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【怖い話】 かけこみトイレ 【「禍話」リライト83】
怪異は、よくわからないうちに急に来る。
地方都市の郊外にある巨大スーパー。Cさんはそこに夜、買い物に行った。買い忘れがあったそうである。
時間は9時50分、有線が「蛍の光」を流している。店内に客の姿はなく、店員さんたちも「いやぁ、今日もやっと閉店だ」といった雰囲気を漂わせている。
悪いなぁギリギリに……と思いつつ、買うものは決まっているので小走りで売り場まで行く。カゴに入れてレジへと急いだ。
時計は9時55分。よかった、間に合った。
会計を済ませて商品を袋に詰めていた時だった。
「わぁ~! トイレトイレトイレ~!」
小1くらいの男の子が声を張り上げながら駆けこんできて、レジのそばにある男子トイレに入った。
ははぁなるほど、とCさんは袋詰めをしつつ考える。
家族で車に乗っていたら、オシッコが我慢できなくなったといったところか。
まったく子供はしょうがねぇなぁ。しかし夜10時に郊外とは、どこか旅行にでも行った帰りかな。ほほえましいもんだ……。
などと思いつつ袋詰めを終えた頃、妙なことに気づいた。
トイレの中からぱったりと、物音がしない。
出入口にはドアがないので、ちょっとした音でも聞こえるはずだ。
さっき「わぁ~!」と叫んで駆けてきた、うるさい子供だったのに。
あれだけ元気なら、トイレの中でもわぁわぁ騒ぎそうなものだ。「ふぅ~」とか、「はぁ~よかったぁ~」とか。
万が一間に合わなかったとしても、泣き声くらいは聞こえてくるだろう。
それが姿が消えた途端、死んだように静かになってしまった。
もう間もなく10時である。
レジ近くにいた店員さんも「ん?」「あれっ?」と思っているようだった。顔を見合わせてはてな、出てこないな、といった表情をしている。
一人がトイレまで歩いて、中に入った。10秒もしないうちに出てきて戻ってくる。
Cさんは袋を手にしてから、彼らの様子を眺めていた。困惑した顔と口の動きで会話の内容がだいたいわかる。
「あの、いないんだけど……?」
店員さんはもうひとりに言う。
えっ、いないの? とCさんは思った。
「え。ウソでしょ」
「いや、いないよ……」
「そんなワケないでしょ……窓も……」
ここのトイレの窓ははめ殺しというやつで、開かないようになっている。
「女子トイレ?」
「男の子だったと思うけど」
あれは男の子だったし、男子トイレに入ったのをCさんは見ていた。
「もう出ちゃったのかな」
「いやぁそれは……」
騒がしい子が来たので、みんな見るとはなしにトイレに目をやっていたはずである。
あれ……? うん……?
店員さんたちが集まってくる。どういうこと……? みたいな空気が漂ってくる。
Cさんもいやぁ、なんだかよくわかんないな……とボンヤリした気分になった。
それはさておきもう10時だった。Cさんはモヤモヤしたものを抱えつつ、店を出た。
駐車場にはCさんの車と、隅の目立たぬ場所に店員さんのものらしい車、数台しかない。
トイレに行った子供を待つ、といった位置には車も、人影すらなかった。
車に乗ってエンジンをかけ、マンションへと帰る。
駐車場に車を入れ、荷物と共に降りて、常夜灯の照らすアスファルトを歩く。
その間もずっと、Cさんの頭の中からあの店、あの男の子のことが離れなかった。
いくら考えてもわからない。煙のように消えてしまった、としか思えない。
Cさんの住むマンションは、駐車場から建物へ行くのに長い階段を上がらなくてはならない。けっこうな急勾配で、体力を使う。
はてなぁ、あれは何だったんだろう。
悩みつつ上って、中ほどまで来た時だった。
下から、
「わぁ~! トイレトイレトイレ~!」
は? とCさんは振り向いた。
さっきの男の子が、すごい勢いで階段を駆け上ってきた。
──あんなに走ったのは久しぶりでしたよ、とCさんは言う。
全力で階段を上がってマンションに走った。一瞬も足を緩めずに部屋まで行ってドアを開けて鍵をかけた。
同居人に「どうしたの……?」と尋ねられても、息が切れるのと恐怖でしばらくは口もきけなかったそうである。
Cさん曰くお店にも、マンションにも、駐車場にも、因縁話などはない。
こういうモノが不意に、なんの前触れもなしに現れることが、世の中にはあるらしい。
【完】
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★本記事は無料&著作権フリーの怖い話ツイキャス「禍話」、
シン・禍話 第四十九夜 より、編集・再構成してお送りしました。
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