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【怖い話】 オーライ! 【「禍話」リライト 29】



 九州の、どこかのコンビニの駐車場の話。


 そこの駐車場では、昼と言わず夜と言わず、フロント部分を前にして停めている車が一台もないという。どの車も頭から駐車スペースに突っ込んで、道路の方にお尻を向けている。
 どうしてそんな風に停めるのかというと、バックで車を入れようとすると、全然知らない男と女がバックミラーに写るのだという。
 その見知らぬカップルは、曲げた両腕をクイッ、クイッと招くように動かしながら、
「オーライ! オーライ!」
 と言ってくるらしい。

 いやぁ~、ちょっと怖いよねぇ~。



 …………そんなちっぽけな怪談を伝え聞いた、Sという男がいた。
「あれぇっ?」
 そういえばウチからちょっと走ったトコにあるコンビニの駐車場、みんな車を頭から突っ込んで停めている気がするな……。

 もしかして、あそこのコンビニが、この話のコンビニなのかな?
 よし、じゃあ一丁そこに行って、車をバックで突っ込んでみるか!!



 そいつは車の脇腹をこすって帰ってきた。
「もしかして、出たの?」と聞くと、シュンとした顔で「出た…………」と答える。
「メッチャ怖くて焦って、道路に出る時、こんなトコじゃ普通こすらないだろってところでこすっちゃった……」
 これ、直すのに2万くらいかかるんだよね……と落ち込むSに、お前そんな無茶なことするからそんな目に遭うんだよと言ってやった。

「……で、やっぱりお前、バックで入れたの?」
「うん……。どうせなら、と思って、丑三つ時に行ったんだけどさ……」
「バカだなぁ~。…………それで、やっぱり出たんだ? カップルのオバケ」
「出たよ…………」
「話の通りだった? 駐車場に2人で立ってて、『オーライ! オーライ!』って手を動かしてるのが、バックミラーで見える、って……」
「…………そんなんだったら車をこするほど焦らないよ…………」
「え? 何か話と違ってたの?」
「確かにバックミラーにさ、『オーライ!』って言ってるカップルが写ったけど、
 そいつら、駐車場にはいなかったんだよ…………後部座席にいたんだよ」



 九州の、どこかのコンビニの駐車場の話。

「ねぇ、それどこのコンビニ?」と聞いてみたが、「言わねぇよ……バカ……」と叱られたそうである。



【おわり】

☆本記事は、無料&著作権フリーの怖い話ツイキャス「禍話」
 燈魂百物語第零夜 より、編集・再構成してお送りしました。

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