女神様たちにスパチャされたので異世界からバトロワ配信します。その2

 配信者あるあるその1。全員が全員、神プレイをするわけではない。クソオブクソみたいな、ド下手プレイヤーはザラだ。動画投稿とかなら、上手くいったプレイの時だけのシーンを抜き取って、上手く編集して俺うめーみたいな、映えるような見せ方はできなくもない。

『ふえーん、やられちゃったよー! でも大丈夫!このバールは【keepbox】に登録してるから、落とさないで手元に残るから安心だね』

『が、がんばるのです、ぐむゅちゃん! リスナーが応援してますよ』

 配信者あるあるその2。配信者はコメントをちょくちょく見ているが、精神衛生上、良コメだけに目が行きがちでアンチコメは極力見ないよう、セルフフィルターがかかる(時と場合による)。少しでも自分に賛同してくれるリスナーがいれば、調子に乗る馬鹿もいる。

『モンスターとかにやられちゃうと、近くに所持GODと装備アイテムとかが入った【livebox】を落としちゃうだよね?』

『そうだね、氷刃ワームのお腹の下に落ちてるね』

 配信者あるあるその3。自分でも馬鹿だな、と頭で理解してても、しててもだが、あ、これ今やったら再生数稼げるかも、バズるかもしれないという悪魔のささやきに魅了され、ついやっちゃう。これはまあ、時と場合で賛同はするが。お前らはどう思う?

『ギャアアアアアーーーー!!!!』

『ぐむゅちゃーーーん!!!』



―――悪姫ぐむゅぐむゅ、LOST―――


「あー、もうめちゃくちゃだよー」

「ですね、撮影はミスティーノちゃんでしょうか?」

「あー、その邪神ちゃん? 声だけで姿は見えないから、その子がカメラ片手に撮影しなが生配信してるのか」

 高難易度ネームド討伐生配信。悪姫ぐむゅぐむゅは氷刃ワームに頭から噛み付かれ、ビタンビタンと床に愉快に叩きつけられ、あえなくロスト。もうあれだ。国に帰れ。

『うわーん、どうしよう勝てないよー! 使徒君たち(リスナー)たすけてー!!!』

『今ご視聴して頂いている使徒のみなさん、私の名前は邪神ミスティーノっていいます。ぐむゅちゃんをこの世界にお呼びしました。可愛くて大好きなこの子に【異世界転生バトロワ】ナンバーワンのVチューバーにさせたいのです。だから、リスナーさんたちの力をかしてください!!』

 ゴスロリ衣装の悪魔の翼が生えた幼女が、画面から映りこんだ。この子がミスティーノか。というかこいつ、

「やりやがった」

「何がです?」

「わからないのか? 見ろ! コイツに対する同情コメと同接数! それにスパチャも少しづつ飛びはじめた!!」

 はじまった。配信者あるあるその4。唐突に、それとも計画的にはじまるスーパーチャットの嵐が。

「わ、わ、わ!!!」

 俺たちはぐむゅの配信を直視した。溢れかえる同情コメントが滝のように流れてゆく。金額に合わせての色取り取りのスーパーチャット、所謂投げ銭。2、3万も連投している馬鹿はどこのどいつだ。

「う、うそ!? このひとまで観てるの!! 
名だたる神々もスパチャしてますよ!」

「チィ! クソ! お前の知るミスティーノのてのは相当なやり手だ。いや―――」

 俺は脳裏に過った。ぐむゅとミスティーノが配信の裏でニチャア、とほくそ笑っているのが。ぐむゅぐむゅの入れ知恵か? それともこの2人鼻っから。

『すごい! すごい! みんなからのGODがこんなに!!』

『ありがとう! ありがとう! リスナーさん! 今は初日だから装備もレベルもキャップがかかって強化には限界があるけど、これなら勝てるかも』

 ぐむゅとミスティーノは作戦会議とかばかりに、氷刃ワームに見つからない物陰に身を潜め、集まったGODの数値をノートPCで確認する。すると、ミスティーノはゴスロリ衣装を翻し、何も無い空間から様々なアイテム展開する。その横には、必要なGODの値札が書かれていた。

「なるほど、あんたらは道具屋も兼ねてるのか」

「はい、推しの配信者様をサポートするために装備の販売とステータスの強化を行います。もちろん、先ほど伝えた通りこの世界の通貨であるGODが必要になりますが」

 ぐむゅはどれにしようかと、ミスティーノが出してきた装備品のいくつかを物色する。

『ミスちゃん、どれがオススメ?』

『そうですね、これなんかどうですか? あ~るぴーじセブン!(ダミ声)』

 RPG7。FPSとかでお馴染みのロケットランチャー! だ。て、この世界はファンタジーじゃねーのかよおい!

