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「30歳まで理論」 と オフローズ

読書記録

小林賢太郎「僕がコントや演劇のために考えていること」

この本にはコントや演劇作りのHow toは書かれていない。タイトル通りそのまま、そのために「考えていること」が書かれている。そりゃそうだ。コントや演劇のHow toなんてあったら、世界中の舞台が一色になってしまう。そんなの耐えられないよ。

最初にこの本を手に取ったときはラーメンズにハマったばかりだったから、ただの大学生なのにこの本からラーメンズイズム(ズイズムって可愛い)を感じとろうと必死に読んだ記憶がある。でも1回読んで本棚にしまった。他人の考えなんて本で読んだ程度で自分のものになるわけない。そんなものだよね。

でも、本棚にしまってからも、ずっと頭の中に残っていた言葉がある。


30歳まで理論

”  30歳までの自己投資は30歳以降に効いてくる  "

要約するとこれ。30歳までは貯金せず、観たいものを観て、行きたいところに行って、読みたいものを読む。そのためのお金は惜しまなくていい。30歳以降に効果が出てくるから。というもの。

当時お金のなかった大学生の私にとってこの考え方はかなり魅力的だった。この言葉を言い訳みたいに使って、観たい舞台や読みたい本にお金を注ぎまくった。私はこれを勝手に「30歳まで理論」と呼んで信仰している。

信仰心は意外と強く、25歳で仕事を辞めた。自分でもびっくり。
30まであと数年じゃん!と気づいて、あわてて計算したのだ。

今の貯金を全て使ったら、もう1度大学に行ける!
しかも4年通ったらギリギリ30まで間に合う!!!

ということで仕事を辞めた。大学に行き直すのは元々やりたかったことではあるし、働き始めたときからなんとなく、” 数年でやめてもう一回勉強するだろうな ”という予感はあったけど…。正直本当に実行に移したのがびっくり。でももっとびっくりしたのが、周りの誰からも特にびっくりされなかったこと。このときはさすがに、周りからどう見られているのか心配になっちゃった。

このギャンブルは、かなり危ない。そもそも数百万かかるし、結果が出るのが4年後以降。どんな賭け事よりもギャンブル性が高いかもしれない。
この1年は入試の勉強に当てた。正直、めっちゃ楽しい。でも友達が結婚出産を迎えていくなかで、私は学費にフルベット。怖くないわけない。でも私には「30歳まで理論」という味方がついてるから。大丈夫大丈夫。あと普通に、この年で勉強意欲と向上心に溢れてるのってかっこいいから。普通に。大丈夫大丈夫。4年後以降に答え合わせをするのが楽しみだね。

オフローズ

そんななか、勉強の傍でコントにハマった。
貯金はあったけど、ニートの分際で舞台チケットにばかすかお金を使っていたら学費まで消えちゃうかもしれないから…。お笑いって安いしコントってほぼ演劇じゃん?と思って、観劇を休憩してお笑いにシフトチェンジ。これも勉強ですからって顔をして観に行った。これも勉強っていうのは全然ウソ。

いろいろ見ていって、好きだなって思ったのがオフローズ。
めちゃめちゃ構成がしっかりしているコント・漫才でおもしろい。そしてめちゃめちゃ構成がしっかりしているのに、突然全てを諦めたかのように「死ね」とか言い出す。砂で作った綺麗なお城に、一気に水を放つような感じがある。お城を建てるおもしろさも、一気に壊すおもしろさも、どっちもあって好き。諸行無常を感じることさえある。

ネタを書いているのは宮崎さんらしい。
この人、書初めの宿題とか、半紙5枚くらい貰っても1枚しか書かなさそう。もっというと最初こそ綺麗に書けていたのに、半紙に墨汁がちょっとついちゃった瞬間に全部どうでもよくなってテキトーに書いて、書き直しもせずにそのまま提出しそう。本気で書いたらめっちゃ上手いのに、みたいな。
学生の頃は隣の席のこういうやつが嫌いだったけど、教員だった頃はむしろこういう作品が大好きだった。
作品に自分の人柄を出せるのって才能。
あと、そういう作品はなんか愛おしいよね。
宮崎さんのお人柄は全く存じ上げないので、すごい勘違いしてる可能性が高い。どこかから怒られそうだ。

そんな宮崎さんが、ラジオで
”  30までに結果が出なかったら辞めるって父親と約束していたのに、そもそもその約束を忘れていてもう次で32になっちゃう  "
みたいなことを喋っていた。

焦った。私の「30歳まで理論」が、急にここで答え合わせされちゃうかと思った。私はまだ大学に入り直してもいないのに。困るよ、マジで。
マジで!冗談じゃなくて!!

結局のところ  ”そもそもその約束を忘れていて " って言い始めたあたりで、私の焦りは解消されていった。お人柄を知らないのに、忘れそうだよねって思ってた。 ” 次で32になっちゃう "に話が落ち着いたので、特に答え合わせもなかった。安心だ。でも芸人さんも、どこかで見切りをつけなきゃって思うことがあるんだな。「30歳まで理論」が悪い方に向くと、「見切り」とか「限界」とかっていう言葉に変換される。そんなの、嫌だなあ。


「○歳までに〜」とか、そんなつまらないこと言ってないで、ずっとコントを書いていてほしい。こう思っちゃうのは、私がオフローズの人生になんの責任もないからなんだけど。でもさ、ヒーローって知らない人のことも助けてくれるじゃん。ヒーローになってよ。「30歳まで理論」の答え合わせなんてしないでさ。ずっと夢見させてよ。主催ライブの客席が埋まってなくてもさ、絶対書くの辞めちゃだめだと思うんだ。だっておもしろいじゃん。おもしろいって、絶対自分でも思ってるでしょ? 書くことで命を救うわけじゃないけどさ、そういうヒーローがいてもいいじゃん。「○歳までに〜」とか言っちゃうの本当につまんないから、今後二度と言わないでよ。

と、ここまで一人で勝手に思って我に返った。
宮崎さん、全然辞めなさそうだよなあ。
よかった。ヒステリックニートが誕生しちゃうところだった。危ない。

いつか手の届かないところまで売れて、” 下積み期間なんてありませんでしたけど? " みたいな顔をして「死ね」とか言ってるオフローズを見たい。欲を言えば、そのときに私も「30歳まで理論」の答え合わせができていたら最高。

ラジオ、おもしろかったな。
オフローズのラジオを聴いて、信仰心にブレがないか確かめるために小林賢太郎の本を読み直した。ブレるどころか強まっちゃってる気がする。ギャンブルの才能があるのかもしれない。


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