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ロバに囲まれて昼下がり

 学生の頃同学年の強めのギャル集団に取り囲まれて不愉快な思いをしたことがあるが、今日はロバに取り囲まれてたじろいだ。
 私の幼稚園児時代の将来の夢は”馬になる”だったが、それは叶わず馬を飼うこともこれまでのところなかった。そんな馬への思いが高じて馬牧場ボランティアをして早2年が経った。大学の講義:育種論で学んだが馬の種類は豊富だ。牧場にはサラブレットよりはるかに大きく、クライスデールよりは小さいという見上げるほど大きな馬もいる。基本的にシェルターの役割を担う牧場なので虐待やネグレクトに合って一般人からの通報で警察を介して引き取られてきた馬たちがいる。人間が苦手でいくら私が人参を目の前にかかげても一切近寄ってくれない子もいる。とはいえ大体の馬たちが人参の魅力には抗えない。数分も待てば確実に近寄ってきて一本、また一本くださいというスタンスだ。ちなみに人参はスーパーで買って持参してもよいし、牧場の冷蔵庫にたくさんストックもある。それを取り出して管理小屋の調理台で適度な大きさに切っていく。備え付けのバケツを人参で満杯にして、馬たちが過ごしているパドックというより草原に歩いていく。馬それぞれに持病やチェックすべき特徴があるため、あまり手がかからない個体ほど管理小屋から遠くのパドックで暮らしている。遠くに行けばいくほど見えなくなるまで走れる草原がテリトリーとして区切られていて、馬だけに馬の合う個体が数頭一緒に暮らしている。パドックのある草原はなだらかではなく、息が上がって途中でとまりたくなるような急な斜面の丘に作られている。それらをすべて歩いて回り、だいたいの馬に話しかけて(これも馬を人間に慣らすためのボランティアの役割)人参をあげていくとおおよそ2時間かかる。とはいえ私の場合はいつも接しやすいロバたちのパドックに長く居座るので2時間もかかる。彼らの体躯は馬より小さいが食欲は馬よりはるかに強い。いくらでも食べられるので下さい、といわんばかりにいつもおかわりの要求がある。今日は鼻もならさず機嫌がよさそうだったのでパドックの柵のなかに立ち入ってブラッシングもした。正直なところ緊張する。後ろ脚で蹴られたらただではすまない。ボランティア講習で教わったとおりにそろりそろりとロバたちの視界に入ったまま移動する。決しておしり付近でUターンしない。する場合はおしりに手を置いて「後ろから回り込みますよ~」と何語でもいいので声を発して自分がそこにいることをやんわり伝える。櫛が体毛にからまっていたた・・・となると彼らも嫌がるので、慎重にからまらなさそうな箇所を探してブラッシングをしていく。部位によって櫛も使いわける。ロバたちには十分に人参を与えたのちにパドックに入ったが「足りひんわ」という感じで迫ってくる。じりじり近づいていくる。ついに私の脇腹をつまもうとする。私はちょっと焦って「そんな焦らんでも~」と謎の声かけをする。だしぬけに今まで一度も撫でさせてくれなかったロバの額を撫でてみる。なんと2年目にして応じてくれた!ちなみに馬もロバも撫でるときにはまず斜め45度の位置に立って手をあげる。自分がそこにいることを視認してもらってから、手を近づける。動かなければ撫でてOKのサイン。馬たちはよく人間の挙動を観察しているので、馬に慣れていない自信のない若輩者(私)と慣れた人を一瞬で判断する。実家で馬を数頭飼育していた知人とイベントで馬を触ったとき、彼女だけ触らせてもらえたことに私はショックを受けると同時に馬への思いを新たにした。絶対に私より賢い。
 そんなこんなで3年前には思いもよらない経験をしているに日常を嚙み締めた。

馬ボランティアで得た情報 おぼえがき
・たまにリンゴも持って行くが人参のほうがはるかに人気がある
・馬が2頭以上同じ柵のなかにいると必ず序列ができる、ボスが下っ端を蹴散らして人参を多くゲットすることになる
 序列が下位の馬がかわいそうに思えるが野生下では明確に従うべきボスがいることで肉食動物に襲われたときなど、群れがまとまって逃げられるというメリットがあるらしい
・個体によっては変わった癖がある:柵をちゅーと吸う、柵をかじる、尾で仲間をたたく、気に入らないと鼻を鳴らす/鼻水をとばす/地面や柵を蹄で蹴りつける
・馬の種類のなかポニーがおそらく一番気性が荒い、牧場では3頭中2頭が常におこりんぼ状態である


昨年から導入された期間限定パートタイマーの除草隊
飼い主から借りてきて2か月ほどの間に牧場の下草刈りをお願いしているそうだ
ちなみにこの期間は特別な柵を取り付けてそのなかで完全に放し飼い