『いくつあるの?』

『50本! 全部撃てばたぶん勝てるよ!』

『おねがーい、全部ちょうだい!』

『まいどー』

 こ、こいつら、リスナーから集めたGODでロケラン50本買いやがった。別名、スパチャ砲とでも名付けようか。馬鹿か俺は! つうか馬鹿なのはリスナーたちだ。否、神々も含めた視聴者連中のコメントの盛り上がりが半端ない。俺たちの力で倒すだ。と言わんばかりにコメント欄の士気が高くなる。
 
 うおおお!
 買ったな。風呂入る
 ロケランを売るゴスロリ幼女のド〇〇もん草
 われわれの力をみせるとき(後方腕組み)

『いっけえええええええええーーーーー!!!!』

 ぐむゅはロケラン片手に氷刃ワームに向けて物陰から遠距離射撃。射程はおもってた以上に長いので、ヤツのデカい図体の攻撃が届かない位置から余裕で射撃できる。あとはまあ、わかるよな?

『はい次!』

『いいぞぐむゅちゃん。ドンドン撃てドンドン!』

 轟音に次ぐ轟音。ひとつ撃っては投げ捨て、何もない空間から瞬時にロケランを取り出し装填。発射の繰り返し。こいつ、やっぱFPSバトロワ出身者だけに熟れてやがる。それを踏まえて、あのミスティーノはロケランなんか仕入れてたのか。つまり、推しがもっとも得意とする装備を押さえておけば、このバトロワの攻略に繋がる。
 
 氷刃ワームに理由もわからないまま悶え苦しむ。喜々としてロケランをブッパするぐむゅとそれを撮影すミスティーノ。瞬く間に、


―――戦慄の氷刃ワーム―――討伐―――


「マジかよ、異世界転生バトロワ初日でネームドを倒しやっがった。インチキにもほどがある」

「ありっちゃありですね。でも、あのロケランは使い捨てですし次の入荷は1週間後。同じ手で別のネームドを狩る、というのは難しいかと。それに装備やアイテムの仕入れは神々に一存してますから」

「はぁ!? じゃああのミスティーノってのが鼻っから狙ってたてことじゃねーか!」

「だから私は言ったんです【魔王を倒してください】って」

 配信者たる必要スキルがだいたい揃っている悪姫ぐむゅぐむゅと、推しの趣向とその攻略に必要な、アイテムを仕入れている悪魔の商人こと邪神ミスティーノ。まさか、こいつらが優勝候補なのか。

『みんなありがとーー!!! このあと少したったら、運営さんから正式な異世界転生バトロワのルール説明とかがあるから、ご視聴はそのままに楽しみにしててね』

『リスナーさんたち、みんなの力を合わせてぐむゅぐむゅちゃんを優勝に導きましょう! それからですね、【nicepush】とぐむゅちゃんと私のチャンネル登録もお忘れなくよろしくネ』

 ふたりは無惨に横たわる氷刃ワームの上から、手取り合いリスナーに向けて投げキッス。コメント欄には、歓喜の雄叫びをにあげるリスナーたち。

 俺はぐむゅぐむゅの配信をそっと閉じた。悔しいが初動は完璧だ。リスナーに向けての、Vチューバーを中心としたこの異世界転生バトロワの宣伝にもなっている。これにより、配信者たちも徐々に動きを見せるだろう。

 すると、不意に天から女の子の声が響き渡る。


『えーー、ストリーマーさん、それからVチューバーのみなさんごきげんよう。私は今回の異世界転生バトルロイヤル。通称【異世界転生バトロワ推し戦争】の運営統括をさせて頂いているアザナミといいます』

『今度は声が入っております。アザナミ様』

 声の主は2人。そのアザナミとかいう神の声か。完全におこちゃまに聞こえたが。あとその側近っぽいお姉さんの声。たぶん巨乳だ(妄想)。

『よかったー、初配信にミュート芸は鉄板だけどね』

『ルール説明がだいぶ遅れてやや押していますのでお早めに』

『うわそうだった! コホン、まずストリーマーのみなさん、突然呼び出してごめんなさい。これは次の絶対神を決める為に設けられた神々のゲームです』

 何? 聞いてないぞ。

「そうなのかよ」

「ええ、まあ。と、とにかく聞いてください」

『自分たちでバトって決めても良かったのですが痛いのはイヤなので、最近流行りの推しのストリーマーさんたちに、特にVの人たちによるバトロワで決めませんか? とアルティナさんに相談されました』

