて)
なんの変哲もない水曜日の講義終わりに告白をした。
色々あってこちらの好意には気づいていたらしかったS氏だが
非常に残念ながら私と仲を深める気はなかったようで
「好きな人がいるから」「僕よりももっとふさわしい人がいると思うよ」と本当か嘘かわからない、当たり障りのない感じで振られた。
いつものらりくらりとしているS氏らしい、何を考えているのか、本音が見えないような、愛想だけは接客業レベルにいい回答だった。
それでもS氏以外の人を好きになることもないまま
たまにキャンパスを歩く、なぜかいつも蛍光色のトップスばかり着て夜間でも見つけられるS氏を
100メートル先から見つめたり
原付が横を通過すると、S氏ではないかと心臓が跳ねたり
最寄りだと聞いていた、聞き慣れぬ名前の街を車で通るたびに
S氏の特徴的な笑い声が頭に響くなどして
4年はあっという間に過ぎた。
せめて最後に一緒に写真でも撮ってこの想いは永遠にいい思い出に昇華しようと思っていたら
誰も想像していないようなまさかの理由で卒業式がなくなり
「さようなら」も「元気でね」も言う機会すらもらえず
SNSもROM専でろくに更新しないS氏の卒業後の動向を知ることもできないまま
そのままこの恋は終わった。
これはS氏にとってはすごく気持ちの悪い話だから小声でいうが
それからというものS氏とは3ヶ月に1度の頻度で
何年も何年も夢の中で会うようになった。
夢の中でも我々はほどよい距離感を保ちつづけ
つきあったりしているわけでもなく
あいかわらずS氏はのらりくらりと笑っている。
現実のS氏はこの超情報化社会を持ってしても消息がわからず
生きているのか、どこに住んでいるのか、結婚したのか
詳しいことが一切不明。
S氏らしい。
もしかしたら私がみているのはS氏ほんの一部で
たとえば仲のいい地元の友達からしたら まったく違うみえ方をしているのかもしれないが。
それすらもうわからない。
いつか私の夢からも出ていってくれる日は来るんだろうか
朝目覚めるたびに そう思うのである。
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