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SEOと幕の内弁当と刷毛じょうゆの海苔弁

 ここ数年、やたらと長く、網羅していることだけが売りの印象に残らない記事を目にする機会が増えた。SEO専門家の話を聞くと、検索結果の上位を狙いたい検索語句を調べ、派生した掛け合わせ語句を調べ、検索されるボリュームが大きい検索結果の上位に入っている記事やYahoo知恵袋などを調査し、ユーザーが知りたい内容を網羅的に羅列し、それを記事化することで、その検索語句周辺で調べているユーザーのニーズに凡そ応えた記事にすると、Googleは網羅性があると評価し、検索結果の上位になる確率が高まるそうだ。

 はたしてそれは本当か?

 Googleが提供している「検索エンジン最適化(SEO)スターターガイド」という資料がある。その資料の「コンテンツを最適化する」という章には「他のサイトが提供していない、新しい便利なサービスを創造することを検討しましょう。」とある。
「他のサイトが提供していない」と「新しい便利なサービス」を、先のSEO専門家の解釈として翻訳すると、「他のサイトが提供していないユーザーが知りたいあらゆる検索意図を網羅したまとめ記事を作ることが新しい便利なサービス」、ということになるのだろうか。

 あの人が知りたいこと、この人が知りたいこと、あらゆる人が知りたいことを網羅して1つの記事にまとめれば、横断的ではあるが上辺の部分をいいとこ取りをした、どこか焦点のぼやけた、特徴のない記事になることは容易に想像がつく。

 SEOではそのロジックが仮に正解であるとしても、マーケティングの世界で同じことをしたら、二番煎じで印象に残らず、人の心を動かすことなく買われない商品、サービスになること請け合いだ。

 網羅性とは、あれもこれものニーズに応えることではない。
知りたい、探したいある1人に向けて、どうしたら興味をもってもらえるのか、どうしら信用してもらえるのか、どうしたら読んでよかったと思ってもらえるのか、どうしたらまた読んでもらえるのか、その人から満足や共感をいただくまでの一連の心の変化を網羅することだ。

 美味しい惣菜をいいとこ取りした幕の内弁当は、一時的には空腹を満たせるかもしれないが印象には残らない。何度も食べたいと思うのは、刷毛じょうゆの海苔弁のように、海苔や鮭に徹底的にこだわったシャープな弁当だ。

 SEOの順位に踊らされるなという言葉をよく耳にするが、ある一人の心を網羅した記事のほうが、案外、地に足がつき踊らされずに済むかもしれない。

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