「・・・は?」

「・・・」

「おいいいいいいー!!! 元凶お前じゃねーーーかーーー!!!」

「だって仕方ないじゃないですか! 戦神のトモエヒメちゃんとかに殴り合いになったらゼッタイ勝てないとおもったからー!!」

 こ、こいつ。自分の私利私欲でこの馬鹿げた異世界転生バトロワを始めたのか。

『なかなかナイスアイディアでしたね。私も推しがいるのですが参加できなくて残念です』

『そうだね。わらわも推しを召喚したかったけど、参加者にはたくさん知ってるVの子がいるから楽しみだよ』

 ちくしょう、こいつらもかよ。

『細かいルール説明は各担当の神々に聞いてほしいけど、ずばり! 優勝条件は一番GODを稼いだ人!』

『補足しますと総資産です。モンスターの討伐だけでなく、建築、テイム数、アイテムコンプ、装備強化などなど。中にはこの異世界オープンワールドを全てマップ走破といったものもあります』

『様々な条件達成すればそれに見合ったGODが最終日に加算されるよ』

『マップは4つのエリアです。今は【草原と森】と【雪原と雪山】しか解放されていませんが、1週間ごとにアップデートされてモンスターも増えます』

『装備とレベルキャップも解放されるから、頑張ってGODを集めて神々に貢いでね』

 神々のゲーム。現実世界のストリーマーやVチューバーを巻き込んだ異世界転生バトロワ。ようやく、その全貌が少しづつ見えて来やがった。

『参加者同士の対戦は自動で配信されるから気を付けてね』

『不正があれば即刻Banなり厳罰が下りますのでご注意を。それからミスティーノさん見てます? まだスタートの合図は出してませんが先ほどのは?』

『おもしろかったからいいんじゃない?』

『OKです。それからネームド12体の解放も期間の過程で随時解放します。倒したものは2度と現れませんしテイムもできません。あ、彼らはテイムコンプ対象外なのでご安心を』

 マズイな。本当にぐむゅに先を越された。

『ネームドをあんな方法で倒すなんて、わらわ驚いたぞ。さすぐむゅだ』

『ネームドは賞金首なので、報酬のGODが自動的に振り込まれます。お確かめください』

『協力して倒すと山分けだよ。早い者勝ちだね』

『ですね。それでは皆さん―――』


『『異世界転生バトロワ推し戦争スタートです!!』』


 けたたましいファンファーレが鳴る。クソ、悔しいが自然とテンションあがってきた。俺はもう一度、女神からノートPCを奪い取り画面を開く。動画サイトから推し戦争で検索すると、あれよあれよと生配信が始まっている。

「はぁ・・・とんでもねー祭りをおっぱじめやがったな、アルティナさんよ」

「残念なのが、現実世界の企業スポンサー様の提供をお断りしたことです」

「何故?」

「不正対策です。スパチャの額が違い過ぎますから」

「あー、下手すりゃ200万とか300万とか投資されてもね。萎えるわな」

「ちなみに、1週間後には数名限定でお助けプレイヤーを異世界転生できます」

「何!? サポートとしてでか?」

「ひとりじゃ大変ですもんね?」

「身の回りの世話は身内に頑張ってもらえと?」

「あくまで、我々はアイテム販売とステータス強化くらいですから。まあ、配信のお手伝いとかはできますけど」

「OK。だいたいわかった」

「さっそく、あなたも配信を?」

「いや、まだだ。他のストリーマーたちの様子を見たい。どんな参加者がいるか運営は発表してないだろ?」

 おそらく、何か意図があるのか。普通ならひとつの個所に集めて顔合わせなり挨拶なり、それから始めるはず。

 生配信を見る限り、もう散り散りになって、各々がGOD稼ぎを始めている。

「気になる方、います?」

「そうだな・・・お、【乱グレイ】先生じゃねーか」

「先生?」

「そう、プロの格ゲーマーで俺のコーチ。最近Vチューバーにもなったひと。とりあえず、このひとのライブでも見てみるか?」

 やってやろうじゃねか推し戦争。場合によっつちゃ、登録者数稼ぎにも繋がるか。



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